【既に全国5千を超える医療機関や薬局が導入】マイシン・原聖吾の「医療データ活用」ビジネス
財界オンライン / 2022年7月21日 7時0分
コロナ禍3年目に入り、医療を支える国が深刻な財政難に陥る中、質の良い医療をどれだけ効率的に届けるか─。そんな課題に取り組んでいる医療ベンチャーがある。東大卒の研修医からIT企業を立ち上げた原聖吾氏率いる「MICIN(マイシン)」だ。主力事業はオンライン診療だが、医療データを活用し、病気中の患者が入れる保険や治療用アプリも開発。医療データを軸に医療関連ビジネスの領域を広げている。
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「バーチャル待合室」で医師・患者双方の使い勝手を向上
「医療に関するデータなどテクノロジーを活用することによって、健康なうちからリスクを知り、将来の病気の可能性を知ることができるのではないか。病院に来る患者は後悔の念を持っている。その間を埋めていきたい」─。2015年創業の医療ベンチャー・MICIN(マイシン)代表取締役CEOの原聖吾氏はこのように語る。
同社のサービスは患者と医師・薬剤師などの医療従事者をオンラインでつなぐ「オンライン医療」から新薬開発に欠かせない「臨床開発デジタルソリューション」、患者特性や症状・状態に関するデータを収集・分析し、デジタル技術を用いて診療や患者生活の支援を行う「デジタルセラピューティクス」、そして、「保険」事業も手がける。
中でもオンライン診療は同社の知名度を高めたサービス。16年から提供を開始した同社のサービス「curon(クロン)」を導入している医療機関は5000を超える。業界でも最大手だ。
クロンの特長は「診療から薬の受取りまでの全ての業務がオンラインでつながっており、薬の配送に関する医療機関側の負担が軽減される」(同)点だ。クロンは診療後に発行する処方箋をファクスで薬局に送ることで、診察からオンライン服薬指導、薬の配送まで一気通貫のサービスを患者に提供できる。
原聖吾・MICIN代表取締役CEO
薬局向けの「クロンお薬サポート」は全国でチェーン展開する薬局から中小・個人経営の薬局まで5000店舗以上で導入されている。配送はヤマト運輸と提携しており、薬の集荷から配達までを任せている。
また、患者目線でも利便性を高めている。それが「バーチャル待合室」型式だ。オンライン診療に慣れていない医師や患者でも馴染みやすい環境を整備。「これまでは医師が患者にビデオ通話をかけていたが、待合室型にすることで患者が待っている状況を医師に分かるようにした。医師と患者の双方にとって接続時の煩わしさがなくなる」と原氏は話す。
昨年夏の新型コロナ感染拡大が相まって医療機関側のオンライン診療への垣根が下がった。それまでは「医師100人に提案しても、99人くらいは『診療は対面でやるものだ』という反応だった」(同)。そんな中で風向きが変わる。昨年4月にクロンが品川区医師会で採用されたことを皮切りに、東京都医師会、広島県と一気に広がった。
しかし原氏は「聴診器で胸の音を聴いたり、触診などオンラインでは実現できないことがある」と課題を挙げ、クロンの磨き上げにも取り組んでいく考え。
マイシンを支える事業はオンライン診療だけではない。オンライン診療から派生したのが臨床試験のデジタル化を推進する「MiROHA(ミロハ)」だ。治験中の患者と治験実施病院とのコミュニケーションにビデオ通話という新たな手段を提案する。
「被験者が治験実施病院に来院する頻度が少なくなって被験者を募集しやすくなり、治験データをデジタル化して製薬メーカーと共有することで生産性も上げられる。また、治験の期間を短くすることにもつながる」
大手がやらない保険を開発 治療用アプリも普及へ
加えて、マイシンの強みとなっているのが「保険」事業。傘下のMICIN少額短期保険が昨年8月に乳がんなど女性特有のがんの再発時に保障する保険を発売。がんの治療中でも再発に備えて加入できる点が特長だ。
原氏は「これまでの保険は健康な人が病気になったとき、あるいは亡くなったときに保障するものだったが、当社の保険は病気の患者をターゲットにしている」と語る。それができるのは同社が蓄積してきた〝医療知見〟があったからだ。
一般的に保険会社が保険商品を設計する際、標準生命表、患者調査票といったデータを活用するが、これらのデータは荒く、医療技術の進歩によるがんの生存率の上昇などを十分に反映できていなかった。
しかし、マイシンが参照するデータは病院の保有データや臨床に近いデータなど、専門的かつ詳細なデータを扱っている。そのため、通常であればリスクが高いと見られる患者でも同社が独自にリスクを分析し保険を開発。大手保険会社では手掛けにくい領域に対応している。
さらに今後は「治療用アプリ」の普及を進める考え。同社はテルモと組み、糖尿病の患者の生活習慣や服薬情報をアプリに記録し、医師と共有できるアプリの開発に取り組んでいる。デジタル技術の活用で治療を効果的に進めることを狙う。
「薬、そして医療機器での診断・治療に続く〝第3の診断・治療のソリューション〟にしたい」と原氏は強調する。このソリューションを活用することで、途中で治療をやめてしまって重症化する患者を減らせると見る。
そんな原氏は東京大学医学部卒業後、研修医として医療現場を経験。目の前で「こんなはずじゃなかった」と患者が自らの人生を悔やむ姿を見て「常に何らかの選択肢がある環境をつくりたい」と考えた。
医師を辞めた後、第1次安倍内閣時に内閣特別顧問だった黒川清氏の政策秘書を務め、「医療政策や制度がどのようにつくられていくかを学んだ」。マッキンゼー、日本医療政策機構を経て15年に起業したという足取り。
「もっと医療データを活用すれば健康づくりや治療の選択肢を増やすことができる」と原氏。デジタル化が求められる医療業界でマイシンがどこまで風穴を開けられるかが勝負となる。
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