「経営は人なり」を信条に、『財界』創刊70周年を迎えて【私の雑記帳】
財界オンライン / 2022年7月30日 11時30分
創刊70周年を迎えて
『経営は人なり』─。本誌『財界』の信条である。
『人』を中心に据えたビジネス誌として『財界』誌が創刊されたのは1953年(昭和28年)8月。間もなく創刊70周年を迎える。
創刊者・三鬼陽之助(1907─2002)が東洋経済新報社を退社し、日本の産業界を引っ張る経済人・経営者に直接会って取材し、生き生きとした人物像を描こうと『財界』誌を興した。
パナソニック(当時の社名は松下電器産業)の創業者・松下幸之助、ソニーグループ(当時はソニー)の共同創業者・井深大や盛田昭夫といった戦後日本を牽引した経営者たちにも本誌で力強く情報発信していただいた。
『人』をどう評価し、人物論をどう記述するか。これも、実は難しいテーマである。
三鬼は記事を書く場合の判断基準について、「是々非々で臨む」と筆者に語ってきた。
是々非々─。1人の経営者が業績を上げ、会社経営も絶好調だとして、全ての点で高評価するというのではなく、課題はいつでも存在する。「この部分は是として、ここの所は非、つまり改善・改革を進めていくべき」という是々非々論である。
客観的に記述することが大事ということだ。同時にその「人」の長所や美点、素晴らしい所はしっかり記していくべきだと思う。
時代の転換期にあって、『財界』誌は『人の雑誌』として編集・出版活動を続けていきたいと思う。
非民主主義国が多い中で
21世紀に入って22年目。2年半に及ぶコロナ禍に加えて、ロシアのウクライナ侵攻が始まって5カ月近くが経つ。相手国の主権を踏みにじり、軍事侵攻に踏み切ったロシアは国際法違反だが、同国は「ウクライナ南部を解放した」と〝解放〟という言葉を使って世界にアピールする。
民主主義国とそうでない非民主主義国(専制・覇権主義)は87か国対92か国と、現在では非民主主義国の方が多いという指摘もある。
価値観や文化の違いをまざまざと見せつけられるが、その中で問題解決をどう図っていくか。
複雑な国際環境の中で、日本はどんな役割を果たしていけばいいのかという課題。
日本は図らずも、周囲をロシア、中国、北朝鮮、韓国の4カ国に囲まれている。このうち3カ国は専制国家。韓国とは同じ民主主義国家だが、慰安婦問題などで常にギクシャクとしている。
しかし、南の海域には親日的なASEAN(東南アジア諸国連合、10カ国)がいるのが心強い。
日本は来年1月から2年の期限で国連の非常任理事国(10カ国)の一員となる。ASEANや欧米など価値観を共有できる国々との連携で、一歩でも前進できる解決策づくりに動きたいものだ。
IPEF(インド太平洋経済枠組み)やQUAD(日米印豪)など新国際秩序づくりも進む。日本の使命は何かを考えさせられる。
民間の力で潜在力を……
民間人の力で、日本の潜在力を掘り起こしていこう─という民間臨調の動き。
日本が〝失われた30年〟に入る頃の1992年(平成4年)に発足したのが『民間政治臨調』。亀井正夫さん(住友電工元会長)がリーダーとなって改革への提言を取りまとめ、小選挙区制の導入などに動いた。
次が2003年(平成15年)の『21世紀臨調』。茂木友三郎さん(キッコーマン名誉会長)や佐々木毅さん(東京大学元総長)らが中心に提言活動を行い、政党が選挙に臨む際のマニフェスト(政権公約)を用意すべき─といった運動を巻き起こした。
そして今回、この6月に発足した『令和臨調』である。
共同代表の茂木友三郎さんは「この民間臨調はしばらくお休みをしていたのですが、ここ数年、いろいろな方面から、ぜひもう一度やってくれというようなご要望をいただきまして、それで今度発足したということです」と語る。
民間臨調設立への要望が強かったということは、それだけ日本の現状に対する不満が強いということ。前向きに捉えれば、現状を改革して一歩でも前進していこうという国民の意志の強さであろう。
では、『令和臨調』の役割と使命は何か?
なぜ今、政治改革か
「1つの政治改革をやると、これまでの2つの臨調の続きという面もあります。今までの政治改革でまだ手がついていないもの、一番やりたいと思っていることの1つは国会改革なんです」と茂木さん。
国会審議では、総理大臣も各大臣も、全大臣が張り付く。このことには、もともと、天下国家を論ずる議案ならばまだしも、そうでもない議題もあり、世論にも「生産性が悪い」という声があった。
岸田文雄首相は国会開催中の6月、ウクライナ問題を話し合うNATO(北大西洋条約機構)の会合に急遽参加したが、こうした機敏性はもっとあってしかるべき。
日本の存在感を示すという意味でも、歓迎される動きである。
小選挙区制では、あまりにも政治家が〝小粒〟になったのではないかという声も根強い。そして、政党の存在意義とは何かと政治の根底を問うためにも、政党法を制定すべきという声もある。
活力ある国にするには?
そして、借金大国・日本の財政構造改革である。2021年度の税収は増えて67兆円という数字が流れたが、コロナ禍で歳出は膨れ上がり、全歳出(約140兆円)の半分にも満たない水準。国債頼みの危うい財政は日本の国力低下につながっている。
GDP(国内総生産)世界3位の日本も、1人当たりGDPでは31位。シンガポールや香港にも抜かれ、韓国がひたひたと近づき、近い将来、日本を抜き去るという見方もある。
人口減・少子化・高齢化の続く日本。国が抱える問題について、「民間が言い出して、それを政治家が取り上げて実現していく、ということを是非やりたいと思っています」と茂木さんは語る。
日本を活力ある国にしていくためにも、臨調の動きを盛り上げていきたいものだ。
貝印の『謙虚であれ』
刃物の世界で『世界の3S』といわれるのが、日本の関(岐阜)とゾーリンゲン(独)、そしてシェフィールド(英)である。
その関を本拠にカミソリ、包丁など刃物を中心に家庭用品約1万点をつくり続けているのが貝印。
創業は1908年(明治41年)で114年の歴史を数える。
3代目で会長の遠藤宏治さんに伝統の中で新しい製品を開発し続ける『貝印』の経営哲学を本号で聞いた(インタビュー欄参照)。
遠藤さんが社員に説き続けるのは一番目に「謙虚であれ」、二番目に「誠実であれ」ということ。そして「発想」、「感謝」と来て、五番目に「颯爽」。経営信条も切れ味がいい。
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