〈経済安全保障の再構築〉国と企業はどう向き合うべきか? 答える人 明星大学経営学部教授 細川 昌彦
財界オンライン / 2022年7月22日 7時0分
「経済安保推進法」と共に第二の矢が大事!
―― コロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵攻と、世界中が新たな危機に直面しています。その中で、経済安全保障が大きなテーマとして登場してきました。経済産業省でかつてこの問題に取り組んでおられた細川さんは、現状をどのように見ていますか。
細川 ロシアがウクライナを侵略した直後、欧米各国がロシアに対して一斉に経済制裁へ踏み切りました。中でも、国際的な決済システム「SWIFT」からの排除といった金融制裁だけでなく、半導体、工作機械など幅広い品目でのハイテク禁輸措置を即座に主要7カ国(G7)で合意して実行したというのは初めてのことです。
これが意味するメッセージを見逃してはいけません。つまり、単純にあれはロシアに対する制裁だということだけでは狭すぎる。アメリカの識者も言っているように、これはロシア制裁だけで留まる問題ではない。中国に台湾侵攻を抑止するため警告のメッセージになるということです。
今までの経済制裁は基本的に国連決議に基づいて行っていたんですが、ロシアと中国が常任理事国として拒否権を持っている限り、今までの枠組みでは脅威に対抗できないので、日米欧で禁輸措置の合意の枠組みをつくる必要がある。これが今後の新しい国際秩序の枠組みをつくっていく素地になり得るのです。
―― 要は、いかに新しい国際秩序をつくっていくかと。
細川 はい。まず大事なことは、安全保障の世界では、前提となる脅威が何なのかということです。この場合、欧米や日本にとって脅威となっているのは中国ですよね。
その中国がどんな意図を持ち脅威になっているのか、そして自分たちは何を守るべきなのかをはっきりさせることが大事です。そうした共通認識をしっかりしないといけない。
ところが、今の日本は何が脅威で、何を守るべきなのか。この共通認識が官と民で十分共有できていない。わたしはここに危機感を持っています。
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―― 岸田政権の看板政策の一つが経済安全保障政策で、5月の通常国会では「経済安全保障推進法」が成立しました。このこと自体はどう考えますか。
細川 これはすごく大事な法律で、主に供給網(サプライチェーン)強化、基幹インフラの安全確保、官民による先端技術開発、特許の非公開という4本柱で構成されています。
これは各メディアで報道された通りです。実はそれに加えて、先般出された「骨太の方針」では、さらに今後の新たな取組みが盛り込まれていることに注目すべきです。今の経済安保法の4本柱を「第一の矢」とすると、「第二の矢」と言ってもいい大事なポイントです。
一つは日米欧による新たな輸出管理の枠組みをつくっていこうと。これは半導体製造などを念頭にしたものです。今まで国際的な輸出管理は30~40カ国が参加する国際レジームで議論していたんですけど、ロシアや技術に無関係な参加国がいると合意できないわけです。
全会一致の合意でしか動くことのできないような国際的な枠組みというのは機能しなくなっている。だから、冷戦後にできた枠組みは古くなったので、今の地政学的な状況にあった形でつくり替えなければならない。
ですから、輸出管理の新しい枠組みをつくるというのは大事なポイントです。
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―― 輸出管理の枠組みというのは、今後の企業の国際的なサプライチェーンを考える上でも大事ですね。
細川 ええ。二つ目は外為法(国の安全保障の観点から必要な場合に輸出入や投資を制限できる法律)に基づく投資審査。今は指定業種が狭すぎるから、これを見直して、半導体関連などの戦略業種を広げていく。虎の子の技術を持っている企業が技術入手を狙った中国企業に買収されたら困るので、対象となる業種を広げる方針でしょう。
そして、三つ目が国にとって不可欠な技術を有する企業の資本強化を支援する。これは基幹技術を持った企業も資本力が弱い結果、買収の標的になりかねないので政府が資本強化の支援をするというわけです。日本のメディアはこんな大事なことをなぜ見逃して報道しないのかと首を傾げますが(笑)。
経済安保法に盛り込まれた「第一の矢」の話はすでに多くを報道していますので結構知られていますが、今後の経済安全保障政策の肝を見逃してはいけません。これは日本が今、直面している深刻な問題で、とても重要です。
続きは本誌で
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