全銀協・半沢淳一会長に直撃!これからの時代の銀行の役割とは?
財界オンライン / 2022年7月25日 18時0分
「危機が同時多発したとしても耐えられるような強靭さを確保していく」と話すのは、全国銀行協会会長に就いた、三菱UFJ銀行頭取の半沢氏。コロナ禍、ロシア・ウクライナ問題、米国の金融引き締めと、複雑に絡み合った状況下、企業・個人を支える銀行の役割は重い。一方、デジタル化など、世の中の変化に対応し、自らの姿を変えていくことも大きな課題。この時期に銀行界をどうカジ取りするか。
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日本経済を成長軌道に乗せるための支え手として
─ 長期化するコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、米国の金融引き締めなど、外部環境は渾沌の度合いを深めています。このような中での全国銀行協会への就任ですが、抱負から聞かせて下さい。
半沢 足元はパンデミック、地政学リスクなど、複雑、多様に絡み合ったリスクが顕在化しており、非常に先行き不透明な状況だと思っています。
リスクが顕在化し、危機が同時多発したとしても耐えられるような強靭さの確保、さらには新たな価値創造、成長への挑戦を可能とするような社会環境の整備が不可欠だという問題意識を持っています。
銀行としても、お客さまからの信頼の根源となる安心・安全は普遍的役割と認識をした上で、日本経済を成長軌道に乗せていくための支え手として、しっかり責務を果たしていきたいと考えています。
─ 全銀協としては、どんな取り組みをしていきますか。
半沢 具体的な活動方針としては、第1に「金融起点の多様なサービス提供を通じたお客さまや社会への貢献」です。
何と言っても、ウィズコロナ、ポストコロナを見据えた資金支援は、引き続き最優先事項の一つです。
また、この秋にはG20(金融・世界経済に関する首脳会合)、COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が控えており、昨今の環境意識の高まりを踏まえて、カーボンニュートラル実現に向け、産業界と一体となって取り組んでいきたいと思っています。
また、「貯蓄から投資に向けた取り組み」は、かねてから銀行界として取り組んできていますが、「新しい資本主義」の中でも「資産所得倍増プラン」として掲げられていますから、我々も一緒に、こうした動きを加速させていきたいと思っています。
また、関連して今年4月から高等学校家庭科で、資産形成の視点に触れるなど金融経済教育がある意味で必修化されました。すでに日本証券業協会との取り組みも始めていますが、これにもしっかり取り組んでいきます。
─ このコロナ禍で、日本のデジタル化の後れも顕在化しましたが、どう取り組みますか。
半沢 まさに第2の取り組みとして、「デジタル化を踏まえた安定的かつ利便性の高い金融インフラの実現」を掲げています。
今年度は全銀協、銀行界として、決済インフラ周りでいくつかの大きな節目を迎えます。1点目が「全銀システム」(全国銀行データ通信システム)のノンバンクへの開放拡大、2点目が手形・小切手機能の電子化で、この秋には電子交換機を稼働させます。これを足がかり
に、2026年の全面廃止につなげていきます。
加えて、銀行界として、多頻度の小口決済を安価な価格で実現するシステム「ことら」を、この秋に稼働させますから、こうしたことをしっかり実現していく年度になると思っています。
─ 先程触れられた、強靭さの確保という点では、どのようにインフラを強化していきますか。
半沢 重点的に取り組む活動の3点目として、「健全性・信頼性を確保した強靭な金融システムの維持・向上」があります。
マネーロンダリング対応の点で言えば昨年度、国際組織であるFATF(金融活動作業部会)から正式な結果通知が来ましたが、具体的かつ、しっかりとした施策を実行していく必要があります。
また、先の通常国会で「経済安全保障推進法」が可決しましたので、金融システム、インフラの面で我々にどういうことが求められるかも含めて、金融当局とコミュニケーションしながらしっかり取り組んでいきたいと思っています。
変化のリスクを見極めてチャンスに結びつける
─ ロシアのウクライナ侵攻、米国の金利引き上げなどの要素もあり、物価上昇、為替の円安が進んでいます。この現状と今後をどう見通していますか。
半沢 ロシア・ウクライナの動向は長期化しており、まだ全体的な総括ができるような状況にはなっていませんが、動きとしては西側諸国が経済制裁をし、ロシアが対抗措置を打っている中で、エネルギーや原材料の取引に様々な制約が生まれました。
これが航空、物流といった輸送に影響し、これが物価上昇を加速させた結果として企業収益の悪化、消費の下落など、日本経済にとって負の影響が徐々に顕在化しつつあると見ています。
そこに物価上昇を抑えるための金利上昇が重なってくれば、二次、三次的に様々な影響が広がってくるということだと思います。円安の局面だけを見ると、我々のように海外展開をしている企業にとっては海外で収益を上げていればプラス要因がある一方、B/S(貸借対照表)を見ると、円安によってリスクアセットが増えることで自己資本比率の低下要因になります。
また、我々が保有している有価証券は、この金利上昇局面で時価が低下しており、結果として含み損が拡大している状況です。以上は目に見える事態です。
一方、まだ見えていないのが、この物価上昇やロシア・ウクライナの状況を踏まえた、我々のお客さまへの影響です。例えば、製造業であれば製造したくても部品が1つ足りない、作っても納入できずに売り上げが立たないという事態について、我々は資金繰り支援をしていきます。
この状況が悪化してきた時には、我々の与信費用の増加につながるという流れになってくるのだと思いますが、現時点ではそこまで明確な動きにはなっていません。
様々な多角的な要因がある中で、今後どのように動いていくかを注視しているというのが足元の状況です。
─ 非常に難しい状況下でのカジ取りになりますが、その中に商機を見つけていくことが大事になりますね。
半沢 そうですね。変化があるからこそ、我々にとっては商売のチャンスになります。ただ、そこはしっかりとリスク管理ができることが大前提です。これだけの大きな変化のリスクを見極め、それを管理しながら、この変化をビジネスに結び付けていくことが大事ですが、同時に厳しい状況でもあります。
─ 銀行の顧客である企業の経営がどうなるか見えにくい中で、各銀行がより一層、きめ細かに顧客の状況を見ていかなくてはならない局面ですね。
半沢 そう思います。1つの傾向を取ってみても、お客さまごとに共通に影響が出ているわけではありません。
円安も、輸出型製造業にとっては、恐らく現時点でもまだプラスに効いていると思います。一方で、輸入物価の上昇、ロシア・ウクライナの問題で資源価格が高騰していることなどが相まって、輸入型企業にとっては非常に厳しい局面でもあります。
ですから1社1社、状況を丁寧に把握して、お客さまのニーズにしっかり応えていかなくてはいけません。その意味で、今の状況は銀行界にとって、腕の発揮どころだと思っています。
─ 資金だけでなく、ソリューションを提供すべき場面も出てくるでしょうね。
半沢 ええ。典型的なのは、サプライチェーンを再構築、あるいは見直しをしなければならない時に、新たな仕入先などをビジネスマッチングでご紹介する、事業再構築に関するコンサルティングをする、あるいは事業が厳しく後継者もいない場合には事業承継も含めたM&Aをご紹介するといったことが考えられます。
どのお客さまも経営課題を抱えていますから、我々銀行は、その経営課題に一つずつ寄り添って、それぞれのお客さまにふさわしいサービス・商品を提供していくことが大事になります。
デジタル化で銀行はどのように変わるのか?
─ 活動方針の中でも触れていましたが、改めて銀行界としてデジタル化にはどう向き合っていきますか。
半沢 非常にわかりやすい例で言えば、銀行における事務プロセス、業務プロセスは、間違いなくデジタル化によって強靭かつ効率的なものにできますし、していかなくてはいけないと思っています。
また、お客さまとの接点においても、デジタルを活用した接点のあり方と、対面のあり方とを峻別していかなければいけないと考えています。
手続きなどについては、事実上ネットで完結してしまうと。逆に言うと、選択肢がないものについては、我々が使い勝手を向上させることによって、お客さま自らこなしていってもらうということだと思うんです。
一方で対面においては、お客さまのご相談に応じるような形で、選択肢があるものについて様々な提案をさせていただきながら、お客さまとの接点を確保していくことになります。お客さまのニーズに応じて、接点のあり方を変えていかなくてはならないということだと思います。
─ 金融インフラ自体のデジタル化についての考えは?
半沢 我々が抱えている金融インフラも、デジタル活用が必要になっています。これまで、我々が投資してきたインフラを、例えば資金移動業者にも開放して、銀行界との相互運用が確保されるような、もっと大きなインフラに変えていくことも必要になるでしょう。
また、領域をまたぐ部分において、従来の全銀システムを使うものもあるでしょうし、先程お話した「ことら」を使うような形で、小口のものについてはより簡便で低コストのインフラを提案していくといった形で、デジタル技術の活用で、様々な接点のあり方をお客さまに提案していくことが大事です。
従来、我々は安心・安全に金融システムを維持・提供してきましたが、それに加えて、デジタル技術を活用することで利便性を実現できるようになりました。以前は安心・安全と利便性は相反するように見えていましたが、今は両立できるわけですから、それをどう生かしていくかということだと思います。
─ 三菱UFJ銀行を始め、近年、各銀行が異業種と提携するなど、金融と他産業の垣根が下がってきていますね。
半沢 我々はこれまで金融の世界で金融サービス行の範囲を広げてきたわけですが、今回はお客さまサイドから、非金融も含めたサービスをワンストップで実現して欲しいというニーズが出てきています。
それを実現できるような形で今回、銀行法も改正していただき、非金融も含めたサービスを提供できるようになりましたから、フィールドは大きく変わっています。この状況を個別銀行として、どのように生かし切るかということだと思っています。
例えば三菱UFJ銀行で言えば、2021年に非金融サービスである経営支援システムを提案できる「ビジネステック」という会社を子会社化しました。
これで、主に中堅・中小のお客さまに対して、決済や人事労務、マーケティングのデジタル化支援や、気候変動対策の支援をさせていただくサービスを提案できるようになりました。このようにお客さまのニーズを踏まえるような形でフィールドを拡大していますから、今後は各銀行が、いかに独創的な提案ができるかが戦略的な競争力の差になっていくのだと思います。
─ 将来において、銀行はどのような存在になっていると考えていますか。
半沢 先程お話したように、従来は金融サービスを安心・安全に提案・提供する存在でした。これからは安心・安全であると同時に、利便性高くサービスを提供できるようになっています。ですから銀行は「サービス業」になっていくと思っています。
この時の利便性の中には「いつでもどこでも」という要素が加わってくると思います。安心・安全は土台であり、揺るがない私どもの普遍的な役割だと思いますが、デジタル技術を活用することで「金融サービス」から、「サービス業」に進化していくのではないかと思っています。
─ 業界内の人の考え方も大きく変わる必要がありますね。
半沢 サービス業に進化する時に、金融サービスをやってきた我々の中には、そうした視点を持った人はいません。ですから中途採用を拡大したり、様々な会社と提携するといった選択肢が増えていくと思います。
そしてこれは我々金融だけでなく、おそらく産業界全体がそうだと思うんです。従来の業界・業種の垣根が崩れ、それを越えていく時には、従来の知見やノウハウだけでは対応できませんから、提携や買収が必要になってくるのだと思います。
はんざわ・じゅんいち
1965年1月埼玉県生まれ。88年東京大学経済学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2014年三菱東京UFJ銀行執行役員、18年三菱UFJ銀行常務執行役員、19年取締役常務執行役員、21年4月代表取締役頭取に就任。
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