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ミライロ・垣内俊哉社長が提言、「改正障害者差別解消法」施行で企業が心すべきこととは?

財界オンライン / 2022年7月29日 7時0分

垣内俊哉・ミライロ社長

「障害者対企業の二項対立にしてしまってはいない」─こう危機感を見せるのは、ミライロ社長の垣内俊哉氏。障害者の視点から、暮らしやすい社会の構築を目指す同社。足元で浮上しているのが2024年までに施行される「改正障害者差別解消法」。これにより、障害者に対する「合理的配慮」が民間事業者においても法的義務となるが、その認知は進んでいない。果たして、企業は何をしていく必要があるのか─。

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改正法の施行で対応迫られる日本企業
 ─ 垣内さんは2万人に1人といわれる「骨形成不全症」という遺伝性の難病がありながら、むしろその障害を活かした事業で起業し、現在がありますね。2021年5月に「改正障害者差別解消法」が成立したことを受けて、懸念していることがあると聞きましたが。

 垣内 改正法が昨年成立し、2024年までの施行に向けて、各企業が対応に迫られているという背景があります。

 この対応にはポジティブな面とネガティブな面があります。ポジティブな面は、日本が歴史的に多様性を重んじてきた国だという背景もあり、障害者と向き合うことを前向きに捉えている人、企業が多いことです。

 その一方で、この法律の施行によって起こるネガティブなこととしては、端的に民事訴訟の増加です。障害者が「あれができてない」、「これもできてない」といって、企業を訴えるケースが増えることが懸念されます。

 ─ すでにそうした動きは始まってきていますか。

 垣内 例えば、働きやすい会社として有名な外資系企業が、「障害者の働き方に十分な配慮がなされていない」などとメディアで書き立てられるような事態になっています。その会社で言われるようであれば、日本のほとんどの企業が指摘されることになると思います。

 今、国内で働く障害者は少なく見積もって約50万人、多く見積もれば約82万人います。ただ、これは日本に約965万人いる障害者の1割を切っている状況ですから、企業からすると雇用の経験がないだけです。

 経験がないだけなのですが、経験がないがゆえに知識、ノウハウがなく、その結果訴えられるとなってしまうと、せっかく歩み寄ろうとしているところが閉鎖的になってしまいます。

 ─ 二項対立にならないようにするに、垣内さん達が考えていることは?

 垣内 これまでを振り返ると、06年に国際連合で「障害者権利条約」が採択され、日本も批准しました。これを法整備したものが、16年4月に施行された障害者差別解消法です。

 そして、先程申し上げたように21年5月に改正障害者差別解消法が成立しました。大きく2つのことが書かれています。第1に「障害を理由とした不当な差別的取り扱いを禁止」というものです。入店やタクシーの乗車を拒否するといったことは、今は世間的にかなり減ってきた事例です。

 私自身、大学生の頃から1人暮らしをしていますが、当時はアパートやマンションの入居申し込みを入れても、ほとんど断られました。

 なぜなら、バリアフリーであっても何かあったら責任が取れない、近隣の住民に迷惑をかけるかもしれないといったことが理由です。

 ─ こうしたことは法律で禁じることになったと。

 垣内 ええ。これは大きな前進です。ただ、問題は第2の「社会的障壁を取り除く合理的配慮を行う」です。この「合理的配慮」というのはアバウトですが、例えば聴覚障害者を接客する時に「筆談でお願いします」という依頼や、スロープの設置を求められれば可能な範囲で対応していきましょうということです。

「不当な差別的取り扱い」と「合理的配慮」は足元で国の行政機関や地方公共団体で法的義務になっていますが、民間事業者において「合理的配慮」は足元では努力義務です。ただ、24年6月までの改正法施行後には法的義務となります。

対応を誤り炎上するケースも…
 ─ ある意味で民間企業にとってのリスクともなり得るということですね。

 垣内 それに対して我々はまず、有識者委員会を立ち上げ、民間事業者に対する啓発活動を行いました。障害のある方々、民間事業者に対してアンケートを実施し、「合理的配慮」が法的義務化されることへの認知度や、どのような対応が求められるかについての調査を行いました。

 調査の結果、障害者が「合理的配慮が不足している」と回答する一方で、民間事業者へは、そもそも義務化されることの認知が行き渡っていませんでした。これが一番の問題です。

 例えば、百貨店のアルバイトの方がペットと間違えて補助犬の入店を断ってしまい、ニュースになって炎上してしまったことがありました。また、レジャー施設で聴覚障害者の方のアトラクションへの乗車を拒否してしまい、公式ウェブサイトで謝罪する事態となり、SNSは炎上しました。

 ─ ネット社会の怖さですが、法的義務となると炎上するだけではすみませんね。

 垣内 ええ。今、世界的にビジネスと人権は切っても切り離せない状況になっています。障害者のことも、問題を起こせば機関投資家や消費者からの視線も厳しくなりますから、守りをしっかり固めることが重要です。

 米国では「ADA(障害を持つアメリカ人法)」という法律の存在もあり、障害のある方から企業への訴訟件数は右肩上がりで増えています。文化が違いますから、日本で訴訟が急激に増加することはないかもしれませんが、先程のネット炎上などレピュテーションリスクになります。

 改正法施行後、日本がユニバーサルな対応において遅れている国というイメージが拡がってしまう可能性もあります。そうならないよう、日本社会において、我々はしっかりと啓蒙活動をしていきたいと思います。

 ─ 個別企業での対応に加え、業界団体など全体での取り組みも必要になりそうですね。

 垣内 そう思います。いくつかの企業をヒアリングしても、個社の取り組みには限界があるという声はあります。ですから経済団体、業界団体とも連携して啓発・啓蒙していくことが重要だと考えています。

 ─ 逆に、ポジティブな事例というのは出ていますか。

 垣内 例えば、民泊のAirbnbは宿泊施設を探す際に、バリアフリー設備が整っているかといった情報を検索できるようになっています。障害者自身が泊まれるのかどうかの判断材料をしっかり提供するという姿勢が表れています。

 残念ながら、今の日本企業でこうしたことができている事例がどれだけあるかというと決して多くありません。飲食店サイト、宿泊サイトなどでバリアフリーかどうかは調べられますが、細かい条件がわからず、具体性がないというのが現状です。

 ただ、日本企業においてもいい事例があります。不動産情報のライフルホームズさんは、障害のある方の住まい探しのため、相談可能な不動産会社の検索機能を拡充しています。

障害者に向き合うという意思を示すことが大事
 ─ 企業はまず、何から始めればいいと考えていますか。

 垣内 確かに、多くの企業さんで経営者、担当者の方含め、わからないことが多いと思います。そこで我々は「ミライロサーベイ」の開発をし、リリースしました。

 50から60問程度の調査票に回答していただき、それを元に現在の企業の障害者対応を可視化していくというものです。具体的には施設、製品、建物のユニバーサルデザイン対応、従業員の研修、ソフト対応、情報アクセシビリティといった項目でスコアリングをし、改正障害者差別解消法の施行までに、どのような対応が必要かのロードマップを描くためのお手伝いをしていきます。

 ─ こうした調査を元に、好事例が今後、多く発信されるといいですね。

 垣内 もっとそうした発信を増やしていかなければいけませんし、徐々に増えてきています。

 改めて考えてみると、障害のある方と一言でいっても状態は様々で、車椅子ユーザーで言えば、統計上約10%です。どの企業も、障害者対応イコール重厚なバリアフリーをやっておかなければいけないという思考停止に陥っているんです。

 確かに結婚式場や宿泊施設など、滞在時間が数時間に及ぶ場所では必要かもしれませんが、ラーメン屋さんやファストフードに必要かというとそうではありません。企業が提供しているサービスに合わせた形でコストを削減しながら障害者対応をやっていくべきだと考えます。

 例えば外食のロイヤルホールディングスさんには「天丼てんや」があります。この業態はファストフード的側面が強いですから、店舗のバリアフリー化は難しい面があります。

 ロイヤルさんはまず、バリアフリーができていることではなく、「完全にはできていないけれども来店はウェルカムです」という意思表示をすることにしたんです。それで始まったのが、外食産業初の障害者割引です。デジタル障害者手帳「ミライロID」を提示いただいた方は店舗での食事、テイクアウト共に10%オフになります。これによって、障害者の来店者数は年々増えているそうです。

 ─ 対応が完全でなくとも、向き合っているという姿勢を示すことが大事だと。

 垣内 そうです。示すだけで全く違います。できていることがどこまでで、できていないことがどれだけあるのかを、まず知ることが大事だという機運を高めていきたいと思います。

 改正法の施行期限まで、あと2年あります。それまでにしっかり発信をし、障害者対企業といった二項対立にならないよう、企業と障害者の架け橋になっていきたいと考えています。

 ─ 垣内さんは政府の審議会にも入って情報発信をしていますね。

垣内 はい。「国家戦略特別区域諮問会議」の議員を務めています。岸田文雄首相やデジタル庁の牧島かれん大臣、松野博一官房長官、野田聖子大臣も参加されている会議です。

 ただ、残念ながらこれまでの国家戦略特区として指定された自治体では障害者を主題としたものが少ないんです。今後、先行事例をつくっていかなければ他の地域に広げることはできませんから、今後は特区の中で進めていこうと。岸田首相はご理解がおありですから、前進することを期待しています。

 ─ 政治が意識することは非常に重要ですね。

 垣内 このテーマは与野党関係ないものですから一致団結しやすい。みんなで一緒に取り組んでいこうという流れがつくれるといいなと思っています。

故・堺屋太一氏への思い
 ─ 2025年に大阪・関西万博が控えていますが、この仕事に携わっていた故・堺屋太一さんと垣内さんはご縁があったそうですね。

 垣内 堺屋さんは前回の大阪万博に携わったこともあり、万博への思いはひとしおでした。大阪を元気づけ、新たなシンボルを発信することが大事だという思いを持っておられました。

 前回の大阪万博で堺屋さんが手掛けた「点字ブロック」は、ここから世界に広がりました。ですから25年の万博も、同じように世界にインパクトを与えることができるだろうと。堺屋さんが描かれた25年の万博でみたいと思っていたものを、残念ながら見ることが叶わなかったわけですが、「こういうことを世界に示しました」という万博になるといいなと思っています。

 私は企業経営に携わる身であると同時に、障害者という当事者でもありますから双方の視点に立ちやすい立場にもあると思います。その使命を持って、大阪万博にも臨んでいけたらいいなと思います。

 ─ ミライロを設立してから、自身を取り巻く視線の変化をどう感じますか。

 垣内 私は周囲からの温かい姿勢を感じることが多くなりました。ただ、それは私や私の弟の話であって、明治の先祖はそうではなく、外に出れば石を投げられるような状況でしたし、そもそも働くことも、学ぶことも叶いませんでした。

 しかし、私は車椅子に乗れて、学ぶことも働くこともできるというありがたい生活を送ることができています。これは先人の皆さんがバリアフリーなど社会インフラを整えてきてくれたからに他なりません。

 先人の皆さんが築いてくれた社会を、いかに次世代に残していけるか。何よりも日本は世界でもバリアフリーが進んでいる状況ですから、世界に向けて発信していくことも私の役割です。

 万博のタイミングで、ミライロという会社を通じて、そうした発信ができれば、私の先祖も喜んでくれるのではないかと思います。

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