【倉本聰:富良野風話】ポツンとひとり
財界オンライン / 2022年8月20日 11時30分
コロナは一体どこまで行くのか。
【倉本聰:富良野風話】肥担桶・考
世界各国がそれぞれ各様に、それぞれの国のシステム、人間性、あるいは性格の特殊性によって、国それぞれの方策をとり、効果を上げる国、効果を上げぬ国、成功したと思ったら失敗に転じる国、もう駄目かと思ったら立ち直ってくる国。グローバル化世界のむずかしさを露呈しながら、このウイルスに翻弄されている。
しかも地球が一団となってこの大敵に立ち向かうべき時に、他国への侵略を計る国があったり、経済制裁がこの星全体を新たな混乱へと導いてみたり。
他人事のように客観視するなら遂に人類はその驕りから破綻への道を歩み出したようだ。
この2、3年、僕は国家の命令に愚直に従い、国の言う通り人と接せず、知人と逢いたいという欲望を抑え、今は類のない非常時なのだからと、あの第二次世界大戦中の感覚を思い出し、耐えと忍耐の暮らしを送っている。
2年何カ月、山から出ていないし、訪ねて来る人間とは止むを得ず逢うが、それも殆んど断っている。情報ツールの進んだ今の世では、ある程度それができてしまうし、87年の人生を経た身には、孤独に耐えることもさして苦にならない。
鹿やキツネとは毎日逢うし、第一、毎日囲まれている植物の緑と接していれば、彼らとのつき合いが孤独を埋めてくれる。逆に言うと群れねば生きていられない、そういう人々に憐みさえ感じる。
テレビは毎週見る。ニュースはもちろんだが、娯楽番組も見る。必ず見るのは「プレバト!!」「開運!なんでも鑑定団」そして「ポツンと一軒家」。
殊に「ポツンと一軒家」は、今の人類の集団生活、文化生活、干渉生活へのアンチテーゼのような人間生活の原点を見せられる気がして、まことに心地良い。精神が生き返る。
ここに出てくる単独生活者には、おおむねいくつかの共通点が見られる。
第一に、殆んどが老人であること。そして古来の生活様式を継承し、そのことに喜びと倖せ、そして満足を感じておられること。
第二に、今は限界集落になったその集落に生まれて育ち、子供のころは山間の道を4キロとか5キロ、時にはもっと長い道のりを、歩いて学校に通っていた経験を持つこと。
第三に、一度は町に仕事のために住み、それぞれ様々な事情を持って、Uターンして元々の生まれ故郷である生家の跡に戻って来ていること。
第四に、その殆んどが本来の家業だった第一次産業(農業・林業)につき、自給自足に近い暮らしを営み、またその術を身につけておられること。とにかく強い人間であること。
この人たちの暮らしの会話からはコロナのコの字も殆んど出てこない。彼らは現代の日本に住み、町の人達とも関係を持ちながら、ひとりぼっちで毅然と生きているのである。
こういう人をこそ、僕は尊敬する。
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