「デジタルの世界には信号機が無い」東京財団政策研究所主席研究員・柯 隆
財界オンライン / 2022年8月26日 7時0分
デジタルの世界には信号が無い
―― 近年はグローバル化、デジタル化が進み、時代の変化も激しいです。そうした世の中を、どう生き抜くべきだと考えますか。
柯 現在はデジタル化が急速に進んでいます。昔の国際情勢の変化はアナログでゆっくりしていました。手紙を出しても、外国に届くのは1週間後くらいで、その返事を待っていると1カ月くらいかかったわけです。それが今は瞬時に世界中の人たちとやり取りできるのですから、変化はあまりにも目まぐるしいです。
インターネットやメールを活用することは本当に便利で、われわれの生活をガラリと変えました。しかし、人類の最も愚かな点は、デジタル上の信号機をつくらなかったことです。デジタルの世界で青信号、黄信号、赤信号がないから、自由に乱暴なことが許されるわけです。
―― なるほど。デジタルの世界の信号というのは面白い指摘ですね。
柯 リアルの世界であれば、赤信号になったら皆が止まらなくてはならない。そこで秩序が保たれる。しかし、デジタルの世界には信号が無いから、皆が猛スピードで暴走して、大きな事故を起こしてしまう。それがKDDIやNTTドコモの通信障害につながるんです。今、携帯電話が止まったら大変です。公衆電話をかなり減らしていますし、固定電話をもっていない世帯も多い。
デジタルの時代の変化はただでさえ激しいのに、今もなお、誰も信号機をつくろうとしていない。したがって、デジタルの世界の信号を誰がつくるのかというは大きな問題です。
―― これは日本だけでなく、米国も中国も世界規模で考えるべき問題です。
柯 はい。だから、デジタル上のインフラをどう再構築するかというのは大きな課題です。
例えば、デジタル通貨では、カンボジアが世界初となる中央銀行のデジタル通貨システムを導入しました。ああいう小さな国はもともとの金融システムがしっかりしていなかったので、一気にデジタル化に移行していけます。
ところが、既存の仕組みがしっかりしている国になればなるほど、デジタル通貨の導入には二の足を踏む。だから、失うものの少ない国こそ、デジタル化に移行していくのです。
そう考えると、今後もバーチャルの世界でデジタル空間がどんどん大きくなっていくのは間違いありません。しかも、信号機が無いので、何かあると混乱に拍車がかかります。このことは多くの日本人が覚悟しなければならないと思います。
国交正常化から50年、今後のあるべき日中関係とは? 答える人 東京財団政策研究所主席研究員 柯隆
経済人がもっと政治にプレッシャーをかけるべき
―― ルールの無いままでいいのか。これは皆が切実に感じていることではありませんか。
柯 いや、真剣に考えているのであれば、役所はもっと機能しているはずです。先ほどのKDDIやNTTドコモの通信障害にしろ、マイナンバーにしろ、穴だらけじゃないですか。
河野太郎さんが行政改革担当相だった時に行政手続きの印鑑を廃止すると言いましたが、何も進んでいません。デジタル政府をつくると言っても、いまだに住民票や印鑑証明を取得するために住民は区役所に足を運ばないといけない。デジタルの時代であれば、本来、こんなことはしなくて済むはずです。
―― 今回、河野さんがデジタル大臣に指名されましたが、そこは期待したいところですね。
柯 ええ。デジタル庁だって、つくっては見たけれど、まったく機能していません。だから、今一度立ち止まってデジタル庁が何をしているのか皆で考えないといけない。これもなぜ今回の参院選で議論にならなかったのか。残念でなりません。
―― 肝心なことが全然議論されていないと。
柯 こうした様子を見ていると、誰もデジタル化しようとしているとは思えない。それでも本気でデジタル化を目指していますと言うのであれば、あまりにもスピードが遅い。
―― こうした事実をどう解釈すればいいですか。
柯 日本という国は不思議な国で、毎年のように何とか庁がつくられます。それは昨年できたデジタル庁しかり、来年設置される「こども家庭庁」しかり、今度は「内閣感染症危機管理庁」をつくると言い出しました。本当にどれだけつくれば気が済むのでしょうか。
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