みずほ証券・浜本吉郎の「銀・証」一体戦略、この時期、米国との合算で増収増益確保
財界オンライン / 2022年9月1日 7時0分
経済が混迷する中、2022年4―6月期決算では多くの証券会社が減収減益を余儀なくされた。その中で、米国事業との合算で増収増益を確保して注目されているのが、みずほ証券。「日・米・欧で資本市場の活動が極端に冷え込んできている」と話すのは証券社長の浜本吉郎氏。ロシアのウクライナ侵攻などの地政学リスク、米国の金融引き締めなどがある中で「銀・証」連携に活路を見出している。
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企業、個人とも「様子見」が長引く
「非常に先行きが見通しづらい状況」と話すのは、みずほ証券社長の浜本吉郎氏。
長期化するコロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵攻、さらには米国の金融引き締めを受けて、世界の経済環境は混沌した状況が続く。
特に、金融引き締めの要因になったインフレについて浜本氏は「今回のインフレはサプライサイド(供給側)に起因しており、金利を引き上げても簡単には止まらない。これに予想外のロシアのウクライナ侵攻、コロナの長期化などが加わり、多くの難題を一気に突きつけられる形となった」とする。
証券会社経営にはどういう影響があったか。こうした混沌状況でボラティリティ(変動性)が高まることは、トレーディングの世界では必ずしもマイナスではないが、それ以上に不透明感が強すぎ、「グローバルな機関投資家の活動、企業の資金調達とも様子見が長引いている」。
例えば、グローバルの資本市場における新規株式発行の量も、マーケットによっては前年比8割減になったり、米国市場における債券発行の量も減少した。「日・米・欧で従来型の資本市場の活動が極端に冷え込んでいる。これは事業環境としては逆風」(浜本氏)という現状がある。
米国を中心に短期金利が上昇する中では、ドルを調達し、ドルで運用していくのは非常に難しい。特に、ドルを外から調達している日本など海外企業にとっては厳しい状況。
加えて、これまでの米国、世界の株価上昇を牽引していた米ナスダックに上場する、将来の成長期待で株価が形成されていたようなハイテク企業の株価が大きく下落。
この事態は、上場を見込んで米企業株を買っていた日本の個人投資家に損失をもたらすなど悪影響を与えている。
この状況は証券会社の決算に悪影響を及ぼしている。主要証券会社18社の2022年4―6月期決算では、赤字・減益が15社に上った。大手の中では三菱UFJモルガン・スタンレー証券が増収増益だったが、これは前年同期の特別損失からの回復で、実質減収減益。
みずほ証券は、国内は減収減益だったが、みずほフィナンシャルグループの連結決算の対象となっている米国みずほ証券との合算で実質増収増益を確保。前期は国内外合算で経常利益は1000億円を超え、これは証券事業では野村ホールディングスに次いで2位に位置する数字。厳しい環境下だが、みずほ証券は7年連続資産導入1兆円超を継続している。
「足元の状況を受けて、お客様の視点は『長期・分散・継続』に向かっている。多くのお客様が一時期に比べると価値の下落、含み損を抱える中だが、こういう時だからこそ、我々はしっかり寄り添っていく。社員には『2倍通って2倍話す』と言っている。逆風だからこそ、や
るべきことがある」(浜本氏)
「凄腕営業」の行動をデータ化して…
みずほ証券は、この数年来、営業担当者のコンサルティング力を引き上げる狙いで「営業を科学する」として、人材育成や営業にAI(人工知能)を積極的に活用している。
「昔ながらの『俺の背中を見て……』では限界がある。個人の心と頭に収まっているノウハウ、知見を開放していくために、それをデータ化して、多くの人がアクセスできるようにしていく」
例えば、いわゆる「凄腕営業」は、顧客のライフイベントのタイミングで連絡するなどして関係を深めているが、入社間もない担当者にはわからないことが多い。
そこで営業担当者の使うツールにはデータ化した顧客情報から、連絡や訪問のタイミングを表示するようにしている。そこに商品やマーケットの情報を組み合わせて提案していく。また、社内のベストパフォーマーの行動を分析してデータ化、他の営業担当者が学べるようにしている。
こうした取り組みによって、各支店に営業として配属された若手の行動が「合理的」になってきたといった成果が出ているという。
時代の変化によって、若者の意識が変化していることも大きい。かつてであれば「この番地のお客様、全てに名刺を配る」といった「精神論」のような世界もあったが、今はより効率を重視する形に変わった。それによって成果を実感し、モチベーションを保つ形にしていかなければ転職を考えるという人も増えているからだ。
「これだけでなく、データの活用領域はまだまだあると思っている。また、業務プロセスのデジタル化という意味でのDX(デジタルトランスフォーメーション)はとどまることなく進めていく。そして、これによって対面でお客様にしっかり向き合うことに時間を使っていく」
グループ内の「垣根」も低く
みずほ証券の強みは、銀行、信託、証券の連携が他グループに比べて進んでいること。例えば投資銀行業務で、企業のM&A(企業の合併・買収)の際に銀行との連携で資金調達がしやすくなる他、企業が資金調達をする際、信託と連携することで不動産を活用したファイナンスも実行できる。
また、個人の領域でも、みずほは顧客の「人生ポートフォリオ」を見ながら、銀行、信託、証券一体で資産形成、あるいは資産承継に向けたメニューを提供していく。
みずほFGはカンパニー制によって個人の領域は一体で運営しているが、1人の担当者を通してワンストップで、グループの様々な機能を顧客に提供していくことを目指している。
みずほFG内のグループ横断の連携も進む。昨年にはFGの「リテール・事業法人カンパニー」と「大企業・金融・公共法人カンパニー」の統合構想も浮上したほど。この時には実現はしなかったが、現在は「社内合弁」で人材を出し合って、企業の課題解決に、さらに注力できる体制を整えた。
これまでも銀行と証券との連携は進めてきたが「壁」があった。それが「ファイアーウォール規制」。同一グループ間の銀行等と証券会社との間で、顧客の非公開情報の共有を制限する規制のこと。
中堅・中小企業で緩和されるか否かについては、引き続き金融審議会での議論が続いているが、22年6月から上場企業での規制が緩和された。
野村ホールディングスなど独立系大手証券会社は「銀行の優越的地位の濫用」の懸念から、規制緩和に反対してきたが、メガバンクグループは顧客の利便性向上や金融サービスの高度化につながるということで賛成。
銀行系証券会社のトップとして、浜本氏は規制緩和をどう捉えているのか。
「銀行・信託・証券が一体となることが望ましい方向ではあるが、我々がいくら『一体化すべきだ』と言っても、サービスを享受するお客様に選んでいただけない限りは意味がない。また、3メガ共通だが優越的地位の濫用のようなことはあってはならない」
銀行と証券が一体であろうがなかろうが、顧客に選ばれる品質のサービスを提供できているかどうかが重要だということ。
ファイアーウォール規制は1993年に導入された日本独自の規制で、米国には今、そうした垣根はない。
その意味で銀・証一体が今の世界標準といえるが、「ファイアーウォールが緩和されたことで、お客様に不利益があってはいけない。拙速に走るのではなく、お客様目線で『よかった』と言っていただける体制を整えていく」と浜本氏。
今、注力しているのは組織もさることながら、証券の社員に銀行の知識、銀行の行員に証券の知識を付けさせるといった「人」の教育の部分。
さらに、みずほFGは24年4月からグループ横断の人事制度をスタートさせる予定。現在はみずほFG、みずほ銀行、みずほ信託銀行が共通だが、みずほ証券などは別制度。これを共通化することで、グループ内を柔軟に異動できるようにする。
「文化や業態の違いもあって難しさもあるが、方向感としては一体化していかないと、みずほの強みを生かせない。人材の確保が難しくなっている中、グループの人材プールを一元的に運営していく必要がある」
グループ内における「垣根」も低くして、より一体で顧客を獲得していく方針。
「みずほ証券」という社名がなくなる?
「私自身、グループの証券会社で働いてきた経験が長いが、自分自身を『証券マン』だと思って活動してきていない。お客様に対しては『みずほ』でしかないし、社員にもそう言っている」と浜本氏。
浜本氏は、2030年、2040年といったタイミングでは、銀行や証券といった垣根はなくなっているのではないかと見ている。何か、金融の力を使って顧客に寄り添う存在になっているのではないか? というのだ。
「お客様への理解を深めて、最適なソリューションを提供していくサポーター。今は金融だが、もしかしたら先々は変わっているかもしれない」
eコマースの世界のように、金融業界もITプラットフォーマーが席巻している可能性も見据える。
「その頃には『みずほ証券』という名前ではなくなっているかもしれないし、社員にもいい社名を考えて欲しいと言っている。お客様のために何でもやる、何でもサポートするという意識でやっていく必要がある。『自分は証券だから』、『信託だから』といった意識では通用しない時代になるし、それではみずほはなくなってしまうという危機感を持つ必要がある」
浜本氏は1967年1月神奈川県生まれ。90年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)入行。
当時、興銀は時価総額で世界一。そして中央官庁に勤めていた伯父から「金融業界には個性があって面白い先輩が多いぞ」と聞かされたことも志望動機になった。
ただ、入行直後には、背中を押してくれた伯父から「時代は大きく変わる」と聞かされた。「直接金融」の重要性が高まる時代が近づきつつあったのだ。実際、浜本氏の入行後間もない93年、興銀は「興銀証券」を設立して証券業務に参入した。
浜本氏は95年から米国のペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、MBA(経営学修士)を取得。「ファイナンスは銀行が融資するだけでなく、大きなプレーヤーとして証券会社がいるということに気づいた」
帰国後は希望して、設立間もない「社内ベンチャー」の興銀証券に出向。だが、最初は苦い経験も。米国で金融の最先端を学んできたと自信満々で臨んだが、数百億円、数千億円の取引が行き交うトレーディングフロアで学んできたことが全く通用しないという経験をした。「当初は上司や先輩にかなり厳しく鍛えられましたが、その方々は今も、私にとっては『人生の師』と呼べる存在」
以来25年、マーケットの現場一筋で仕事をしてきた。その間、「4年に一度は何かしらの危機が起きた」というほど、国内外の様々な危機に直面してきたが、特に08年のリーマンショック後にはゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった米大手投資銀行が危機を受けて、銀行持ち株会社に転換するなど「米国でも商業銀行と投資銀行が一緒でなければ生き残れないということが実証された」。
「『挑戦者』として、大手証券に追いつけ追い越せと、『坂の上の雲』を追うように無我夢中で走り続けてきた。グローバルビジネスも大きくなり、大手証券の一角と呼んで頂けるまでになったが、バルジ・ブラケット(世界的投資銀行)とはまだ大きな差がある。これからも『挑戦者』として走り続ける」
今、みずほFGは3メガバンク中3位の位置にある。システム障害などもあり、改めていかにライバルを追うかが重要な局面。その中で銀行と証券の連携がより一層重要になっている。その意味で、みずほ証券が果たすべき役割はますます重い。
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