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金融政策に手詰まり感強まる日銀、次期総裁人事を含めた今後は?

財界オンライン / 2022年9月1日 11時30分

日本銀行本店

米国の金融政策の転換、ロシアのウクライナ侵攻で日本に「悪い物価高」が襲っている。しかも、日本はコロナ禍からの回復が欧米から遅れており、国民生活への負担感は強まる。そんな中、日本銀行は金融緩和姿勢を堅持しているが、逆に言えば「動けない」のが実情。今、〝正常化〟に動けば、財政政策や株式市場に悪影響を及ぼしかねないからだ。来年4月には総裁の任期を迎える日銀の今後は─。

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「何でもあり」の金融政策の弊害が…
 日銀の金融政策に手詰まり感が強まっている。7月に公表した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では2022年度の消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)見通しを2.3%に引き上げ、数字の上では物価目標2%に年間を通して到達する形となった。

 しかし、資源価格高騰などの影響が主因のため、「賃上げを伴う良い物価上昇とは言えない」として大規模な金融緩和を維持。日本経済の新型コロナウイルス禍からの回復が欧米に比べて遅れていることも政策修正を難しくしている。

 ただ、インフレ退治に躍起の米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅利上げを続ける中、日米金利差拡大を背景に円相場は一時、約24年ぶりの安値となる1ドル=139円台まで急落。金融政策の違いによる円安加速が輸入物価高を増幅する弊害が目立つようになっている。

 8月初めには米利上げ局面終息への期待感から円が130円台まで戻す場面もあったが、その後、7月の米雇用統計で労働市場の過熱感が鮮明になると、再び円売りが膨らみ、円は135円台に下落した。

「アベノミクスを二人三脚で進めてきた安倍晋三元首相は突然、退場したが、10年近くにわたり異次元緩和の効用を説いてきた黒田日銀としては、目標の『良い物価上昇2%』を達成していないうちに、金融政策を転換するわけにはいかない。当面は嵐(米利上げ局面)が過ぎ去るまで我慢し続けるしかない」─。金融政策を立案する日銀企画局のある幹部は苦しい立場をこう打ち明ける。

 黒田日銀の異次元緩和は13年4月から始まった。国債を大量に買い入れて市中に大量の資金を供給することで物価を上げることを狙った。だが、シナリオ通りには行かず、マイナス金利政策も採用したが、これも効果が上がらず、長期金利を操作する政策「イールドカーブコントロール」に踏み込んだ。

 この政策の下、10年物国債の流通利回りを0%近辺に強引に抑え込んできたが、経済活性化と賃上げの好循環による2%の物価上昇は実現できていない。

 むしろ近年は、「何でもありの金融政策」(元総裁)の弊害が際立つ。日銀が保有する長期国債は発行残高の5割を超え、政府が振り出した国債の過半を中央銀行が買い取る異常な状況。

 緩和策の一環として上場投資信託(ETF)も買い入れてきたが、今では保有残高が50兆円規模となり、東京証券取引所の上場企業の最大の株主となったことも「相場を歪めている」と問題視されている。

 市場における日銀の存在感が高まるほど、出口戦略が描きにくくなっている。長期金利の操作を緩めたり、ETFを手放したりすれば、相場を暴落させかねないからだ。特に長期金利操作の見直しを巡っては、国の財政政策に大きな影響を与えるだけに「財政健全化による国債発行額の縮小とセットでなければ、安易にいじれない」(企画局筋)状況に追い込まれている。

 黒田氏は7月の金融政策会合後の記者会見で「イールドカーブコントロールの許容変動幅(現行プラスマイナス0.25%程度)を変更するつもりは全くない」とし、「一段の賃金上昇と物価目標の実現のために緩和を続ける」と強調した。

 実際、日銀は投機筋が長期国債の売りを仕掛ける中、無制限に国債を買い入れる指し値オペを連発し、長期金利の上限を誘導目標の0.25%に抑えようと躍起。ただ、世界的なインフレも背景に金利上昇圧力は強まっており、10年物以外の年限の国債の金利が跳ね上がるなど綻びを隠しきれなくなっている。

 その結果、米国との金融政策の方向性の違いがよりクローズアップされ、それが急激な円安を招く副作用をもたらしている。

 FRBがインフレ退治を優先し景気を犠牲にしてでも金融引き締めを続ける姿勢を堅持し、ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源高も続く中、景気停滞とインフレが併存するスタグフレーション突入も現実味を帯びる。

 日本にもスタグフレーションが波及した場合、日銀はどう対応するのか。インフレを抑える利上げも、景気を下支えする追加緩和もいずれも困難な中、金融政策の手詰まり感が極まりかねないのが実態。

「岸田首相はアベノミクスを丸々踏襲するつもりはなく、日銀の金融政策も総裁が交代すれば修正される」(官邸筋)との観測が流れる中、永田町や霞が関では、次期総裁人事の行方に関心が集中している。

 有力候補とされる雨宮正佳副総裁と、中曽宏前副総裁の2氏はいずれも日銀生え抜きだが、持ち味やバックグラウンドが異なり、どちらが総裁に就くかで金融政策の進路は変わりそうだ。

 雨宮氏は企画局畑のプリンスで「黒田緩和の知恵袋となってきた経緯から複雑化した金融政策の構造を熟知している」(有力OB)のが強み。一方、中曽氏はバブル崩壊後の金融危機の処理を最前線で担ったキャリアを持つほか、国際金融にも精通した「オールラウンドプレイヤー」(中堅幹部)。5月には40年に及ぶ日銀マンとしての歩みを振り返った大著『最後の防衛線危機と日本銀行』を上梓した。

 このほか、財務官―アジア開発銀行総裁という黒田氏と同じキャリアを歩んだ浅川雅嗣氏も「ダークホース」として取り沙汰される。浅川氏は安倍元首相亡き後、政府・与党内で影響力を高めた麻生太郎自民党副総裁と親密で、8月4日には官邸を訪れ、岸田首相と面会している。

「市場は死んだ」とは某経済人の言葉。世界的に不況局面に陥り、金融政策の手がない中、「ポリシーミックス」、つまり財政出動で埋める他ない。GDP(国内総生産)の2倍の負債を抱える日本だが、今は緊急事態。

 異次元緩和策の長期化で市場機能が麻痺した中では、ポスト黒田に誰が就くにせよ、金融政策運営がいばらの道となることだけは確かだ。

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