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【エネルギー問題を考える】経団連・十倉雅和会長「原子力は安全を確保し、住民の理解を得て、再稼働を進めるべき」

財界オンライン / 2022年9月2日 11時30分

十倉雅和・経団連会長

深刻なエネルギー不足が続く日本。猛暑による電力需給ひっ迫を受け、全国で7年ぶりに節電要請が出された他、今冬の電力不足も迫っており、危機的な状況だ。そうした中、ここへ来て原子力の存在がクローズアップ。今年4月にエネルギー政策に関する提言をまとめた経団連は、原発再稼働の推進を主張。十倉氏は「エネルギー政策は、短期的・中長期的な視点に加え、エネルギー・トランジション(実効ある炭素中立への移行)も考えていくべき」と語る─。

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NATO事務総長のダボス会議での発言
 ─ コロナ禍が長期化し、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で世界経済が混乱しています。こうした状況下で、日本の立ち位置をどのように考えていますか。

 十倉 もともと、コロナ禍の前から地政学リスクは高まっていました。そこにコロナですから、当然のことながら、国際経済秩序は非常に不安定になっています。最近のキーワードで言うと、「ライク・マインデッド・カントリーズ(同志国)」や「フレンド・ショアリング(サプライチェーン=供給網を同盟国内に収める)」という言葉が飛び交っています。

 わたしは、NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が今年5月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で言った「自由は自由貿易よりも貴い」という言葉が、今の国際情勢の状況をうまく言い当てていると思っています。

 ─ この言葉には深い意味がありますね。

 十倉 ええ。われわれ経済人は、自由貿易というのは何事にも代えがたいという考えがあって、米トランプ大統領の時代に保護主義が台頭し、G7(主要7カ国)でも自由貿易の維持で騒ぎになってしまいました。ところが今は、自由貿易に代えて自由で開かれた国際経済秩序が大事だと言っています。

 つまり、経済も大事だけれども、もっと基本的な「自由」という価値観が大事で、経済もそこから無縁ではあり得ない。こうした考えが、最近の流れになっていると思います。ストルテンベルグ事務総長の「自由は自由貿易よりも貴い」という言葉が印象に残っているのは、そういう理由からなんです。

 ─ 経済安全保障を考える上では、先ほどの「ライク・マインデッド・カントリーズ」や「フレンド・ショアリング」という言葉もよく耳にするようになりました。

 十倉 何でもかんでも自由に取り引きできるのではなく、経済安全保障のルール上、機微な技術に該当するものは、自由、民主主義、法の支配、人権といった価値観を共有する「ライク・マインデッド・カントリーズ」の中でサプライチェーンを組もうとしています。

 ただ、そうした流れが行き過ぎれば、国際的なサプライチェーンを分断するブロック経済につながる恐れもあり、それは違うのではないかと思っています。

 少なくとも、何でも自由貿易、自由経済にはできない。ある分野に限っては、経済安全保障のルールの下で取り引きしなければならないことを、われわれ経済人や産業界は認識しなければならないと思います。

火力、再エネ、原子力どれも大事
 ─ そういう中での中国との関係ですね。今年は日中国交正常化から50年の節目の年になるんですが、経団連としては、中国にどのように向き合っていく考えですか。

 十倉 不確実な国際情勢下にありますが、経済の交流はきちんと継続していきたいと思っています。

 経団連では、毎年一度、日中の産業界同士の交流強化や協力促進を目的に「日中CEO等サミット(日中企業家及び元政府高官対話)」を開催しております。昨年はリアルでは開催できませんでしたがオンラインで実施しました。

 ただ、日中経済協会合同訪中代表団のような訪中する会合は、コロナ禍にあり、中国のゼロコロナ政策もあって、ここしばらくは開催できていません。

 ただ、9月には、日中国交正常化50周年を記念したシンポジウムやセレモニーを開催する予定です。

 ─ 経済人のつながりは大事ですね。

 十倉 とても大事です。また、こうした国交正常化50周年のイベントは、日中政府のご協力も得ながら実施される予定です。

 ─ 十倉さん自身、住友化学の経営においても、中国との関係は大事だと思うんですが、今後はどういうスタンスで臨みますか。

 十倉 先ほども申し上げたように、機微な技術については、民間企業は、経済安保のルールに沿って行動し、それ以外のところは、経済原則に沿って自由に取り引きすべきと思います。

 そうしないとブロック経済、ひいては国内で自給する経済になってしまいます。国内で自給率を高めなければならないものには、エネルギーなどがありますが、何から何まですべて国内で自給するべきではありません。

 ─ 問題はそのエネルギーですね。天然ガスや原油の価格が軒並み高騰し、電力不足が叫ばれるなど、日本のエネルギー不足は深刻です。東日本大震災以降、原子力の議論があまりなかったんですが、ここへ来て必要だという機運も出てきています。既存の火力や再生可能エネルギーも含めて、原子力とのバランスはどう考えていくべきですか。

 十倉 経団連としては、従来から原子力発電の重要性を主張し続けています。今年4月には、『グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて』という提言書を発表しました。この中で、原子力にかなりのページ数を割いています。

 もちろん、火力も再エネも原子力もどれも重要です。ただ、エネルギー政策というのは、足もとの問題だけでなく、中長期的なことや、エネルギー・トランジション(実効ある炭素中立への移行)を考えていかなくてはなりません。

 そういう意味で、「S+3E」、つまり、安全性(Safety)と、エネルギー安全保障・安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合性(Environment)が、エネルギー政策を考える要諦となります。

 原子力は、準国産エネルギーによるゼロエミッション電源であり、経済合理性に優れています。安全性の確保を大前提に、利活用していくことが求められます。

原発の新増設やリプレースが必要
 ─ 日本のように資源に恵まれない国というのは、多層的なエネルギー供給構造を実現することが大事ですね。

 十倉 第6次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成として、再エネを最大限導入した上で、電源の20~22%は原子力で構成するとしています。そのためには、2030年度には、27基の原発が再稼働している必要があります。

 ─ だいたい原発1基で1%分と考えていいですか。

 十倉 将来の日本の電力需要は大幅に増えると言われていますが、現在の電力需要水準では、おおよそ仰る通りです。いずれにしても、現在、日本には建設中のプラントを含めて36基の原子力発電所がありますが、再稼働までこぎつけられた原発は10基しかありません。

 先日、今冬の電力需給がひっ迫することが懸念されることから、岸田総理のご英断により、この冬、最大9基の原発の稼働を進める考えが表明されました。一方で、2030年というのは、あと8年しかありません。27基の稼働を考えますと、まだ十分でないことは明らかです。

 もっと言えば、2050年に原発の電源構成を20%にするには、データセンターの活用も含め、デジタル化により、消費電力量が飛躍的に増えることを踏まえると、原発は約40基必要になります。

 ─ この辺のバランスは大事な指摘ですね。短期的な視点と、長期的な視点と。

 十倉 また、現行の法律では、原発の運転期間は、原則40年、最長60年となっています。仮に現在の原発を全て60年運転していいということになっても、計算上、2050年に稼働できる原発は23基です。それが10年経って、2060年になると、たったの8基しか残らない計算になります。したがって、そもそも、運転期間を60年まで延長することは避けられず、こういうことが目に見えていますから、経団連として原発の再稼働はもとより、新増設やリプレース(建て替え)が必要と主張しているわけです。

 ─ いま止めている原発を動かすだけでは足りないと。

 十倉 ええ。今から始めないと間に合いません。申し上げるまでもなく、2030年、2050年が近づいて、すぐにできる話ではありませんから。

 ─ 最近では、従来の原発より出力が小さい「小型モジュール炉(SMR)」が注目を集めていますね。

 十倉 安全性を考えた、こうした次世代技術の開発を積極的に進めるべきだと思います。

 原子力には安全性の他に、もう一つ、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の問題があります。放射性廃棄物の減容化や、有害度低減を効果的に進めるためには、高速炉を中心とする核燃料サイクルの確立が必要です。高速炉は、冷却材に水ではなく、液体ナトリウムを使います。

 そして、高速の中性子によってプルトニウムを燃料として活用するとともに、燃えにくいウランや半減期の長い核分裂生成物も燃焼させるため、高レベル放射性廃棄物を減容化させるとともに、有害度を大きく低減させるため、核燃料サイクルの効果を高めると言われています。

 日本は高速増殖炉「もんじゅ」を保有していましたが、トラブルが相次ぎ、廃炉を決定しています。研究開発は後ろ倒しになっていますが、アメリカとの国際協力が進められるなど、われわれも開発加速に期待しているところです。

エネルギーの移行期に既存の原発は必要
 ─ ここでも、米国との協力は不可欠になってきますね。

 十倉 ええ。もう一つ重要な革新炉として高温ガス炉があります。高温ガス炉では冷却材に水よりも高温の熱を伝えられるヘリウムガスを使います。高温ガス炉により、高効率のガスタービン発電と、1千度近い熱を利用した水素製造を同時に行おうとする取り組みが進められています。

 この水素製造の技術開発では、2050年に、1ノルマル立方メートル当たり約12円のコストを目指すとしています。今、必死で、グリーン水素(再エネ由来でつくった水素)の開発も進めていますが、相当低コストの再エネ電力等を前提とした試算でも、ようやく20円を切れるかどうかという水準で四苦八苦しています。

 こうしたなか、日本で一けた台の低コストで水素を製造できる技術として、高温ガス炉が有力視されています。

 ─ 水素製造の切り札になりうるんだと。

 十倉 はい。こういうことを考えると、高温ガス炉の開発も必要だし、高速炉の開発も、SMRの開発も必要だということになりますが、現状、開発の優先順位や時間軸についての議論が十分になされていないのではないかなと感じています。

 つまり、原子力をめぐっては、安全性に対する信頼の問題と高レベル放射性廃棄物の問題があるため、より安全で革新的な炉型の開発が求められている。この点、わたしは核融合も、わが国こそ積極的に取り組み、将来実現すべき有望な選択肢であると考えています。

 ─ なぜ、核融合ですか。

 十倉 核分裂反応に比べて安全性が高いからです。

 核融合は、資源の枯渇の恐れがない他、発電時に高レベル放射性廃棄物を発生しないエネルギー源です。また、核分裂反応ではないため、出てくる放射性物質もものすごく少ないし、相対的な安全性が極めて高い技術です。

 そうは言っても、核融合の技術開発は未だ途上であり、早いケースでは2040年までには確立できると言われています。しかし、現実的には2050年に商業運転ベースの生産設備がどんどん動いている絵姿を前提にするのは難しいようにも思います。

 そう考えたら、核融合が本格的に社会実装されるまでのトランジションの期間は、原子力の技術を活用していかないといけない。原子力の利活用は中国やロシア、フランス等も積極的です。日本も科学的、論理的、定量的、客観的な議論をして、国民の理解も得て、取り組みを推進していく必要があります。

社会性の視座をもって…
 ─ 十倉さんが経団連会長に就任して1年余が経ったわけですが、改めて、経団連の使命や役割は何だと考えますか。

 十倉 わたしが昨年、会長に就任した際、「社会性の視座をもってやろうよ」ということを言いました。違うご意見の方もいらっしゃると思いましたが、おかげさまで、経団連の多くの皆さんに、ご賛同、ご理解をいただいていると感じています。

 また、宇沢弘文先生の『社会的共通資本』(すべての人びとが、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力のある社会の安定的な維持を可能にする自然環境や社会的装置のこと)という概念もご紹介したところ、同様に、多くの人から共感の声をいただきました。

 ─ 社会との連帯感が薄れている時代だからこそ響く言葉かもしれませんね。

 十倉 もう一つご紹介したのが、カール・ポランニーというハンガリーの経済学者の言葉で、彼は「市場が社会から切り離されるとき、全ては市場の要求に隷属する」と言っています。

 これは、先ほど申し上げた経済安保の議論にも似ていて、社会はどうあるべきか、もっとも大事な価値観は何か、そういった視点から経済も無縁ではいられないということだと思います。

 言うまでもないことですが、資本主義や市場経済は、自由で活発な競争環境、効率的な資源配分、イノベーションの創出等を実現する、わが国の社会経済活動の大前提です。しかしながら、社会性の視座から離れてしまうと、それこそ政府の「新しい資本主義」や経団連の「サステイナブルな資本主義」で指摘しているように、行き過ぎた株主資本主義、市場原理主義により、格差の拡大や生態系の崩壊などの弊害が出てきてしまうのだと考えます。

 そして、こうした行き過ぎた資本主義を通じてもたらされた弊害を克服できるのもまた資本主義です。そういう意味で、岸田総理の掲げる「新しい資本主義」というのは、良いネーミングだと思います。

 ─ その意味では、経団連と政府が目指す方向性は一致していると言っていいですか。

 十倉 その通りです。岸田首相の着眼点とわれわれとコンセプトは一致しています。近年「マルチステークホルダー」とか「エシカル・キャピタリズム(倫理的資本主義)」など、いろいろな言葉が出ていますが、経済合理性や経済効率だけでなく、社会を念頭に置く必要があります。

失敗しても主体的に挑戦する人を応援する社会に
 ─ 日本は失われた30年と言われ、長く経済が低迷しています。この失われた30年をどう取り戻していくか。改めて、経団連会長としての決意を聞かせてください。

 十倉 先ほども申し上げた通り、資本主義や市場経済は、資金や人材が成長する分野に効率的に資源配分される素晴らしい制度です。しかしながら、日本では、こうした点がうまくいっていない、つまりは、労働の流動性が十分ではないところがあると思います。

 以前でしたら、終身雇用、雇用の安定は、日本の強みでした。しかしながら、これだけ新しい科学技術や産業が次々と登場し、社会が目まぐるしく変化する中にあって、労働の流動性を高め、人々が自由に挑戦し、主体性を発揮する個人をもっと応援していかなければなりません。これはスタートアップの振興にもつながります。

 ─ 多様性ある価値観、多様性のある社会ですね。

 十倉 日本は同質性の高い社会で、わたしはよく言うんですが、小学校の低学年の頃は皆、授業で、我先に手を挙げて自分の意見を積極的にアピールしていましたよね。それが高学年になると手を挙げなくなる。そういう風土を改めていく必要があると感じています。

 欧米では、いろいろな人種や文化を背景にもった人たちが流入していますから、彼らと切磋琢磨していくには、自分の主張ははっきり言い、その上で、相手の言うことも聞かなければなりません。日本も国際社会の中で生きていくには、学校教育でもそうしたことが求められると思います。

 例えば、海外で一度もまれる経験をすることで、主体性が発揮できたり、自分の個性を追い求める人が出てきたりすると思います。残念ながら、今の日本は、七転び八起きではなく、一転びゼロ起きです。

 いきなり日本が変わるのは難しいかもしれませんが、ファーストペンギン、グッドルーザーという言葉があるように、主体的に我先に自分が挑戦する人を応援し、失敗しても、また次の挑戦を再び応援する。そういう社会にしていけるよう、できることから取り組んでいく必要があると思います。

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