【倉本聰:富良野風話】抑える
財界オンライン / 2022年9月10日 11時30分
政府は原発再稼働について、新しい指針を出して来た。ロシア・ウクライナ情勢などを見据えての電力逼迫を想定してのことだろう。
【倉本聰:富良野風話】牛のゲップ
永いこと僕の中にもやもやと漂う一つの疑問がある。電力消費の増大は国の景気のバロメーターになるのかもしれないが、では果たしてそれは国民の幸福度のバロメーターになっているのだろうか、ということである。
日本の電力最終消費量(kWh)を調べてみた。2007年が最も多く、1兆613億。2010年は1兆354億だが、2011年の3・11を受けて9000億台にやや落ちる。が、しかしその後それ以上極端に落ちることはない。
これを逆に過去はどうだったかふり返ってみると、1970年には3129億。1980年で5119億と3分の1から半分程度の消費量である。
僕の常に持つ疑問というのは、この現在の消費量というものを絶対的なものとして、それを減らす、過去へ戻すという思考法が全くとられていないということである。重ねて言うが電力消費量が多くなったということは、経済的に豊かになったということかもしれないが、では世の中の幸福度、幸福量というものは、果たしてそれに比例しているのだろうか。
先般、僕は『文藝春秋』誌上で、「貧幸」をテーマとして一文を書いた。それは主として世の高齢者に対する私見愚信だったが、それに対する反響は大きく、〝貧しくても倖せな〟暮らしを求める声は想像以上に大きかった。
コロナの蔓延以降ほぼ2年間、僕は全く富良野を離れず、女房と2人、森の中で非社会的暮らしを送っている。自動車免許を返納して以来、買い物に出ることも殆んどせず、電気の使用も最低限で過ごしている。しかしいたって幸福である。無論、現役の社会人達がそうはいかないのは重々承知だが、街のネオンがあそこまで明るく、日の出日の入りという地上の明暗にさからって文明社会の人間たちが天然の掟を破っている様を見ると、これが正しい社会のあり方なのかと、ついつい首をかしげてしまう。まして、それによって生じる電気の消費量、更にはそれがもたらしている環境問題、気候変動、天変地異。それらを外から見ていると、地上に生きている我々人類が地球の掟をどんどん破り、その報いとして起こっている様々な異変にアップアップしている愚行としか思えない。
そうした愚行の明白な例として今僕が常々思ってしまうのは、今の電力消費量を少なくすることを誰もが忘れてしまったとしか思えない、経済主体の物の考え方である。
明るくできるから明るくする。速くできるから速くする。もっと儲かるからもっと儲ける。余りにも稚拙な行為ではないのか。そんなことより〝できるけど、しない〟〝可能ではあるけど自己を抑える〟。その方が余程知性あるものの、とるべき態度といえるのではあるまいか。
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