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【政界】旧統一教会問題と新型コロナが足かせに 最大の危機を迎える岸田首相

財界オンライン / 2022年9月7日 7時0分

イラスト・山田紳

※2022年9月7日時点

間もなく発足1年を迎える岸田政権に試練が訪れた。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を内閣改造・自民党役員人事でリセットできなかったばかりか、東京オリンピック・パラリンピックの大会スポンサー選定を巡る贈収賄事件によって安倍政権のレガシーは大きく傷ついた。9月27日に予定する安倍晋三元首相の国葬に世論の批判はさらに高まるだろう。与党は臨時国会の召集を10月に遅らせて態勢を立て直す構えだが、首相の岸田文雄がここで指導力を発揮しなければ、政権は一気に下り坂だ。

【政界】「経験と実力」の布陣を強調するが…局面打開へ岸田首相の〝電撃〟内閣改造

「手打ち」の席で…

「今回の一連の人事は安倍派を分裂させないことが目的だったとしか思えない。配慮したのが見え見えだ」。前首相の菅義偉に近い自民党の無派閥議員は、岸田が掲げた「政策断行内閣」は後付けと言わんばかりに、冷ややかに語った。どういうことか。

 参院選中に安倍が凶弾に倒れ、支柱を失った安倍派は混乱に陥った。派閥の運営方法を巡って幹部同士のさや当てが激しくなり、後任の会長選任は棚上げに。当面は会長代理の塩谷立の下で結束を図ることにしたものの、人事を控え、「塩谷で首相官邸や他派閥と渡り合えるのか」という不安の声が派内に渦巻いていた。

 そんな中、岸田は8月3日夜、元首相の森喜朗、元自民党参院議員会長の青木幹雄らと東京都内の日本料理店で会食した。平成研究会(現茂木派)の参院議員に今も影響力のある青木は、岸田が昨年の衆院選後に茂木敏充を幹事長に起用したことに激怒し、それを止めなかった森ともぎくしゃくしていたという。この日の会合は、岸田を交えて2人の関係を修復するために、森と懇意の遠藤利明(現総務会長)がセットした。

 もちろん主眼は「手打ち」にあったのだが、このときすでに岸田は8月上旬の人事を決意していた。安倍派の後見役の森はそんな岸田の意向を察知し、席上、同派の処遇について配慮を求めたとみられる。

 ふたを開けると、岸田は安倍側近の萩生田光一を政調会長に抜擢し、萩生田の後任の経済産業相には、森が目をかける西村康稔を充ててバランスを取った。安倍直系ではない松野博一は官房長官に留任した。閣僚の数は改造前と同じ4人に留まったが、森が関与したこともあって安倍派の不満は表面化していない。

 8月12日、森のインタビュー記事が地元紙「北國新聞」に掲載された。改造の翌11日に取材に応じた森は、安倍派の次期会長候補として萩生田、西村、松野を挙げ、「3人で競い合っていけばいい」と語った。同じころ、月刊誌「中央公論」9月号では「安倍さん亡き後の派閥のことを見守っていきたい」と述べている。安倍派が分裂するかどうかを他派閥が興味津々で模様眺めする中、危機を回避するには自分が前面に出るしかないと考えたのだろう。

 しかし、森の思惑通りに事は運ばなかった。



人事を急いだツケ

 当初、内閣改造は9月上旬が有力視されていた。参院選後の臨時国会が閉会した8月5日、報道各社が「10日にも人事」と速報すると、首相周辺は「サプライズではない」と強がったが、新型コロナウイルスの感染「第7波」や旧統一教会の問題で内閣支持率が下落し始めたため、人事を急いだのが実態だ。その証拠に、茂木は翌週に予定していた沖縄出張を急きょ取りやめている。

 岸田は、旧統一教会との関係を認めた前防衛相の岸信夫ら7人の閣僚を交代させた。ただ、人事を前倒ししたことで入閣候補者の「身体検査」をする時間は必然的に限られた。もとより教団との関係性は議員によって濃淡があるのに、政権として問題の有無にどこで線を引くかも曖昧にしたままだった。「それぞれ点検し、結果を明らかにしてもらう。その上で適正な形で見直す」(8月6日の記者会見)という岸田が示した条件は、「過去は不問」と宣言したに等しい。

 新内閣でも7人の閣僚が教団との関係を認めたが、ほぼ一様に「以後は気をつけて、関係を持たないようにしたい」(総務相の寺田稔)と釈明した。岸田の指示通りの対応とはいえ、これでは刷新感が出るはずもなく、改造の狙いはかすむ。

 案の定、内閣支持率に政権浮揚効果は表れなかった。共同通信が改造直後に実施した世論調査で支持率は54.1%。7月の前回調査から3.1ポイント増加したものの、前々回から前回は12ポイント以上下落しており、V字回復とはならなかった。同じ改造直後の読売新聞の調査では、支持率は過去最低の51%に落ち込んだ。その前の調査は5~7日で支持率は57%。わずか数日での変化は、人事が評価されなかったことを如実に物語っている。

 非主流派の閣僚経験者は「おそらく木原(誠二・官房副長官)が人事の前倒しを進言したのだろうが、岸田は焦り過ぎたな」と高みの見物を決め込む。確かに、秋の臨時国会を急いで召集するつもりがないなら、いくら野党が騒ごうとも、教団を巡る報道が沈静化するのを待つ選択肢はあったはずだ。



不満隠さない高市

 そんな中、政調会長から経済安全保障担当相に転じた高市早苗は14日、自身のツイッターに次のように投稿した。

「組閣前夜に岸田総理から入閣要請のお電話を頂いた時には、優秀な小林鷹之大臣の留任をお願いするとともに、21年前の掲載誌についても報告を致しました。翌日は入閣の変更が無かったことに戸惑い、今も辛い気持ちで一杯です」

「21年前の掲載誌」は、教団と関連する「世界日報」が発行する月刊誌に対談記事が出たことを指す。さらに翌日の記者会見で高市は、春先から自身の政調会長更迭論が出ていたことを生前の安倍に相談したところ、安倍から「すべての役を外されることはないように思う。岸田さんから頼まれたことは絶対に断らずに受けなければいけないよ」とアドバイスされたことを明かした。

 岸田は高市をさほど評価していない。政調会長に起用したのは安倍に気を遣ったからだ。引き続き閣僚で処遇したとはいえ、経済安保相は府省を所管しない無任所のポスト。高市の真意は「不本意だが、安倍の遺言があるので辞退はしない」ということではなかったか。

 一方、自民党側では萩生田に新たな問題が発覚した。6月、参院選東京選挙区で初当選する前の生稲晃子を連れて、自身の地元・八王子市内にある旧統一教会の関連施設を訪問したとニュースサイト「デイリー新潮」が報じたのだ。萩生田は8月18日、教団と関係のある団体の施設と知りつつ訪問したことを記者団に認めた。党都連会長としての明らかな選挙対策で、「お付き合い」のレベルを超えている。

 政調会長就任に際し、萩生田は「関連団体のイベントへの出席」を岸田に報告したが、この件は伏せていた。立憲民主党幹部は「説明が二転三転している。有権者はおかしいと思うだろう」と不信感を強めている。

 一向に落ち着く気配がない岸田政権に衝撃的な数字が飛び込む。毎日新聞の20、21両日の世論調査で、内閣支持率は7月の52%から36%に急落。不支持率は54%で、支持と不支持が逆転した。同時期の産経新聞の調査では逆転こそしなかったが、支持率は7月から8.1ポイント減の54.3%。同社の調査で60%を切ったのは初めてで、トレンドは毎日と一致している。

「旧統一教会の問題を連日報じられたら下がるに決まっている」(閣僚経験者)と岸田をかばう声はある。茂木は早くから「党としては一切関係がない」と予防線を張ったが、事ここに及ぶと、政権の初動対応には疑問が残る。

 東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件も影を落とす。14年の大会組織員会発足時から21年まで会長を務めた森はトップとしての責任を免れず、安倍派の動揺は当分続くことになる。それは安定政権を目指す岸田にとっても痛手だろう。



行方を占う9月

 皮肉なことに、9月は重要な政治テーマが目白押しだ。

 岸田政権が重視してきた沖縄県知事選は11日に投開票される。今年に入って県内の市長選で与党系が4連勝し、県政奪還へ着々と布石を打ってきたが、7月の参院選では野党系無所属の現職、伊波洋一が自民党新人に辛勝。知事・玉城デニーの再選を目指す「オール沖縄」陣営は何とか踏みとどまった。

 知事選は玉城、与党が支援する前宜野湾市長の佐喜真淳、元衆院議員の下地幹郎の三つどもえの争い。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の賛否だけでなく、新型コロナで打撃を受けた県内経済の振興でも激しい論戦が展開されている。

 オール沖縄陣営の勢いには陰りが見えるものの、自民党幹部は「ここにきて岸田政権の失速は痛い」と危機感を強める。勝敗は予断を許さず、結果は国政にも一定の影響を与えそうだ。

 29日には日中国交正常化50周年を迎える。国家安全保障局長の秋葉剛男は8月17日、中国外交担当トップの楊潔篪と天津市で会談し、冷え込んだ両国関係の打開を探り始めたが、台湾情勢が緊迫する中、一足飛びの改善は見込めない。岸田が外交で得点を稼ぐのは難しい状況だ。

 安倍の国葬の扱いも難しくなった。報道各社の世論調査では反対が賛成を上回っているが、さりとて今さら延期や中止とはいかない。岸田が国葬を表明したのは銃撃事件のわずか6日後で、「あんなに急ぐ必要はなかった」(自民党幹部)と悔やんでも時すでに遅し。岸田は丁寧に説明を尽くすしかない。

 支持率回復の特効薬はあるのか。8月24日、自身が新型コロナに感染していた岸田はオンラインで新たな方針を打ち出した。しかし、目を引いたのは感染者の全数把握の見直しによる医療機関の負担軽減ぐらいで、入国者数の上限(1日当たり2万人)引き上げや、感染者の療養期間短縮に関しては「速やかに公表する」と明言を避けた。内閣官房幹部は「首相が自ら発表するほどかという意見は事前に内部であった」と肩を落とした。

 窮余の一策として衆院の早期解散説すらちらつき始めたが、元幹事長の二階俊博は8月下旬、ある講演会で「(黄金ではなく)緊張の3年間であってもらいたい。どうなるかわからないけどやってみようという解散は困る」と一蹴した。正念場の9月。岸田の指導者としての力量を、永田町も有権者も注視している。
(敬称略)

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