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脱炭素の理想と現実の狭間で…  『原発回帰』に踏み切る日本の課題

財界オンライン / 2022年9月7日 18時0分

「グリーン革命に再エネや原子力は不可欠!」

 電力の安定供給確保や、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする国際公約達成に向けた脱炭素化を理由に、岸田文雄政権が原発回帰の方針を打ち出した。

「政府が前面に立って」既存原発の再稼働を推進するとともに、原則40年間となっている運転期間の延長も検討する。さらに、2011年の東京電力福島第1原発事故後、封印してきた原発の新増設や建て替え(リプレース)も推進する構えで、実現すれば、エネルギー政策の大転換となる。

 ただ、再稼働を加速させるには地元の同意をどう取り付けるかという難題がある。また、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルは事実上、暗礁に乗り上げ、核のゴミの最終処分地も定まらない。多くの課題を棚上げしたままの唐突な原発回帰宣言には危うさが付きまとうのも事実だ――。

 喫緊の課題である電力需給逼迫の解消には何よりも再稼働を加速させる必要がある。震災後に再稼働した実績のある西日本の10基に加え、原子力規制委員会の安全審査を通過している7基を追加で早期に動かすことを目指している。

 具体的には、東電柏崎刈羽原発6、7号機▽日本原子力発電の東海第2原発▽東北電力女川原発2号機▽関西電力高浜原発1、2号機▽中国電力島根原発2号機――を想定する。福島原発事故後に電力会社が再稼働を申請した25基のうち、17基が規制委の安全審査をパスしたが、柏崎刈羽など7基は地元自治体の同意が得られないことなどの理由で動いていない。

 岸田首相は「再稼働に向けて国が前面に立ってあらゆる対応を取っていく」と意気込むが、柏崎刈羽はテロ対策の不備で規制委から事実上の運転禁止命令を受けた原発。規制委が運用体制が改善されたと認めるまでは命令は解除されず、立地住民に不信感を広げたことから、地元自治体の同意の見通しも全く立っていない。

 岸田政権は自治体への説明などを電力会社任せにせず、国が主導する構えを示すが、福島事故を起こした東電に対する地元の不信を払拭したり、周辺自治体の多くで避難計画が策定できていない東海第2などの再稼働に理解を求めるのは容易な作業ではないだろう。この3基の原発が早期に再稼働ができなければ、当面の首都圏の電力不足解消は覚束ない。

【エネルギー問題を考える】経団連・十倉雅和会長



次世代型原発の新増設などに国民の理解は得られるか?

 中長期の原発活用策も問題含みだ。稼働を原則40年、最長60年と定めた運転期間を本格的に延長しようとすれば、原子炉等規制法の改正が必要で、国会審議が紛糾するのは必至。米国を例に「80年間の運転も可能」と指摘する専門家もいるが、規制委の更田豊志委員長は「日本は地震が多く、海外(の例)に引きずられるべきではない」とくぎを刺している。

 政府内では、安全審査にかかった時間を運転期間から除外して計算する案も浮上しているが、これでは実現しても原発の寿命はせいぜい10年弱伸びるだけ。脱炭素化の目標年次である2050年に向けて動かせる原発の数が大幅に減っていく状況は変わらない。

 このため、福島事故後の封印を解いて、次世代型原発の新増設やリプレースを推進する方針を打ち出した。対象には海外で投資が盛んな小型モジュール炉(SMR)や高速炉、高温ガス炉も挙げられているが、いずれもまだ開発途上の段階で、商業運転の時期は見通せない。中でも発電容量が小さいSMRは、電力会社の間で「実現しても採算が合わない」と不評だ。

 安倍晋三政権時代に官邸中枢にいたある元官僚は「福島事故後のエネルギー政策を大転換して本気で原発回帰を進めるなら、政権の命運を掛けるくらいの覚悟が必要。果たして岸田首相にそこまでの腹があるのか。単なる打ち上げ花火に終わらなければいいのだが」と先行きを危惧。

 次世代型原発の新増設に国民の理解は得られるか、そして、核のゴミの最終処分地も定まらないなど、多くの課題を抱えた中で、原発政策の行方はなおも不透明なままだ。

【政界】元首相の死で権力構造が変化 問われる岸田首相のリーダーシップ

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