BNPパリバ証券・河野龍太郎氏の提言「損なわれた『物価安定』にどう対応するか?」
財界オンライン / 2022年9月18日 11時30分
7月のCPI総合は前年比2.6%と、3%に近づきつつある。家計が頻繁に購入する食料品やエネルギーなどの価格上昇は顕著で、モノの価
格だけなら5%を超えた。人々の物価の体感は既に5%に達していると考えられる。
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もちろん、CPI総合が8、9%まで上昇する欧米に比べると、日本の上昇は限定的だ。ただ、80年代半ば以降、ずっとゼロインフレが続いてきた日本の家計には、3%インフレの負担は相当に重い。
元FRB議長のアラン・グリーンスパンは物価安定について、「日々の生活で、人々の意思決定が価格変動に煩わされなくて済む状況」と定義した。人々が物価を気にしなくてよい状況ということだ。健康と同じで、健康な時には誰も健康を意識しない。健康が損なわれた時に初めて意識するように、物価安定が維持されている間は、誰もそのことを考えない。米国では、昨春から人々が物価高や金融政策のことを気にし始め、日本では昨秋から人々が円安や物価高を気にし始めた。
つまり、米国では昨春から、日本では昨秋から物価安定が損なわれ始めていたのだ。だから、6月に家計の価格上昇への許容度が上がったという黒田日銀総裁の発言が批判を浴びたのだ。日本の物価上昇の主因は資源高にあるが、輸入物価上昇を増幅する円安は、日銀の金融政策と無関係とはいえない。
利上げを続ける他の先進国との違いは、日本では賃金上昇が鈍いことだ。米国では、労働需給の逼迫で賃金上昇が加速し、それが価格に転嫁されインフレが亢進している。日本の時間当たり賃金上昇率は1%にも達していない。安定的な2%インフレ目標の達成には賃上げが必要であり、資源高や円安が一服すれば、元の低いインフレに戻るという見通しから、日銀は異次元緩和を堅持する構えだ。
もちろん、円安を止めるために、利上げを行うのは適切ではないだろう。ただ、安定的に2%インフレ目標に達するまで金融緩和を継続するという考えは果たして適切か。
今回の円安インフレ騒動で、日本の家計にとり、2%インフレが物価安定と整合しない可能性があることが明らかになったのではないか。来年4月に就任する日銀新総裁は、家計の痛みを考慮すれば、2%インフレ目標を「できる限り早く達成する」とはもはや言えないはずだ。簡単には大幅な賃金上昇が見込めない以上、2%インフレ目標を維持するとしても、中長期の目標に変更すべきだろう。
超金融緩和の固定化で、ゼロ金利や円安なしでは採算の取れない低収益企業が増えているから、潜在成長率や実質賃金が低迷しているのではないか。中長期の目標に変更すれば、インフレが2%を下回っていても、経済動向に応じて多少、金利を変動させることも可能となる。そろそろ「異次元の金融緩和」から「持続可能な金融緩和」へのシフトを検討すべき時だろう。
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