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オリックス・宮内義彦氏の直言「企業の存在意義は社会に富をつくり出すこと。それをチェックするのがガバナンスの根本」

財界オンライン / 2022年9月15日 7時0分

宮内義彦・オリックスシニア・チェアマン

「日本のコーポレートガバナンスは機能していない」─こう話すのは今年5月まで日本取締役協会会長を務めていたオリックスの宮内義彦氏。社外取締役を複数導入する企業も増えているが、実際には「形だけ」になっていることを宮内氏は憂慮する。経営者と社外取締役の関係はどうあるべきなのか。また、こうしたことは日本の様々な課題にもつながる。日本が成長するために必要なこととは─。

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社外取締役に求められる役割
 ─ 宮内さんは2022年5月まで日本取締役協会会長を務めるなど、ガバナンス改革にも取り組んできました。改めて企業とステークホルダーとの関係をどう考えていますか。

 宮内 ガバナンスの原点は「企業は何のために存在するのか」ということです。今流行りの言葉で言えば「パーパス」(存在意義)ですね。

 社会に富をもたらすための活動をするのが企業です。ですから企業は社会に経済的な富をつくることができなければ意味がありません。その活動をきちんとやっているかをチェックするために取締役会があります。

 日本では社外取締役と呼ばれることが多い、独立取締役を充実させ、企業がしっかり稼いでいるか、業績が伸びているかをチェックする。そのような体制をつくることによって、企業活動が健全に進むのだというのがガバナンスの考え方です。

 ─ ただ、現在の日本では社外取締役のあり方に課題があるという指摘も多い。

 宮内 そうですね。社外取締役に就く人は「頼まれたから」、依頼する企業の側は「あの人なら無難だから」、「女性だから」といった姿勢のところもありますから、何のためにやっているかわかっていない。

 人数集めをして、「我が社はきちんとガバナンス体制が整っています」と言っているわけです。その意味では、日本ではコーポレートガバナンスが機能していないようにみえます。

 これだけ業績が伸びない企業がたくさんあるのに、日本ではそれを理由に社長が替えられた話はほとんど聞いたことがありません。米国であれば考えられないことです。ガバナンスの形だけはできているけれども、最終目的には何の足しにもなっていません。

 経営者がしっかりやっているかどうかを睨んでいるのが社外取締役で、もしダメならば肩を叩いて「ご苦労さん」と告げ、代わりにできる人を連れてこなくてはいけません。しかし、これができている企業は非常に少ないと考えます。

 ─ 社外・社内の取締役それぞれに緊張感がないと。

 宮内 社内の取締役が「社長の出来が悪い」と言ったら、自分がクビになりかねません。これは社外の独立取締役の仕事なのです。

 複数の会社で社外取締役を務めている例が批判されることがありますが、掛け持ちでもできます。経営者の出来が悪ければすぐにわかりますから(笑)。

 ─ その意味では経営者、トップの使命感が問われます。

 宮内 多くの経営者にとって、きちんとした社外取締役はうるさくて仕方がないでしょうから、イエスマンを指名するか、人数が少ない方がいいわけです。ですから経営者に社外取締役を指名する仕事をさせてはいけないのです。

 必要なのは、社外取締役だけの指名委員会をつくって、執行部と関係なく、次の社外取締役を選ぶこと。これをやっていかなければガバナンスは効きません。

 また、近年はSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)といった言葉が言われますが、あくまでも企業の根本は、経済的価値を生み、企業を成長させることで、それが執行の責任です。

 SDGsやESGなどをこなしながら、企業を成長させることが求められているということです。時にSDGsやESGが企業の目的のようになってしまっているのが見受けられますが、あれは目的ではなく手段です。

 ─ SDGsやESGの意識で何をやるかが大事ですね。ところで、日本ではなぜ、米国の「GAFA」のような存在が生まれないのかという問いかけがありますが、そうしたガバナンスの弱さも関係ある?

 宮内 そこまで飛躍できるかどうかはわかりません。GAFAが生まれたのは世界中でアメリカだけです。真似をして生もうとしているのが中国ですが、現状はあくまでも真似です。欧州にも生まれていません。ただ、GAFAまで行かずとも、日本でも躍動する企業がもっともっと出てこないといけません。

「親会社」がなかったからマネジメントがしっかりした
 ─ 改めて、宮内さんは商社の日綿實業(現双日)から、1964年のオリエント・リース(現オリックス)設立に参画したわけですが、振り返って当時はどういう思いでしたか。

 宮内 当時のベンチャービジネスでしたから、この会社は潰れてしまうかもしれないという思いで走り出しました。そして、走り出したわけですから、何とか生きていかないといけません。生きていった先には、今度は何とか企業を成長させたい、上場企業になりたい、海外にも出てみたい……といった形で、目標が一段ずつ高くなっていきましたね。

 ─ 途中、リース業のライバルが倒産するなどしましたが、この差は何だったと?

 宮内 何だったのでしょうか。一つはバブル崩壊だと考えます。この時のリスク管理ができていたか、いなかったか。あの危機で多くの同業がいなくなり、残ったところも多くは親会社に助けてもらっていました。

 我々は親がいませんから、誰も助けてはくれません。ですからそれによってマネジメントがしっかりしたのだと思います。

 ─ 必死だったということですね。潰してたまるかと。

 宮内 ええ。今にして思えば、バブル崩壊は、凄まじい出来事でした。よく生き残ったと思います。2008年にリーマンショックもありましたが、バブル崩壊は、リーマンショックの比ではありませんでした。

 ただ、バブルが崩壊したということは、当時は誰にもわかりません。バブルという言葉もなかったですから。後から、あれがバブル崩壊と聞かされたのです。その後、「失われた10年」と言われて大変なことになったと思っていたら、今や30年になったわけです。

 ─ 日本は少子化で人口減少が続いており、財政を支える人も減っています。この問題をどう考えますか。

 宮内 人口減少は非常に大きなインパクトがあります。欧州の国などでは妊娠、出産に対して手厚い優遇措置を設けたり、数多くの施策で出生率を保っています。それに対して日本は、以前からわかっていたはずなのにあまり手も打たれていない。移民問題についても議論しておらず、重要なことをほったらかしにしてきたのです。

 ─ 日本は今でも、世界でも最も閉ざされた国と言われます。

 宮内 基本的に外からの人を受け入れないのが日本です。しかし、このままでは世界から取り残されてしまいます。

若者は「自分で何かやってやろう」という気概を
 ─ 本来、政治がこうした方針を打ち出さなければいけませんが、現状のしがらみの中で、票を失うといって躊躇する面が強くなっていると感じます。

 宮内 支持率を見て政策を決めるようではダメなのだと思います。「自分はこういうことがやりたいから政治家になった」という使命感、気概が見えない。

 今の民主主義は代議制ですよね。代議制のいいところは、1人ひとりの考えを聞いたら目先の話になるところを、代議制にしたら長期的なこと、大きなことを考えられるということです。それが大前提ですが、現実にはそうなっていません。

 ─ こうした状況下でも、企業経営者は自らが経営を担う会社を成長させなければいけません。例えば、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんのような人が、日本でもっと出てくるといいのでしょうが。

 宮内 ええ。日本には柳井さんのような人が少なすぎるのです。立派な経営者はいますし、立派な会社もありますが、数が少なすぎます。

 ─ 宮内さんはITなど若い経営者との交流もあると思いますが、彼らの可能性をどう感じていますか。

 宮内 昔よりも、優秀な人が思い切ってベンチャーを始めているのは事実です。しかし、やはりそれでもまだ数が少なすぎます。

 例えば、大学を卒業して中央官庁で働き、次はお金を稼ぎたいと欧米系の投資銀行に転職するといった人はいます。しかし、かつてのアップルのように自宅のガレージで新しいことをやろうという人が出ているかというと、そうはなっていません。まだ銀行や商社など大企業のサラリーマンになれたら嬉しいという人が多い。

 ─ 徐々に、若い優秀層には大企業は面白くないという人も増えているのでは。

 宮内 それに伴って、「自分で何かやってやろう」と思ってくれるといいなと思います。少しは変化してきていますが、その変化が少なすぎる。

 ─ そうした変化を起こすには何が必要だと考えますか。

 宮内 やはり教育だと思います。日本の教育は未だに覚えた人間が勝つ仕組みになっている。経営コンサルタントの大前研一さんは、文系の学部・学科で学ぶ知識の多くはスマートフォンやパソコンですぐに検索でき、その価値は高く見積もっても5円程度だと指摘しています。

 わかりきったことを覚える必要はありません。それ以上に考えることを教える必要があると思います。世の中は答えのないことがほとんどです。それに対応するにはどうしたらいいかを学ぶ必要がありますが、今の教育は答えのあることばかり教えています。

日本の潜在力発揮に必要なこととは
 ─ 行政を見ても、幼児教育を担う場として幼稚園と保育所があり、所管が文部科学省と厚生労働省とに分かれています。「こども園」で一つにしようという動きもありますが、未だに対立が続いています。

 宮内 この問題は規制改革会議で約20年前にも取り上げた話ですが、まだ同じような話をしているのかと思うと残念です。

 教育は文科省で保育は厚労省という形ですが、日本は昔、保育を必要とするケースは社会福祉事業だったわけです。ところが、今はそうではありません。保育は社会システム、国の義務としてきちんと整える必要があります。同年代の教育、保育を一体で考えるのは当たり前のことだと思います。

 さらに、今の「こども家庭庁」は内閣府の外局ですが、もうひとつ子供にかかわる国の組織が増えただけになっている。しかも当初「こども庁」としていたものを「こども家庭庁」としていて概念を広げてしまっています。

 ─ 日本には課題が多いわけですが、まだ潜在力そのものには期待できますか。

 宮内 潜在力はあるのではないかと思います。平和で、格差問題は欧米に比べて小さく、犯罪も少ない。いい部分はたくさんあるのです。しかし、いろいろなことで束縛が多すぎて、勢いを失ってしまっています。

 また、国民性なのかもしれませんがトラブルを避けたがる。例えばマスクです。厚労省は屋外におけるマスク着用について、人との距離(2メートル以上を目安)が確保できる場合や、確保できなくても、会話をほとんど行わない場合は、マスクを着用する必要はないとしています。

 人びとを見ていると散歩をしている人や、1人で車を運転している人もマスクをしています。まさに同調圧力に左右されているように思います。自分で考えて行動することが難しいのです。

 ─ この同調圧力の強い日本で、様々なことで議論をしてきた宮内さんを支えたものは何ですか。

 宮内 私はしょっちゅう同調圧力に負けていますよ(笑)。ただ、若い頃から広い世界を見せてもらいましたし、小さな会社にいて、自分で考える癖が付いていったのかもしれません。

 また、我々の世代は敗戦で世の中が引っくり返ったことを覚えています。権威者の言うことは「本当か? 」と疑い深い目で見るようになっている。そういう世の中の転換を経験したことが大きいのではないかと思っています。

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