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〈個人間カーシェアで国内トップ〉若者のクルマ需要を 掘り起こす【エニカ】の〝仮想的な所有〟戦略

財界オンライン / 2022年9月19日 18時0分

今年5月からヒョンデのEV『アイオニック5』のカーシェアを「ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜」(西区)で開始した

コロナ以前から産業界では「所有」から「利用」という流れがあり、コロナ禍を通じて「ピークの平準化」もキーワードとなっている。そういった流れの中で個人のクルマを登録して、シェア(共有)する個人間カーシェアで国内トップに立つのがDeNA SOMPOモビリティーだ。社長の馬場光氏は「〝仮想的な所有〟の心地良さを訴えていきたい」と強調する。クルマを巡る新たな使い方や新車購入客層の掘り起こしにもつながりそうだ。

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累計登録2万台を超える登録数

「日本には自家用車が約6000万台ある一方、その稼働率は僅か3~5%。使っていない遊休資産を活用することで、ドライバーは乗りたいクルマに好きなときに乗れる。また、保有者はクルマをシェアに出すことで維持費の軽減を図ることができる」─。DeNAグループで個人間カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」を運営するDeNA SOMPOモビリティー社長の馬場光氏はこう語る。

 エニカは自家用車を使わない間にシェアしたい保有者と、必要なときに好みのクルマを使いたいドライバーをマッチングするプラットフォームだ。2015年のサービス開始以来、累積カーシェア日数は28万日以上、累計会員数は50万人以上、登録車種数は1000車種以上、ク
ルマの累計登録台数は2万台を超える。

 個人間のカーシェアはレンタカーや法人のカーシェアにはない独自の側面がある。「乗りたいクルマを選んで乗ることができるため、ドライバーの選択肢が広がる上に、購入につながるケースもある」(同)点だ。レンタカーなどでは十数種の車種しか扱わず、ドライバーがその車種を購入するケースは少ない。

 対するエニカでは最も人気のあるクルマがトヨタ自動車のミニバン「アルファード」になっているが、家族や友人などを乗せて大人数で移動するときに使われている。また、同じドライバーでもクルマの走りを楽しみたいときにはスポーツカー、日常的な買い物に出かけるときは軽自動車と、シーンに応じて使い分けているという。

 さらにエニカでは1960年代のクラシックカーから最新のモデルまでが揃う。保有者がこだわって選んだ車種やカスタマイズされた車種がラインアップされているため、「このクルマに乗りたい」というモデルに出会えることが大きな魅力なのだ。

 加えてエニカにはクルマ購入の敷居を下げている面もある。「興味のある車種を保有している所有者と実際に話すことができる」(馬場氏)。マッチングが成立すると、ドライバーはクルマの受け渡しで保有者と直接会う。そこでクルマに対する考えや経験談など本音を聞けるのだ。レンタカーなどではない点だ。



東北で米テスラのEVが伸びる

 象徴的な事例がある。米テスラの電気自動車(EV)だ。同社はオンライン販売に特化しているため、全国に5カ所のショールームがあるが東北エリアにはない。また、ガソリン車などからEVに乗り換えることに不安や疑問を持っている人も多い。

 その中で「テスラ保有者が仙台市内でEVをシェアしたことで、同エリアでのテスラ車の登録が増えた」(同)という。中には試しに乗ってみた結果、EVへの不安が解消し、EVを購入した人もいる。テスラ車のエニカ登録台数は約100台に上る。

 この特長は既存の自動車メーカーからも一目置かれる。例えば、韓国のヒョンデもオンライン販売に特化して2度目の日本進出を果たしたが、エニカと協業。DeNA SOMPOモビリティーがヒョンデのEVと燃料電池車を購入し、エニカのユーザー向けにレンタカー型のカー
シェアとして貸し出している。

 馬場氏は「ヒョンデのクルマを利用した個人ユーザーがその後購入に至った場合、シェアした保有者と個人ユーザーの両方にインセンティブが支払われる」と語り、「ヒョンデのクルマが売れれば、オーナーやユーザーは新たな収入を得られ、当社もシェア収入を得られる。まさに三方よしだ」と話す。

 同社は「ジープ」ブランドなどを持つステランティス ジャパンやアウディジャパン販売が展開するレンタカーサービスともサービス提携をしている。

 更に馬場氏が見据えるのがピークの平準化だ。「企業が保有する社用車は土日は稼働せず、レンタカー需要は土日に集中する。この凸凹をカーシェアで平準化できればエネルギーマネージメントの面でも効率化できる」。また、コロナ禍でレンタカーが不足している沖縄などの離島でも「夏休みなどのピーク時だけでも自家用車を活用できれば地方創生にもつながる」と語る。

 そもそもDeNAがモビリティーの領域に進出したのは主力のゲーム事業に依存せず、新たな事業の柱をつくるため。「カーシェアや自動運転にはITの力が必要」(同)だからだ。「必要なものを必要な分だけマッチングさせる仕組みを構築するのは当社の得意分野だ」と馬場氏。


馬場光・DeNA SOMPOモビリティー社長

 馬場氏が日本初の個人間カーシェアの仕組みを立ち上げ、カーシェアと親和性が高い自動車保険とも連携した。それがSOMPOホールディングスだ。「ドライバーが加入する自動車保険のうち、他車運転の特約があれば保険料が無料でカーシェアを利用することができる」(同)。

 エニカの累計登録台数は約2万台。しかし、業界トップの「タイムズカーシェアリング」は3.7万台と先を行く。また、21年の年間新車販売台数が444万台であることから規模もまだ小さい。馬場氏は「自らクルマを所有してはいないが、まるでクルマを所有しているような
〝仮想的な所有〟の心地良さを訴えていきたい」と強調する。

 若者のクルマ離れが指摘されて久しいが、エニカの主なユーザーは20代前半から30代前半だ。その意味では、ポテンシャルはありそうだ。個人間カーシェアは、これまでとは全く違う新しいクルマの使い方や買い方を生み出そうとしている。

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