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【政界】日中国交正常化50年に複雑化する国際情勢 問われる岸田首相の「したたか外交」

財界オンライン / 2022年9月22日 7時0分

イラスト・山田紳

※2022年10月5日時点

岸田文雄政権の真価が問われる正念場に─。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係など巡って逆風が強まっている上、物価高騰への対策、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの「ダブル感染」拡大への備えといった難題が押し寄せているのだ。また、9月29日に日中国交正常化50年を迎える中、台湾情勢の緊迫化を受けて中国とどう向き合うのかも焦点。「台湾有事は日本有事」だ。岸田が掲げる「新時代リアリズム外交」の中身が問われている。

【政界】旧統一教会問題と新型コロナが足かせに 最大の危機を迎える岸田首相

50年の節目の年

 岸田は新型コロナウイルス感染による静養から公務に復帰した8月31日、首相官邸で記者会見し、「本日から対面での公務を再開し、全身全霊、全力投球で仕事に取り組んでいく」と述べた。その上で、「政治に対する国民の皆様の信頼が揺らいでいる。深刻に受け止め、改めて原点に立ち戻り、私が先頭に立って政治への信頼回復に取り組まなければならない」と語った。

 信頼回復への取り組みとしては、国民の厳しい視線が向けられている旧統一教会問題で厳正に対応する姿勢を示すとともに、元首相の安倍晋三の国葬に関して丁寧な説明を行うことや「ウィズコロナ」への移行を加速せるための全体像を公表することなどを挙げた。いずれも内閣支持率急落の原因となっただけに、より丁寧な対応が不可欠と判断したようだ。

 ただ、厳しさを増す安全保障環境に関しての言及はなかった。特に9月29日は、1972年に当時の首相・田中角栄と中国首相・周恩来が日中共同声明に署名し、国交を樹立してから50年の節目を迎える。それにもかかわらず、岸田は日中関係について、また緊迫する台湾情勢に関して記者会見で触れることはなかった。

 岸田は首相に就任した直後の昨年10月、中国国家主席の習近平と電話で会談し、国交正常化50年を機に「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を目指すことを確認している。今年に入ってからは中国側からの対話を模索する動きが表面化した。

 外相の林芳正と5月にオンライン形式で会談した中国国務委員兼外相の王毅は、林に中国を訪問するよう招請した。この頃、習の日本訪問を実現させようとする水面下の動きもあったとされる。

 ただ、岸田は5月23日、来日した米大統領のバイデンと東京・元赤坂の迎賓館で会談し、東シナ海や南シナ海で軍事活動を活発化させる中国に対し、「力による現状変更の試みに強く反対する」ことを確認した。

 しかも、バイデンは会談後の記者会見で、台湾で紛争が起きたときに米国が軍事的に関与するかどうかを問われると、「はい。それがわれわれの決意だ」と明言した。

 そして翌24日、自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有する日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」の首脳会談が都内で開かれ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて揺るがない関与を表明している。

 特に4カ国首脳の共同声明では、中国を念頭に「現状を変更し、地域の緊張を高めようとするあらゆる威圧的、挑発的又は一方的な行動に強く反対する」と明記された。

 そうした動きに中国は反発。日米両国には「中国に関する誤った言動に対し、強烈な不満と厳しい懸念」を伝達した。

 それでも、中国側が「不満」「懸念」を伝えたのが、駐中国日本大使ではなく、在中国日本大使館の公使だったことから、日本側には「国交正常化50年を前にして日中関係を決定的に悪化させるつもりはない」というメッセージだとの受け止めもあった。



台湾有事は日本有事

 しかし、中国が「断固たる対抗措置をとる」などと警告する中で、米下院議長のペロシが8月2日、台湾の訪問を決行したことをきっかけに、米中関係、日中関係は一気に緊迫する。

 中国は日本に対し、8月4日にカンボジアで予定されていた林と王の日中外相会談を直前にキャンセルするという異例の対抗措置をとった。林を含む主要7カ国(G7)外相が台湾情勢を巡る共同声明を発表したことへの反発だった。

 中国は外交的に態度を硬化させただけでなく、軍事的にも圧力を強めている。中国軍は8月上旬、台湾を取り囲む海空域でミサイル試射を含む大規模な軍事行動を実施した。

 日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイル5発が落下した。過去に例のなかったことで、「外相会談の〝ドタキャン〟よりも深刻だ」(日中外交筋)との批判が上がった。中国軍の戦闘機は台湾海峡の中間線を越えて台湾空域に入るなど、かつてない緊迫感に包まれている。

 2021年3月、当時の米軍インド太平洋軍司令官のデービッドソンは上院公聴会で、台湾情勢について「2027年までに危機、脅威が明らかになる」と警鐘を鳴らした。ただ、台湾有事はさらに身近に迫っているともいわれる。

 中国共産党は10月16日に第20回党大会を開催する。ここで習の3期目続投が実現すれば、「台湾は中国の不可分の領土」と主張してきた習政権が、ロシアのウクライナ侵略の教訓から短期決戦を企て、一気に軍事侵攻を仕掛ける可能性もある。

 読売新聞の世論調査(9月2~4日実施)では「中国が日本の安全保障上の脅威だと思うか」という問いに、81%の人が「思う」と回答した。NHKの世論調査でも、中国による台湾周辺での軍事演習が日本の安全保障環境に「大いに影響を与える」(40%)と感じており、あ
る程度影響を与える」(42%)も合わせると80%以上の人が危機感を抱いている。

「沖縄・与那国島にしても、鹿児島・与論島にしても、台湾でドンパチ始まることになったら、戦闘区域外とは言い切れない。戦争が起きる可能性は十分に考えられると思っている。防衛というものを真剣に頭を入れて欲しい」

 自民党副総裁の麻生太郎は8月31日、党麻生派(志公会)の研修会で講演し、台湾有事を念頭に、そう強調した。「台湾有事は日本有事」にほかならず、日本の防衛力の抜本的な強化が急がれる。



続くハラの探り合い

 ただ、中国はそうした中でも、国家安全保障局長の秋葉剛男を8月17日、中国・天津に招き、中国外交担当トップの共産党政治局員・楊潔篪との会談をセットした。

 中国で楊は外相の王よりもランクが上位にある。厳密には外交トップの楊と秋葉はカウンターパートではない。メンツを重んじる中国が秋葉と楊の会談に応じたことは、何らかの意図があったとされる。

 7時間にも及ぶ会談の内容は公表されていないが、岸田と習の直接会談を含め、再び日中対話の機運が盛り上がる可能性さえある。実際、それ以降も中国サイドは〝秋波〟を送ってきている。

 岸田が8月下旬、新型コロナに感染すると、習はお見舞いの電報を送ってきた。「国交正常化50周年にあたり、新時代の要請に応える中日国関係の構築を共に進めていきたい」と記してあったという。

 中国は外交的に揺さぶりをかけ、日本の出方を探っているともいえる。一方で軍事的な強硬姿勢を緩める気配は見られない。

 中国軍は9月上旬、ロシア軍が日本海などで実施した「ボストーク」と呼ばれる大規模軍事演習に参加した。9月3日には、北海道の神威岬の西の約190キロ沖合をロシア海軍のフリゲート艦3隻と中国海軍のミサイル駆逐艦など3隻が東に向けて航行。この6隻は周辺海域で機関銃の射撃を行ったことが確認されている。



リアリズムの行方

 岸田はこれまで、ロシアのウクライナ侵略をきっかけに、日・米・欧の自由主義陣営と中・露など専制主義陣営が対立する中で、G7各国との連携を最重視してきた。ただ、同時に中国側とは「建設的かつ安定的な関係」を築くため、「言うべきことは言う」という対話も排除しない姿勢をとってきた。

 岸田は、①普遍的価値を重視する②地球規模の課題解決に取り組む③国民の命と暮らしを守り抜く─ことを3本柱に据えた「新時代リア
リズム外交」を掲げている。

 今年6月に「平和のための岸田ビジョン」を発表し、「新時代リアリズム外交」の具体像として①「自由で開かれたインド太平洋」の新
たな展開②防衛力の抜本的強化と日米同盟・有志国との安全保障協力の強化③「核兵器のない世界」の推進④国連の機能強化⑤経済安全保障など新分野での国際的連携─を推進する考えを示した。

 日米同盟の強化と同時に、日中関係の安定化を目指してきた安倍政権の路線を基本的に継承する構えだが、ロシアのウクライナ侵略と北朝鮮の核・ミサイル開発などで日本を取り巻く安全保障環境は一段と厳しくなっており、岸田の判断が日本国民の生命に直結する。

 岸田は今年1月の施政方針演説で、「日本外交のしたたかさが試される1年になる」と語っていた。厳しさと複雑さを増す国際情勢の中で、中国の覇権の動きを牽制しつつ、日中間の対話パイプをどう持ち続けていくか。

 日米同盟を維持し、中国に対して言うべきことをしっかり言い、同時に日中の対話関係をどう維持するか。岸田の外交力の真価が問われるときである。(敬称略)

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