【移民問題】日本国際交流センター・毛受敏浩氏が直言「日本は日本語教育を始め、必要な手立てを打っていない現実を」
財界オンライン / 2022年10月3日 11時30分
「国際的な人材獲得競争の中で、日本が『魅力のない国』と見られてしまう」─日本国際交流センターの毛受敏浩氏はこう訴える。2019年に改正入管法が施行されたが、政府は外国人受け入れに関する明確なメッセージを出せていない。人口減少の中で、外国人との共生をいかに進めるかは待ったなしの課題。「歴史的にも日本は外からの力を自らの力に変えてきた」日本としての姿勢が問われている。
「日本語」の習得が外国人にとっての壁に
─ 日本、世界で人口減少が進む中、「人材獲得競争」になっていますね。その中で日本はなかなか外国人を受け入れていないということで様々な批判の声も出ています。現状をどう見ていますか。
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毛受 待ったなしの状況になっていると思います。国際的な人材獲得競争の中で、日本が「魅力のない国」と見られてしまうと、他の国では受け入れてもらえなかった労働者ばかりが集まる結果になってしまうのではないでしょうか。
アジアでは韓国や台湾が受け入れに積極的ですし、英語圏の国々に魅力を感じる人は以前から多い。客観的に見て、日本は長く経済成長しておらず、賃金が上がらない国になっています。
─ 日本の置かれている状況はアジアの人達に伝わっているわけですね。
毛受 そうです。また、日本に長く住み続け、より高い賃金を得ようとする時に壁になるのが「日本語」の問題です。日本語は文字の面で非常に難しい言葉です。例えば、小学校で学ぶ漢字は1026文字あります。言語学者の方が言うには、漢字圏以外の人にとって漢字は「記号」でしかないと。
日本で働き始めた外国人で、日本語がこんなに難しいとわかっていたら、日本を選ばなかったという人もいるほどです。ただ、それでも日本に来ようという人は、その困難を乗り越えようという貴重な方々だといえます。
─ そうして来た外国の方々が日本で苦労をしているという現実がありますね。
毛受 ええ。そうしたことを受けて、私どもは休眠預金活用事業として2つの事業に取り組んでいます。
1つは外国人の子供達を支援する「外国ルーツ青少年未来創造事業」で、外国にルーツをもつ子供・若者に関する活動を行う8つの団体に3年間で1億8000万円の助成をしています。
また、今年度はコロナ禍ということもあり「外国人への緊急支援と持続可能な体制構築事業」として9団体の支援をさせていただいています。やはり、コロナ禍の中で最初にクビを切られたのは外国人だったということが実態としてあります。なぜなら非正規労働の割合が高く、派遣・請負が非常に多いことが要因になっています。
特に、日系ブラジル人はその傾向が強いです。彼らは入管法の改正によって30年ほど前から多く来日していますが、未だに日本語習得が進まず、正社員になれない。しかも彼らの日本生まれの子供達も、同じようなルートを辿るケースが増えています。
─ 日本に来てから生まれた二世の教育、就労に大きな課題があると。
毛受 はい。「外国ルーツ青少年未来創造事業」はそうした子供達も対象にしています。30年以上がたち、日本生まれの青年もすでに日本で働き始め、さらに三世となるその子供達も日本で育ち始めています。しかし、そうした子供達の教育や就労には課題があります。
日本語指導が必要な生徒の高校中退率は全国平均の7倍という数字が出ています。
来日外国人二世の教育をどうするか?
─ 親も子も日本語ができないとなると、かなり生活が難しくなりますね。
毛受 そうなんです。義務教育でないこともあり、子供では学校を辞めたあと不登校のまま年齢を重ねる話も聞きます。
2年前から、我々は住友商事のご協力を得て、外国ルーツの青少年を支援するNPOに社員を派遣し、学習指導などを行う事業を開始しました。参加した社員の皆さんからは大好評を得ています。また生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)の参加企業とは外国人の教育、就職問題について勉強会を開始しました。
しかし、留学生のことは知っていても、日本生まれ、育ちの外国ルーツ青少年については、「日本にそういう人達がいるんですか」という反応で、まだ現実が知られていないということを痛感します。
そうした外国人の子供達は今後も増え続けていきます。途中から日本に来た子だけでなく、日本生まれの子供も日本語の読み書き能力が低く、教科が理解できないままに卒業してしまう例も見聞きしてきました。
先程、コロナ禍で最初にクビを切られたのは外国人という話をしましたが、大人も日本語能力の低さから再就職に非常に苦労しています。
─ 日本人が外国に行く際もそうですが、それ以上に日本に来た外国人にとって言葉の壁は大きいと。
毛受 ええ。私は日本に来た外国人に関して3つの大きな問題があると考えています。第1に日本語で、日本からすれば彼らへの日本語教育をどこまで徹底するか、あるいは「やさしい日本語」を社会に広げるかどうかということです。第2に企業として外国人を単なる調整弁ではなく日本人と同じような待遇で迎え入れることができるか、第3に来日二世の子供達の教育を日本人並みにできるかどうかです。
日本には、今これらが欠けていますが最重要です。この環境が整わないことには貧困のサイクルになってしまいますし、日本が「選ばれる国」になるという目標からすると、相当遠い話になってしまいます。
言語習得に対するドイツの考え方
─ 国の有り様、生き方の本質に関わってくる課題ですね。
毛受 人口減少の対応として外国人受入れのテーマ自体が、薄れつつありますから、私自身強い危機感を持っています。
私は文化庁の文化審議会で日本語教育小委員会の委員を務めていますが、欧州の国々は、外国人に対してその国の言語を教えるのは、国の責任でやっています。
例えば、ドイツでは政府の責任で600時間のドイツ語を教えており、さらに初歩レベルのドイツ語ができないと家族も母国から呼び寄せできないと、語学重視の姿勢が徹底しています。「生活、仕事の安定は語学力から」との認識があると感じます。
─ 日本は日本語ができなくても受け入れていますね。
毛受 そこが大きな違いです。日本はこれまで外国人で定住するのは例外との認識で、日本語能力を十分に問わず受入れ、来てからも政府は日本語の学習を地域のボランティアに依存してきました。日本語教育推進法ができましたが、勉強したい人には日本語能力を身につける機会をできるだけ提供するというスタンスに留まっています。
─ ドイツは、その外国人と共生するためにドイツ語を学んでもらっているのに対し、日本は意思がはっきりしていない。
毛受 ええ。最近、文化審議会で、外国人の日本語レベルを欧州並みに高めるには、400~500時間が必要だという数字が出ました。しかし、これは実現可能か。多くの外国人は朝から晩まで働いていて時間がありません。
ですから、雇用をしている企業が、きちんと外国人のために日本語学習の機会を与えない限りは勉強できません。しかも、言語学者の方が言うには、日本に来た最初の期間にしっかり日本語を教えることが大切だと。しばらく経つと生活という現実に押されて学ぶ意欲が落ちてしまうのです。
日本の政策は「意志表示なしの移民政策」?
─ 19年に「改正入管法」が施行されましたが、その後の変化をどう見ていますか。
毛受 新たな在留資格として一定の専門性・技能を持ち即戦力となる外国人材を労働者として受け入れる「特定技能」が設けられたほか、「出入国在留管理庁」、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」もできました。
その意味では、法改正の後、日本でも実質的な移民政策がスタートしています。しかし、これは国の「意思表示なしの移民政策」ではないか。なぜなら、メッセージ効果がありませんから、国民の意識は変わりませんし、海外に対する情報発信にもつながっていないからです。
総合的対応策は毎年、改定され、また、今年6月には「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」もできるなど、方向は確実に移民受入れに向かっています。しかし、そのことを国民は知らない。
─ こうした取り組みを発信しない理由をどう見ますか。
毛受 1つは「移民」の議論がタブー視されてきたことがあるのでしょう。例えば総合対策の中では外国人を「生活者」と表現しています。これは他の国からすれば移民であり、総合的対応策は、統合政策、移民政策を意味します。
生活者という表現で、実質的な部分は進めようとはしていると。ただ重要なのは、移民という言葉を使うかどうかではなく、外国人との共生社会の実現こそが日本の未来の根本になり、「外国人と一緒に国の未来をつくる時代に入る」と政府がしっかりとした発信することだと思います。
そうすれば、国民の意識も変わると思いますし、外国人との共生も進むのだと思います。また政府の「移民」の懸念は杞憂かもしれません。深刻な人口減少の中で、すでに多くの日本人が、もう外国人の存在なしには日本は維持できなくなることはわかっていると思います。
─ 外国人受け入れに関する議論は、ほぼ限界点まで達していると。
毛受 ええ。この議論が始まりすでに30年が経過しています。その意味では、十分時間は使ってきており、今ではもう遅すぎるくらいです。「これから日本は外国人と一緒に共生する社会をつくる」と政府が方針を示せば自治体も企業も、一斉にその方向に動くと思います。
国民の意識はすでに変わっていますし、移民政策をはっきり打ち出しても反発は少ないのではないでしょうか。外国人受け入れに関して政府が明確に方針を示すというのは、国際的にも非常にポジティブなメッセージになると思います。このままだと日本は衰退する一方と世界は見ています。
そうした明確な姿勢がないと、人口が減り、人手不足になっても、他国からは日本は閉鎖的だとみられ、いい人が来てくれなくなり、質を問わず数の帳尻を合わせるような形になってしまいます。
─ 日本として「人材開国」の幕を切って落としたいですね。毛受さんはこの仕事に取り組まれて20年が経ちますが、やろうと思ったきっかけは?
毛受 元々、国際交流をしていたこともありますが、本来、外国人と交流することは、視野が広がり、新しい発見があり、価値観が生まれるなど、日本人として得るものが大きいと感じます。人口激減の時代に彼らとともに日本を元気にするという発想は自分には自然なことです。
外国人が入ることで日本はもっと楽しく豊かになり、閉塞感が強まる日本にとって多様性はやはり必要だと強く感じます。
また、日本人は好奇心が強く、日本には異文化を取り入れて、それを元にイノベーションを起こしてきたという歴史があります。外国人の方々を、もっと大らかに受け入れて発展することが、日本の本来の姿だと言えなくもないのではないかと。
─ 確かに、日本は聖徳太子の時代に神道がすでにある中で仏教という外来文化を受け入れて融合させましたね。
毛受 そうですよね。幕末から明治にかけて、欧米の先進技術や学問、制度、文化などを輸入すべく日本に招聘された「お雇い外国人」もそうですし、軍隊も陸軍は当初はフランス式で次にドイツ式、海軍はイギリス式を採用したという歴史があります。
世界中から優れたアイデアを集めて、普通だったら混乱としてうまくいかないようなものを、きちんと統合して国をつくるという、すごい能力があるのが日本です。
外からのエネルギーを自らのエネルギーに変えていく力がある。異文化を受け入れて発展するのが日本のDNAだと。異質なものを排除するというのは本来の日本の姿ではないのではないか。外国人の方々と協力して、新しくイノベーションを起こし、発展していく道を探ることが大事だと思います。
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