【倉本聰:富良野風話】國葬
財界オンライン / 2022年10月16日 11時30分
エリザベス女王の國葬の様子が世界中のマスコミで報道された。
【倉本聰:富良野風話】最期の問題 96歳という女王の人柄。世界中の人々に愛され、認められたその人格と、今は亡きかつての大英帝国の威信と伝統を示すその重厚な儀式の模様は、いわば一つのレガシーとしても人の心に残り続けるものであろう。
さて、運悪くも、時を同じくして行われた海のこっちの当国の國葬。対比するにも哀れすぎる。
選挙期間中に凶弾に倒れた元首相の葬儀を國葬で行うと宣言してしまった施政者たちの発言は、国民の半数以上が、反対の声を挙げていたというのに、もはや引っ込みがつかなくなって挙行への道をつっ走ってしまった。
コロナの蔓延、経済の困窮、いわば半分首が廻らなくなっている現状の日本が、国民のさし出す何十億円の税金を使ってまでこんな行事をすることがあったのだろうか。
岸田文雄さんという総理大臣に、僕は決して悪意を持つものではない。
むしろ好意すら持っている。只、最近の支持率の急落を見るにつけ、もしも本当に聞く耳をもつなら、この際、一度は宣言してしまったものでも、恥を忍んで断固撤回する勇気を持つべきではなかったかと僕は思う。
それが本当の世論に対する政治家の〝聞く耳〟というものではあるまいか。
モリカケサクラ。斃れた元総理は、そうでなくても様々な疑念と不信を国民の中に産んできた。いくら最長期政権といっても、エリザベス女王には比ぶべくもない。
ましてその後に噴出している旧統一教会問題を見る時、果たしてこの元総理が国葬に値する人物かということには、更なる大きな疑問符がついてくる。
凶行に及んだ暗殺者の行為は、断固許されるべきものではない。それ自体は当然、民主主義社会を破壊したものとして徹底的に裁かれ、断罪されるべきものだろう。
しかし。あの凶行がもしなかったら、我々は旧統一教会問題というものをどの位認知できていたのだろうか。選挙というものがあれ程その裏で一宗教の力を借り、世の中を動かす政治家の選別に、あれだけの力が加わっていたのかということを、明らかにされて僕はゾッとする。
しかもそのおかげで議員に選出された、決して少なくない政治家というものが、そのことにさしたる罪の意識もなく、この國を動かしていたという現実に、呆れるというより恐怖を感じる。
議員になるのは就職なのだろうか。
國を動かして行くということを彼らはどのように考えているのだろうか。
そう考えると僕はあの凶行に及んだ犯人が、犯罪は犯罪として不謹慎ながら、ある種、一石を投じた者にさえ見えてくるのである。
いずれにしても國葬とするには無理があったのではあるまいか。エリザベス女王の國葬の後に、この國の國葬は余りにも恥ずかしい。
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