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三井化学と日本製紙がタッグ、紙とプラの両面性を持つ「バイオマス素材」開発

財界オンライン / 2022年10月7日 7時0分

三井化学と日本製紙が開発している「バイオコンポジット」

2050年の脱炭素に向けて、新たな素材の誕生が求められている─。総合化学大手・三井化学と、製紙大手・日本製紙が「バイオマス複合材料」の開発でタッグを組んだ。日本製紙が供給する木質バイオマス材料を、三井化学が複合材料化する。化学と紙の異業種連合だ。今後は日用品や家電製品、さらには自動車部材など、幅広い分野への採用を目指している。その可能性は─。

木質バイオマスを主原料に樹脂同様の強度

「そもそもの発想は、天然繊維を高含有することだった。セルロースの含有率が50%を超えると可燃物、紙の扱いになるということが大きい」と話すのは、三井化学理事で、モビリティソリューション事業本部複合材料事業開発室室長の森 峰寛氏。

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 三井化学は2022年9月、製紙大手の日本製紙と、木質バイオマス素材である「セルロースパウダー」を高配合した新しい「バイオコンポジット(複合材料)」の開発における連携をスタートした。

 三井化学が持つコンパウンド(化合)技術と、日本製紙が培ってきたセルロースパウダー製造技術を組み合わせて、強度や加工性に優れたバイオコンポジットを生み出す取り組み。

 木質バイオマスを主原料としながら、樹脂と同様の成形性、強度を持つ素材の開発を目指しており、石化樹脂に比べてCO2排出を削減し、ひいては脱炭素に貢献するもの。22年度から限られた顧客、23年度から幅広い顧客にサンプルを提供し、25年度を目処に複数案件の受注を目指す。

 バイオマス素材を使った複合材料開発のきっかけは、数年前に独自動車大手・ダイムラーなどが、「ヘンプ(麻)材」を内装に使用したり、ポリプロピレンとの複合材料をドアパネルに使用したりという取り組みをしているのを知ったこと。

 ただ、ヘンプ材について調べていくと、日本では「大麻取締法」で麻の生産には厳しい制限がかけられていることがわかった。さらに、ドイツからヘンプ材を輸入して分析してみたところ、製品の強度にバラつきがあった。「正直、このバランスの製品をよく使っているな、というくらいだった」(森氏)。

 麻の活用は断念したが、その後も様々な天然素材を調べていく中で、日本製紙が生産している「セルロースマイクロファイバー」に行き当たった。「すでに工業製品にも使用されており非常に品質が安定している。奇をてらったものではなく、きちんとした工業製品をつくりたいという思いがあり、原料品質の安定は重要だった」と森氏。

 今後、開発した素材を日用品、容器、建材、家電製品など様々な分野に展開することを目指すが、特に森氏がモビリティソリューション事業本部の所属であることからもわかるように、将来的なターゲットは自動車での採用。日本の自動車の品質は世界最高水準。そこで大量に使用してもらうためには、品質の安定性は不可欠。その考えに合致したのが、日本製紙の原料。

「他に生産しているメーカーもあったが、日本製紙さんと連携することが、製品のクオリティを上げていく観点から一番正しい道だと考えた」(森氏)

 日本製紙としても「異なる業界の大手が開発連携することで、環境対応の製品を社会に幅広く供給できると考えている」(日本製紙関係者)と期待する。

 三井化学は、現在会長を務める淡輪敏氏の社長時代から日本製紙と連携している。直近では環境配慮型包装材に共同で取り組んでいる他、次世代素材と呼ばれる「セルロースナノファイバー」の活用でも連携。

 ただ、今回のバイオコンポジット開発においては、ナノファイバーよりも粒子が大きいマイクロファイバーで「十分な性能が出てきた」ため、コスト面など実現可能性の観点から採用。

 現在、セルロースマイクロファイバーを50%超、あるいはそれ以上含有したバイオコンポジットを開発中だが、簡単な形のものは問題なく成形できても、自動車のインパネのように、細かい形状を含む大面積のものを成形する際には課題が多い。

 ここは三井化学が持つ、異種の素材を混ぜ合わせる「相溶加材」の技術や、日本製紙の原材料改質などで乗り越える考え。

 近年、企業、個人からのバイオマス素材を活用した製品へのニーズは高まり続けている。個人でいえば、三井化学が22年4月に全国の20代から60代400人を対象に実施したアンケートでは、環境意識の高い層でバイオマスプラスチックの選択意向が7割を超える結果となった。

 企業からも、セルロースを50%超含有したバイオマスコンポジットへの要望が高まる。前述の通り、含有率が50%を超えると分類が「プラ」ではなく「紙」に変わり、「可燃物」として処理することが可能になる。いわば牛乳パックと同じ扱いにできるということ。

 三井化学はグループで提供している製品・サービスが、環境や社会にどれだけ貢献しているかを見える化するために環境貢献価値「Blue Value®」、QOL(生活の質)向上への貢献価値「Rose Value®」を指標に置く。

 これらの指標を満たさないと投資がしづらいというほど、環境や社会への貢献を重視した経営にカジを切っている。

 こうしたバイオコンポジットが普及した世界を、三井化学としてはどう描いているのか。「子供達が、天然繊維を使った素材やリサイクル品を『かっこいい』と思ってくれる世界になっていることを期待している」と森氏。

 三菱ケミカルグループや住友化学といった化学メーカー、パナソニックなどの家電メーカーもバイオ素材の開発を進めているが、「リサイクルを含め、我々の方が優れた材料になるのではないか。数年先に、我々の競合が同じような素材をつくっているように、標準化を目指したい」と森氏は強調。

 2050年の脱炭素目標に向かって、近年特に「化学」の力の重要性が増す。三井化学と日本製紙という異業種の連携。こうした異業種連携が日本の潜在力を掘り起こす。

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