「安い日本」、「縮む日本」でいいのか?【私の雑記帳】
財界オンライン / 2022年10月15日 11時30分
日本は安い!
「外国人客も徐々に増えてきました。これは結構なことで嬉しいんですが、宿泊料金を見て、『チープ(安い)!』と叫びましてね。欧州からの企業経営トップの発言ですが、複雑な心境ですよ」
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都内の有力ホテルの某会長はこんな感想をもらす。
円安が進行し、外国から日本を訪れた人たちは、宿泊料金にしろ、買い物の代金にしろ、「とにかく日本は安い」という実感を持つ。
同じ『ユニクロ』の製品でも、「ニューヨークで買う時の半値ぐらい」といった感想が外国人客からは飛び出てくる。
一方、日本国内に住むわたしたちは円安に伴う輸入物価の上昇で「モノの値段が高くなった」という実感である。
内外の金利差も加わり、ドル高・円安が激しく進行。そのことが企業経営、個人の生活領域にまで大きく影響を与えている。
世界から見れば、〝安い日本〟であり、〝縮む日本〟である。
今年3月初めまでは1ドル=110円台で為替相場は推移。この頃までは日本のGDP(国内総生産)は約5兆ドルと思っていた。
しかし、その後、ドル高・円安が進み、1ドル=145円台まで円は売られた。日本のGDPは4兆ドル台に縮小し、3兆ドル台に転落かという水準まで来た。
米国のGDPは約23兆ドル、中国のそれは約17兆ドル。日本の経済規模は米国の6分の1、中国の4分の1にまで縮むことになる。
GDPは国力を示す指標とされる。日本の貿易収支も赤字となっている。これまで世界1と自負していた対外純資産(日本円換算で約410兆円、昨年末)も、ドル換算すると減少していくことになる。富の〝国外流出〟も続く。
安くなった日本を買い叩こうと、香港やシンガポールなどアジアの富裕層や投資家が日本のリゾート地や都内のホテルを買収する話が相次ぐ。
今回の円安は、日米金利差から生じている。マイナス面ばかりが目につくが、今回の円安ショックは、日本の産業構造改革の必要性を認識させることにもなった。
いま産業界では二極化現象が生まれている。
輸出企業は為替差益が得られ、メリットが大きい。一方、輸入企業や家計はコストアップになり、デメリットを大きく感じる。
日本全体で見ても、輸入コストの上昇は物価上昇にハネ返る。東京都区部の8月の消費者物価指数は前年同月比で2・6%アップとなった。
長らくデフレに見舞われていた日本。脱デフレを目標に政府も日銀も動いてきていたが、数字の上では努力目標の『インフレ率2%』を達成。しかし、景気がよくて、2%の物価上昇を達成したのではなく、コストアップによるインフレというのが真実。
従って、日銀も従来の超金融緩和策をこの時点でも変えようとはしていない。
家計は何もかもが値上げとなり、苦しくなり、そこへ日銀が金利政策の変更で政策金利を引き上げれば、景気後退につながるとい懸念。また、約1200兆円の〝借金〟を持つ政府も、金利引き上げは、一層の財政負担が増し、「政府がもたない」という現状。
かと言って、いつまでも超金融緩和が続けられるわけではない。
日本商工会議所会頭の三村明夫さんは、産業界の二極化現象を受けて次のように語る。
「好ましいのは、メリットを受けた企業がそのメリットを日本経済の中に還元すること。具体的には、デメリットを受けている企業と適正価格で取引する。取引先の従業員も賃金を上げ、設備投資などの企業行動が取られれば、日本全体でデメリットを軽減することにつながります」
三村さんは日頃、大企業と中小企業の取引適正化を訴えている。
中小企業は約360万社で日本の総企業数の99・7%を占める。これに対し、大企業は約1・1万社(構成比0・3%)だが、中小企業との取引交渉では圧倒的に優位な立場にある。
中小企業も、自立・自助の精神で構造変革を迫られている時に、コロナ禍、そして今回の円安ショックに見舞われ、まさに真価が問われている。
三村さんも、「円安が日本経済に与える影響をしっかり分析・共有したうえで、どのような政策が望ましいか検討することが大事」と語る。
いずれ、金融緩和策の出口はやってくる。そのことを覚悟しての変革が求められる。
製粉やパスタ類、さらには健康食品など、国民生活と深く結び付く日清製粉グループ本社。
今年6月社長に就任した瀧原賢二さん(1966年生まれ)は、「本当に嵐の中の船出という感じがします」と気を引き締める。
食の基本となる製粉や食品を提供する立場から、「非常に社会的意義のある会社だと思っています」と社長就任の抱負を語る。
そして、何より、「安定供給を果たしていく」とその決意を示し、社員にも「大変厳しい状況ですが、前向きに、一緒に仕事をしていきましょう」と呼びかける。
同社は製粉、加工食品(パスタなどの麵類)、酵母バイオ、健康食品、中食・惣菜、さらにはエンジニアリング、メッシュクロスがコア(中核)事業としてあり、この7つの事業会社を抱える。
その中で、約120年前に創業した製粉の存在はやはり大きい。国内シェア約40%ということは、それだけ大きな供給責任を伴うことになる。
食糧不足は社会の不安を招く。わたしたちは、歴史的に内外でその事を経験してきている。
「はい、食糧安保の仕組みをつくることが重要だと思っています」と滝原さん。
パンや麺類の元となる小麦の日本での年間消費量は500万トンから600万トン。その内の15%位は国内産だが、大半は輸入に頼っている。
輸入先は米国、カナダ、オーストラリアで輸入量の大半を占める。パン用の小麦とされるのがカナダ産。ウドンなどの麵類に適しているのは日本産の小麦である。
輸入先は日本と価値観を共有する国々だが、小麦の世界市場も波乱ぎみ。インドは低級品の小麦輸出国だったが、最近国内市場優先の立場を取り、インド産小麦を輸入していた中東や東南アジアが米国やカナダ産小麦にも目を向けるようになった。
食糧争奪戦の様相も深まる中での食料安全保障。小麦の値上げも昨年2回、今年4月に1回と、すでに3回実施。小麦価格を管理する政府は「当面、価格は変えない」と発表。製粉会社のコスト削減努力が続く。
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