「持続可能なヒントは日本の中に眠っている」国際社会経済研究所理事長・藤沢 久美
財界オンライン / 2022年10月24日 7時0分
妙な株主資本主義に踊らされて…
─ コロナ禍が長期化し、ロシアによるウクライナ侵攻も8カ月近くが経とうとしています。世界が混乱状態にあるわけですが、藤沢さんは足元の経済環境をどのように見ていますか。
藤沢 世界が混沌としているのは皆さんも感じていらっしゃる通りなんですが、わたしは世界以上に日本が心配です。
日本は成長戦略が成功しないまま失われた30年が過ぎ、どんどん経済が弱体化しています。わたしが言うのはおこがましいですが、それは企業も弱くなっているし、政治も機能しなくなっていると思うんですね。
これは別にどの政党がいいとか悪いという話ではありません。政治が思い切ったことをやれない中で、もう背に腹は代えられないということで、民間がもっと積極的に動き出さなければならない状況だと思います。
─ 本当ですね。今こそ経済人の出番ということにも。
藤沢 そうなんです。一般国民もそうですけど、今は経済人も国に援助してもらいたいという人は多いですよね。しかし、そういうことではなく、政治や国を巻き込むくらいのことが民間でできないだろうかと。
わたしが個別に経営者の方にお会いすると皆さん、本当に頑張っています。そこで感じるのは皆さん、妙な株主資本主義に踊らされて、短期的に利益を出さなければならないと思い込みすぎているということです。
─ それをガバナンスと心得ている人は多いですね。
藤沢 しかし、本来の経営者が持つべき思考とは、リスクを取ったからリターンがあると。リスクを取ったらどこまでリターンを最大化するか。しかも、そのリターンは経済的リターンだけではなくて、人的なリターンであるとか、環境的なリターンであるとか、ネットワークのリターンであるとか、いろいろなリターンがあるわけです。
お金だけではない様々なリターンをどれだけ意識して、それを最大化するための画を描き、努力をするというのが経営者の仕事だと思うんですけど、今は経済的な金融リターンのみに寄り過ぎているのではないか。
しかも、3カ月に一度の決算は一度たりともマイナスになってはならず、すぐに利益を出さなければならないと。そういう短期思考は、ある意味で投機的な思考になっていて、投資の思考ではないと思うんですね。
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─ これは既存の産業も、若いIT企業も同じですか。
藤沢 同じだと思います。ただ、スタートアップの若い人たちの中には「100年先」という言葉を使う経営者も出てきて、先日お会いした経営者の方も「100年先の産業をつくる」と仰っていました。
わたしはこの数年で「100年先」という言葉を使う人がすごく増えてきたように思うので、非常に頼もしく感じます。
─ これはどういう心理的状況だと思いますか。
藤沢 やはり、今の20~30代の方と話をしていると、彼ら・彼女らは生まれた時から日本が沈むと言われて、未来がないと言われて育ってきた世代です。
しかも、世の中は長寿化してきて、人生100年時代と言われていますから、20歳の人であれば、これから80年をどうやって生きたらいいんだ? と真剣に考えているんです。
そこでキーワードになっているのが「持続可能性」という言葉で、社会が持続可能でなければ100年先の未来はないと言うんです。
特にわたしが話を聞いていて面白かったのは、若い人たちの中で歴史を勉強している人が増えていて、100年以上続いている伝統産業であるとか、日本の技術や技能に興味を持っている。そういう日本の歴史を振り返って、物事を考えていけば持続可能なヒントは日本の中に眠っているのではないかと。そういうことを言う若者が増えているというのは、驚きであると同時に興味深いことでした。
これから100年先の社会をどうつくっていくかという視点と同時に歴史や伝統から学ぶ姿勢を併せ持つ人が増えているのは、すごくいいことだと思います。
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