デジタルで横串を刺す専門組織を設立 人と人をつなぐ【東急】の「街づくりDX」戦略
財界オンライン / 2022年10月21日 18時0分
今年9月に創業100年を迎えた東急グループ。コロナ禍で鉄道需要の厳しさが続く中、鉄道やホテル、流通など多岐にわたるリアルな資産を活かすためにデジタル開発を担う専門部署を設立し、外部からIT人材も採用している。多岐にわたる事業にデジタルで横串を刺す。100年続いた鉄道会社のビジネスモデルが大きく変わろうとしている。
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これからの街づくり
「これからの街づくりには、いろいろなソフトをミックスしたものが求められる。単にスマートシティー的にデジタル化すればいいかといったら違う。そこに楽しさや豊かさを感じさせるような街づくりでないといけない」─。このように強調するのが東急会長の野本弘文氏だ。
沿線には約500万人が住み、鉄道乗降客数は年間約9億人。グループ会社は200社以上に達する東急グループ。私鉄の雄として名を馳せ、今年9月に創業100年を迎えた同グループが、コロナ禍でビジネスモデルの転換が求められている。
東急グループの幹部は「これまでの東急グループのビジネスモデルは鉄道をはじめ、ホテル、流通、リゾートなど多くの人を1カ所に集めて商売をするスタイルだった。しかし、コロナ禍でそれが通用しなくなった」と危機感を露わにする。
実際、東急の2022年度の業績見通しでは、東急電鉄の輸送人員は19年度比で21%減を見込み、東急ホテルズの通期稼働率も69%台を想定。鉄道需要などはコロナが落ち着いても「コロナ前の水準には戻らない」(同)という見方をしている。
そんな中で東急は次の100年を見据えた手を打ち始めている。それが「街づくりDX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。前述した通り、東急グループは鉄道やバスといった交通や不動産、流通・小売り、ホテル、エンターテインメント、電気、ガスなど、事業は多岐に渡るものの、ほぼすべてがリアルビジネスになっている。
こういったリアルの資産を次の時代にどう生かしていくかが最大の課題。そこでポイントになってくるのがデジタルだ。東急首脳は「今後間違いなくデジタル都市という世界が訪れる。そのデジタルの部分に東急グループがどう取り組むか。その場合に不可欠なのが『デジタル基盤』、つまりネットで皆がつながり、データを集める基盤だ。東急グループが街づくりのプラットフォーマーになり、1人ひとりに最適なサービスを提案していけるようにする」と語る。
そこで動き出したのが、街づくりDXを加速させるために昨年設立された特別組織「アーバン・ハックス」。この1年間で30人の専門人材を採用し、東急グループ3社のスマートフォンアプリを内製で開発。サービスの提供を開始した。
ソニーグループのグループ会社を経て日産自動車に転じ、昨年4月に東急に入社したプロジェクトオーナーの宮澤秀右氏は「東急グループの核となるデジタルプラットフォームを構築し、グループの各事業を横断したアプリやサービスを開発する組織として生まれた」と語り、「『リアルとデジタルの融合』こそが東急における重要な戦略であり、その推進を担う組織がアーバン・ハックス。顧客を起点にして次世代の街づくりを進めていく」と自らの役割を話す。
平たく言えば、アーバン・ハックスの使命はリアルなサービスをデジタルの体験と融合させ、生活や仕事、エンターテインメントなど、各事業間を横断するサービスやアプリケーションを提供することになる。
例えば、電車を降りた顧客が駅構内の東急ストアを利用する際、改札から店舗までの僅か数十㍍が断絶し、1人の顧客として認識されていないのが現状の課題。そのすき間をつなぐようなサービスを提供することで、新たな体験価値を得られる。
内製化にこだわる理由 ただ、東急グループの主力事業は鉄道や不動産であり、自前でのソフト開発経験はなかった。そこでアーバン・ハックスが中心となって外部からWebデザイナーやモバイルアプリエンジニアなどをかき集めた。その成果が少しずつ出てきている。要はソフト開発の内製化だ。
その一例が「東急線アプリ」のリニューアル。新しい東急線アプリでは鉄道の遅れなどの情報をタイムリーに通知し、アプリを起動していなくても情報を視覚的に確認できるようにした。加えて、迂回ルートの確認や遅延証明書の発行ができ、個人の予定への影響を最小限に抑えられるようにサポートする。
東急カードアプリも「東急カードプラス」に変更した。起動時に生体認証を用いてユーザーの安全・安心を確保できる。利用明細は利用月ごとにグラフ表示するなど直感的に理解できるように工夫を施した。
さらに「東急ホテルズ」アプリもリニューアル。22年7月に開業した「京都東急ホテル東山」では、スマホがホテルの部屋の鍵になる「デジタルルームキー」機能を先行して導入した。10月開業予定の「吉祥寺エクセルホテル東急」でも東急ホテルズアプリを活用したサービスを拡張する計画だ。
鉄道会社でありながらデジタル技術を内製化させる─。通常であれば、デジタル領域は外注するものだが、東急はあくまでも内製化にこだわるという。宮澤氏は「ソフト開発は常に時勢の変化にタイムリーに対応しなければならない。外注していては時間がかかる。明日にでもサービスをローンチできるようにするためには手の内化する必要がある」と強調する。
そして、「沿線の街で暮らす人、渋谷に通勤する人、東急のサービスを日々利用する人たちの声を取り入れて、不満を取り除き、要望を聞きながらプロダクトをアップデートしていく」と宮澤氏は将来性について語る。
東急の見据える街づくりのDXは総合不動産やITといった専門人材を抱える企業との競争にもなる。激しい競争の中で、鉄道会社ならではのリアルな資産を強みに変えてデジタルな一手が打てるかどうか。鉄道を起点に生活産業グループとしての歩みを始めている。
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