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【政界】「私が先頭に立つ」と意気込む岸田首相 トップダウン型の政治手法へ転換か

財界オンライン / 2022年10月21日 15時0分

イラスト・山田紳

先の参院選での勝利後、旧統一教会問題、元首相の安倍晋三の「国葬」実施などで支持率が低下した首相・岸田文雄が国民からの信頼を取り戻すためには何が必要か─。物価高・円安対策、防衛力強化に加え、原発・エネルギー政策など深刻な政策課題がある中、基本的には国力を高めるほかない。特にアベノミクスで未達成の『民間経済の成長』を官民挙げて実行することが求められる。政権運営2年目に入った岸田の手腕が問われる局面が続く。

【政界】日中国交正常化50年に複雑化する国際情勢 問われる岸田首相の「したたか外交」
原発政策の大転換
「世界が、そして日本が直面する歴史的な難局を乗り越え、我が国の未来を切り開くため、政策を一つひとつ果断に、かつ丁寧に実行していきます」

 岸田は10月3日の所信表明演説の冒頭、そう決意を表明した。そして、物価高対応として「構造的な賃上げ」の実現のほか、「家計や企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する前例のない思い切った対策を講じる」「エネルギー、食料品について危機に強い経済構造への転換に取り組む」などと訴えた。

 岸田はこの時すでに原発・エネルギー政策の転換へ大きく舵を切っていた。これまで「原発新設・増設は想定していない」としてきたが、8月のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、次世代革新炉の開発・建設の検討を加速するよう指示したのだ。「可能な限り原発依存度を軽減する」とした昨年10月の「エネルギー基本計画」の変更につながる。

 GX実行会議では、その他にも、東京電力福島第1原発事故後に稼働している原発10基に加えて、7基を追加で再稼働することや原則40年と定められた既存原発の稼働期間を延長する方針も表明した。再稼働に関しては「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」と強調した。

 2050年の脱炭素社会の実現に向けて遅れを取り戻すことと、電気料金高騰と電力需給逼迫という直面する危機の回避を狙ったといえる。日本の将来を決める重要なテーマだ。岸田は「エネルギー危機の克服とGX推進を両立させなければならない」と語る。「新増設も避けては通れない」という思いもある。

 岸田政権は23年夏以降の原発再稼働を目指している。ただ、「脱原発」論は根強く、周辺自治体や地域住民らの理解を得るのは容易ではない。新設・増設につながる次世代革新炉の検討もまだ始まっていない。

 原発推進への転換は「原発ゼロ」を掲げる立憲民主党などの野党はもちろん、「原発に依存しない社会」を目指す与党の公明党も慎重だ。今後、国論を二分する議論に発展する可能性が高い。

 もっとも、岸田が突然、次世代革新炉の検討などを言い出したわけではない。昨年9月の自民党総裁選に出馬したときからの持論でもある。「再エネ一本足打法では十分ではない。原子力は大切な選択肢だ。将来的に小型モジュール原子炉、核融合技術も進める」「電力の安定供給、価格を考えた場合、まずは原発再稼働。次に使用期限の問題。リプレース(建て替え)する必要もある」などと主張してきた。

 タイミングを見計らっての決断で、いよいよ実現に向けた実行力が問われることになる。



決断も支持率急落  岸田が参院選後にリーダーシップを発揮して素早い決断をしたのが、安倍の「国葬」実施だ。安倍が街頭演説中に凶弾に倒れて1週間も経たない7月14日に表明している。記者会見した岸田は、安倍が①憲政史上最長の8年8カ月も重責を担った②大きな実績を様々な分野で残した③国際社会から極めて高い評価を受けた─ことなどを理由に挙げた。

 当初は多くの国民も理解を示していた。しかし、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党国会議員との関係が問題視され、安倍本人にも重ねられたことに加え、国葬費用を警備や外国要人の接遇にかかる経費などを除いて発表したことなどが不評を買い、徐々に反対論が膨れていった。

 そこで岸田はさらなる決断をする。「国葬儀の実施を判断した首相として、ご意見、ご批判を真摯に受け止め、正面から答える責任がある」として、国会の閉会中審査に出席する考えを表明したのだ。与党内にあった「野党の追及を受け、十分な答弁ができないとマイナスが大きい」(自民党幹部)といった慎重論を押し切ってのことだった。

 岸田は9月8日の閉会中審査で「各国からの敬意と弔意に対し、日本国として礼節を持って応えることが必要だ」と訴えた。実際、約4200人が参列した9月27日の国葬には、218の国や地域、国際機関から約700人もの要人が参列した。岸田は翌28日、「国内外から寄せられた多くの弔意に丁寧に応えることができた」と胸を張った。

 しかし、国民の反応は冷ややかだった。読売新聞の世論調査(10月1、2両日実施)では国葬実施を良かったと「思わない」という人が54%にのぼり、「思う」の41%を上回った。朝日新聞の世論調査(同日実施)では「評価しない」が59%に達し、「評価する」は35%にとどまった。

 岸田の決断が裏目に出た格好となった。岸田が打ち出している原発・エネルギー政策の転換も支持、評価が多いとはいえ、岸田の決意や思いが国民に届かなければ、国葬実施の決断と同じような道を辿る可能性がある。



安全運転から一転  岸田は参院選までは「安全運転に徹する」との姿勢を貫いてきた。重要な政治決断も、様々な意見を聞きながら国民世論の動向を慎重に見極め、最終段階で判断をした。世論の風向き次第で前言を撤回することも厭わなかった。ボトムアップ型の政治手法といえる。

 例えば、今年2月の北京冬季オリンピック開会式に政府代表団派遣を見送ることを表明したのは、米国や英国などの「外交ボイコット」表明から大きく遅れた昨年12月24日のことだった。しかも米国などが反発した中国の新疆ウイグル自治区などでの人権問題には触れず、「外交ボイコット」という言葉も使っていない。

 また、新潟県の「佐渡島の金山」を世界文化遺産候補として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦することを決めたのも推薦期限の今年2月1日の直前だった。一時は韓国側の反対を受けて推薦見送りを固めていたが、自民党内の「弱腰」批判を受けてのことだった。このときは野党からも「遅いし、ブレるという岸田政権の姿を表した象徴的な出来事だ」(立憲民主党幹部)などと批判された。

 さらに、新型コロナウイルスのワクチン接種の間隔でも、「原則8カ月以上」を6カ月に短縮することを決めたタイミングも遅れ、オミクロン株の感染拡大の一因とされた。

 それでも内閣支持率の下落につながることはなかった。

 そんな岸田は参院選後から「私自身が先頭に立つ」という言葉を良く発信している。2年目に入る政権運営は安全運転から脱し、自らが牽引する強いリーダーシップを発揮すべきだと判断しているようだ。

 10月3日の所信表明演説では、来年5月に先進7カ国首脳会議(G7サミット)を広島で開催することを踏まえ、「私自身が先頭に立ち、普遍的価値に立脚した国際的な規範や原則の維持・強化、地球規模課題への取り組み、そして国民の命と暮らしを断固として守り抜く」と訴えた。

 訪米中の9月22日にも広島サミットに触れつつ、「国際社会の諸課題について私自身が先頭に立って議論を主導していく」と述べている。また、旧統一教会問題に国民の厳しい視線が注がれていることから、「私が先頭に立ち、政治への信頼回復に取り組まなければならない」と繰り返す。

 もちろん参院選前も「まなじりを決し、戦い抜く。私自身がその先頭に立つ」と自民党総裁として選挙への決意を語ることはあった。だが、その他は「日本が先頭を走り、アジアの皆さんもしっかり牽引していきたい」(3月の参院予算委員会)、「わが国は新たな官民連携の構築によってグローバルな経済社会変革の先頭を走る」(1月の年頭記者会見)など、国際社会の中での日本の立場を主張するときくらいだった。

 もっとも、新型コロナ対策を巡って「必要な方に検査キットが届くよう私が先頭になって取り組みを進めていきたい」(2月の衆院予算委員会)、「ワクチンの確保についても私自身、先頭に立って強い覚悟で臨んでいきたい」(昨年12月の衆院予算委員会)などと決意を語る場面もあったが、多くは「(オミクロン用のワクチンを)早く確保するため首相自ら先頭に立って交渉して欲しい」などと決意を質されてのことだった。



問われる決断力  それが最近、「私自身が先頭に立つ」というフレーズが目立つのは、ボトムアップ型からトップダウン型の政権運営への転換を意識しているからにほかならない。岸田にとって当選同期の盟友であり、首相として「お手本」にしてきた安倍が急逝したことで、自身が先頭に立たなければいけないという思いもありそうだ。

 ただ、参院選後の数カ月で内閣支持率は急落した。岸田が先手を打って決断した国葬実施や内閣改造も政権浮揚にはつながっていない。原発・エネルギー政策の大転換も「絵に描いた餅」に終われば支持回復は望めない。

 これから、ロシアによるウクライナ侵略など安全保障環境の変化を受けた「防衛力の抜本的強化」のための予算や財源確保の議論が本格化する。旧統一教会問題を巡り、悪質商法や悪質な寄付による被害者救済策や消費者契約に関する法令の見直しも加速させる必要がある。

 さらに、新型コロナ対策でも機動的な臨時対応を可能にするための感染症法改正作業などが急務だ。物価高が続く中で「構造的な賃上げ」も実現させなければ国民の不満は膨らむ。

「信頼と共感。この姿勢を大切にしながら正道を一歩一歩、前に向かって歩んでいく。この国の未来のために全身全霊で取り組んでいく」。そう決意を示して所信表明演説を締めくくった岸田。

 物価高・円安対策、防衛力強化など厳しい環境下で、民間経済の成長を促す政策が求められる。経済の成長なくして政治の信頼は出てこない。岸田の決断力が求められる局面だ。(敬称略)

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