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【習近平3期目をどう読む?】國分良成氏を直撃!「習近平にとって過去10年間は権力闘争。 ここから本当の『習近平時代』が始まることになる」

財界オンライン / 2022年11月11日 11時30分

國分良成・前・防衛大学校長

「いくら『権力』を持っても『権威』が生まれるとは限らない」─前・防衛大学校長の國分良成氏はこう指摘する。中国の第20回共産党大会が終わり、習近平総書記体制は規定を変えて3期目に突入した。そして最高指導部人事を自らに親しいメンバーで固めるという、世界の事前の予想を裏切る事態に。今後、中国はどう動き、世界はどう対応すべきなのか。

世界と習近平では 「合理性」が違った

 ─ 中国共産党の第20回党大会が終わり、習近平総書記の3期目が始まりました。まず、党大会をどう総括しますか。 

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 國分 まず驚いたのが、我々専門家を含め、中国の指導部人事に関する世界中の予想がほとんど外れたことです。 

 事前の予想では、次の首相候補として副首相の胡春華(中国共産主義青年団=共青団派)、全国政治協商会議主席の汪洋(同)の名が挙がり、現首相の李克強(同)は、首相退任後も最高指導部に残るという見方もありましたが、全て裏切られました。 

 ─ この要因をどう分析しますか。 

 國分 中国の情報統制が非常に強く効いていたことが、まず挙げられます。2021年に香港国家安全維持法が施行されて以降、中国は「閉鎖」されました。少しは流れるはずの情報が一切流れなくなったのです。 

 さらに、今回世界の予想が外れた最大の理由は、我々の合理性で物事を考えていたからです。多くの専門家は「習近平はおそらく、少しは党内のバランスを図るだろう」と、合理的に予測をしていました。しかし、それは習近平にとっての合理性ではなかったということです。 

 習近平にとっては、3期目突入ということで従来の任期を超えて、このあと自分に残りどのくらいの時間があるか、わからないわけです。それを考えた時に、自分の信頼できる部下だけを最高指導部に入れて、これからの5年、10年の統治を行うことにしたのだと思います。 

 このことを違う言い方をすると、過去の10年間は権力闘争だったということです。習近平が自分の権力を固めるための10年間で、この間、実は独自路線はさほど出てきておらず、むしろここから「習近平時代」が始まると考えた方が妥当なのではないかと。 

 ─ この10年を振り返ると、経済成長が鈍化するなど、難しい時代でもありました。 

 國分 ええ。米国、日本、韓国との関係も難しいものになりましたし、巨大経済圏構想「一帯一路」も停滞しています。対外的に大きな成果はなかったと言っていいと思いますが、習近平にとっての最大の成果は「反腐敗闘争」だったのです。 

 鄧小平以降、「改革開放」で社会主義市場経済路線を進めてきましたが、党が最終的な許認可権限を持った市場経済ですから、政治腐敗がはびこりました。これを江沢民時代は実質黙認し、胡錦濤時代は権力が弱くて除去することができず、既得権益層を増やして腐敗が巨大化してしまった。そこに習近平時代が始まったわけです。 

 反腐敗闘争が、この10年間の最大テーマであり、習近平はここに注力してきたと。この時の最大ターゲットは「上海閥」と呼ばれる江沢民・曽慶紅(元国家副主席)グループでした。 

 ─ この時の共青団派との距離感はどう見ていましたか。 

 國分 習近平は共青団派を反腐敗闘争に利用してきました。時に李克強の力も使ってきたわけですが、今回、最後に共青団切りをしたのです。つまり、反腐敗闘争というのは権力闘争だったということです。 

個人崇拝は一方通行では 成り立たない 

─ 習近平1強時代になったわけですが、「個人崇拝」を強めていくことになりますか。 

 國分 問題は、崇拝をするかどうかは一方通行では成り立たないということです。上から強制しても崇拝は生まれません。いくら「権力」を持っても「権威」が生まれるとは限らないということです。特に、40年も改革開放をやってきて、社会はもう多様化しているわけです。 

 ですから今後、個人崇拝につながるようなキャンペーンは進めるでしょうし、制度的にも習近平の正しさを訴え続けると思いますが、逆に言えばそれは「強さ」ではなく「弱さ」の表れという感じがします。 

 ─ 中国の大衆の中から反発が出るということは考えられませんか。 

 國分 反発があったとしても、中国はこれまで人類が経験したことがない「監視体制国家」を作り上げてきました。 

 あらゆる技術、装置を使って、中央監視機構を構築したわけです。人の心の中までは統制できませんが、何か行動を起こそうとした時には、すでに様々な情報が感知されるという体制です。 

 行動を起こすのは容易ではありませんし、起こしたところで組織がなければ散発的で終わることになりますから、普通の人達としては、政治からできるだけ距離を置くようになります。 

 そして、習近平思想に好意を感じているか、いないかは別として、それに反発することによる不利益を被らないように服従することが無難だということにならざるを得ないと思います。 

 ─ ただ、歴史を見ても、個人の独裁が長続きした例はありませんね。 

 國分 「権力は必ず腐敗する」とよく言われます。ただ今後、中国では国民に口を開かせない体制になるわけです。 

 では、どこに問題の「裂け目」ができるかと考えると、それはやはり「経済」です。どうやって成長の原動力を見出すかということが最大のポイントになるはずです。 

 ただ、今回の党大会の報告を見ても、最も重視しているのが「国家の安全」と「先端的科学技術」です。このうち、先端的科学技術は、大規模な生産につながらないことが多く、必ずしも雇用を生み出すわけではありません。その意味で、経済成長に貢献するかは疑問です。 

 また、問題は投資です。これまで、やり過ぎによって不動産などのバブル崩壊が至るところで起き、誰も住んでいないマンションが林立しています。これ以上投資をすることの危険性は中国も感じていると思います。 

 この投資の代替として「一帯一路」を構想したわけですが、投資先行で見返りが少ないという状況になっています。 

 ─ 国内雇用の確保も重要になってきますね。 

 國分 そうです。中国では今年7月から8月にかけて約1100万人の大学生が卒業しました。日本の20倍近い数ですが、彼らの就職がどうなったか。 

 昨年は、約600万人が大学院を受験しています。合格者数はわかりませんが、おそらく200万人いないのではないでしょうか。それ以外の人たちがどうなったかは、ほとんどわかっていません。中国が最近公表している数字によると、青年層の失業率は20%近い。 

 コロナ禍が、まだしばらく続きそうだという前提で考えると、経済的には相当苦しい状況を迎えることになるでしょう。そうなると、コロナが収束するまでの間は上からの統制を強めざるを得ない。むしろ徹底的に強めていくことになるのではないかと思います。 

 ただ、おそらくもう今後は、高度経済成長はありません。そんな中で国を閉じると、そこから戻るのが難しくなります。いわば「奥の細道」に入り込んでいるように見えます。

経済成長が見込めない中国

 ─ 当面は経済成長が見込めないという前提の中で、どこに可能性を見出していくか。 

 國分 1つは先程申し上げた科学技術だと思いますが、もう1つは東南アジアとの一体性を考えているのではないかと思います。中国大陸市場そのものは、人口減などもあって疲弊して、限界が来ています。 

 その時には「グレーターチャイナ」(大中華圏)で考えていくのが一つの方法ではないでしょうか。東南アジアに鉄道や道路を広げ、生産拠点を移転しています。今後の関係性の中で「グレーターチャイナ」的発想が出てくる可能性があります。 

 かつて日本はASEAN(東南アジア諸国連合)に非常に強いと言われてきましたが、今は中国の影響力が東南アジアに相当に浸透していて、日本の存在感が薄れているのです。 

 西側だけの発想で物事を考えていると、中国との関係において間違います。東南アジアを始め、多くの国では中国をそれほど好きではなくとも、自国経済のためにも中国経済を利用したいと現実的に考えています。 

 今回、習近平は「中国式現代化」と言っています。中身はまだ不明確です。触れているのは人口が多いということくらいです。中国モデルをつくりたいのだと思いますが、これまでやってきたことはといえば、「西洋のモデルを押し付けるな」ということくらいです。 

 東南アジアの国々には、中国との関係を維持しようという国も多いわけです。我々日本も過去、東南アジアに相当注力してきたわけですから、そのことは忘れてはいけないと思います。 

 ─ インドとの関係はどう見ていますか。 

 國分 政治的、安全保障的に考えた場合、インドは中国に相当脅威を感じています。日本にとっても「Quad」(クアッド=日米豪印戦略対話)という枠組みの中でインドと関係性を築いてきたわけです。 

 ただ、元々は中立外交が得意な国ですから、インド独自の利害はあり得ます。そこは一面的に考えない方がいいでしょう。 

 20年に中国とインドは中印国境紛争を起こしています。この時には双方、発砲命令が出せず、掴み合いの乱闘になり、両国で数十人が亡くなりましたが、インド側の犠牲者の方が多かったそうです。 

 この時、中国はインド側に食い込むことに成功したようですが、これをインド側に戻したと言われています。クアッドの場において、対中国問題の際にインドに黙っていて欲しいという狙いがあったのでしょう。 

 ─ 中印は緊張関係にあっても、お互いに妥協すべきところは妥協していると。 

 國分 ええ。22年9月のウズベキスタンでの上海協力機構の首脳会議で、ロシアのプーチン大統領は習近平と会談し「侵攻を巡る中国の疑問と懸念を理解している」と発言しています。そしてインドのモディ首相も、プーチンとの会談で「今は戦争をやっている時ではない」と発言しました。これは米国に対する配慮も反映されているのではないかと思います。 

「台湾有事」をどう捉える?

─ 中国は党規約に「台湾独立に断固反対する」と盛り込み、「台湾有事」が現実味を帯びてきているという見方も強まっています。 

 國分 この問題はウクライナ問題と関係しています。この問題が起きた後、中国としては国際社会の「中国叩き」が一転して「ロシア叩き」になったことを歓迎していたと伝えられています。また、チベットやウイグル、香港などの問題を上から圧力を加えて抑え込んでおり、海外が介入する事態を事前に排除しておいたことで安堵したと。 

 しかし、その後状況が変わりました。まず、ロシアが想定以上に弱かった。そして中国はウクライナがなぜ、あそこまでロシアを叩くことができたのかを徹底的に分析したわけですが、湾岸戦争以来の「新しい戦争」を見せつけられていると理解したようです。 

 ─ 新しい戦争とは? 

 國分 今回の戦争は瞬時に起きたものではありません。14年にロシアがクリミア半島を併合して以降、米軍や英国のインテリジェンスは訓練も含めて、相当にウクライナを支援したのです。それだけでなく、衛星情報やサイバーなどの先端技術をウクライナに提供しています。 

 ウクライナの背後には米国やNATO(北大西洋条約機構)がいて、徹底的な準備が進んでいたということです。 

 これを見た中国は、あまりにロシアが弱いので、対応が厳しくなっています。これを受けて、中国の中の「ロシアンスクール」は判断ミスをしたということで左遷されたと伝わっています。 

 また今回、ウクライナのロシア支配地域で強行された住民投票に対して、中国は怒ったようです。国際世論に押されて、台湾で「独立」か「統一」かの住民投票などが実施されたら中国は大変に困ります。こうした事態に陥ることを中国としては絶対に避けたいわけです。 

 中国は今回、米国の強さに驚愕し、いろいろな形で外交的に近づきました。ただ、米国も複雑で「中国脅威」の雰囲気は根強く、米議会の台湾への支援姿勢も強い。中国としても、米国との対応に揺れています。その上で、台湾有事という問題を考える必要があります。

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