【異例の3期目突入・習近平体制】「経済の司令塔」不在の新政権 ジャーナリスト・相馬勝
財界オンライン / 2022年11月8日 18時0分
中国経済全体を把握した行政経験を持つ人物がいない
「中国共産党の最高指導部人事は習近平国家主席を除いた6人全員が習氏に近いメンバーが占め、予想以上に習近平独裁体制を確立させたが、経済面では不安が残る陣容となった。最高指導部のなかに経済通がいないという異例の体制だ。今回の習近平指導部を一口で言うと、『経済の司令塔不在の新指導部』ということになる」
こう語るのは、長年、香港で対中ビジネスに携わってきた財閥系企業の顧問だ。 中国共産党は10月22日まで北京で1週間、5年に1度の党全国代表大会(党大会)を行い、翌23日に第20期中央委員会第1回総会(1中総会)を開き、最高幹部に当たる7人の党政治局常務委員会メンバーを選出した。
その顔触れのなかには、常務委に残留するとみられていた李克強首相や汪洋中国政治協商会議主席、さらに常務委昇格確実と予想されていた胡春華副首相は入っておらず、李強上海市党委書記らいずれも「習氏子飼い」と言ってもよいメンバーが名前を連ねていた。
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翌日の新聞各紙はいずれも1面トップで報じ、「独裁支配確立」「側近で固め始動」「忠誠第一 驚きの人事」(毎日)「習氏1強が完成」「外様排した『王国』」(朝日)「『習派』8割権力集中」「政治リスク増大懸念」(日経)「習氏の独裁完成」「習派一色」(産経)「『習派』指導部固める」「習氏 側近以外を排除」「中国 ブレーキ役不在に」(読売)といった見出しが躍った。
表現はそれぞれだが、いずれも習氏の独裁体制や側近登用を懸念する内容となっている。全国紙5紙が中国問題で同じような見出しを掲げるのは極めて珍しい。
とはいえ、習氏が側近を登用して独裁体制を敷いても、政治や経済、軍事などそれぞれの役割を受け持つ側近や幹部らが適切に処理し、うまく機能すれば問題はない。
しかし、今回登用された側近の顔触れを見ると、いずれも地方、あるいは中央で十分、行政経験は積んでいるものの、冒頭の顧問氏が指摘するように、中国経済全体を把握したうえでの行政経験を持つ人物はいないと言っても良い。
次期首相と目される李強氏は上海市トップの市党委書記だが、今年3月末から5月末に上海のロックダウンに踏み切ったことで経済活動が停滞。その影響で、今年4~6月の国内総生産(GDP)を0・4%増に急減速させる主因となった。
これは李氏が習氏の主張する「ゼロコロナ政策」を頑なに守ったためとみられるだけに、李氏が首相の重大な責任分野である経済問題で存分に腕を振るえるかどうか疑わしい。
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経済政策は 習氏直轄となる可能性が
同じように、来年3月の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で筆頭副首相に就任するとみられる新政治局常務委員の丁薛祥・党中央弁公庁主任も専門は党務だけに、経済の専門家ではなく経済運営で不安が残る。
新指導部に李克強首相や副首相経験者の汪洋・全国政治協商会議主席が残留、あるいは胡春華副首相が常務委入りしていたのならば、「経済の司令塔」としての役割を果たしていたかもしれない。
しかし、李氏と汪氏は来年3月の全人代を最後に引退し、胡氏は党中央委員として残るが、前2者と同じく、全人代で退任が決まっている。この結果、経済政策は習氏直轄となる可能性が強い。
実は、10年前の2012年11月の第18回党大会後に発足した第1次習近平指導部ではそれ以前の党指導部同様、首相である李克強氏が経済問題を担当し、「リ(李)コノミクス」といわれるほど、李氏が経済分野を所管し構造改革や民営企業育成などに着手していた。
だが、次第に習氏が経済政策でも主導権を握り、李氏の実権を奪っていったことで、李氏の存在感が低下。李氏は党の重要行事で、重要な演説を行う習氏の引き立て役である司会に甘んじるなど、政策面で自らの力を振るう場面が減っていった。このため、李氏は今回の党大会で自ら引退を申し出たとも伝えられる。
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習氏は党のエリートとして養成された共産主義青年団(共青団)出身の李氏や汪氏、胡氏と距離を置いており、今回の党大会で共青団出身者の一斉排除を画策したとの見方も出ているほどだ。
〝邪魔者〟を排除した形の習氏だが、中国経済は問題山積だ。ゼロコロナ政策を厳格に実施したことで、地方政府は赤字財政となり、職員の給料が遅配するなどの問題も起こっている。主な収入源である不動産は政府の金融規制の強化と景気悪化のダブルパンチで収入源としては見込めない状態だ。若者の失業率も深刻で、22年7月には19・9%と過去最悪に達している。
中国国家統計局は党大会開会中の10月17日、今年7~9月のGDPの公表を延期すると発表するなど、中国の経済状態は予想以上に悪いとの見方も出ているほどだ。
ゼロコロナ政策の強化や経済の悪化によって、上海など都市部では海外移住に踏み切る市民も出ているなど、経済悪化の影響が表面化しており、異例の3期目を始動させた習近平指導部は早くも正念場を迎えようとしているようだ。
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