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【送金手数料無料】3メガとりそなグループの「ことら」がスタート 銀行の次の新しい収益源は?

財界オンライン / 2022年11月7日 11時30分

川越洋・ことら社長

銀行は新たな収益源を見つけることができるか─。2022年10月11日に始まった少額送金サービス「ことら」は3メガバンクとりそなグループが立ち上げたもの。異なる銀行間でも10万円以下であれば、ほぼ無料で送金ができる。低金利下で銀行にとって手数料は収益源ではあったが、欧米、アジアではすでに少額送金無料の流れが定着。遅れ馳せながら、日本もその流れに乗ることになる。 



メールアドレス、 電話番号で送金可能に

「2021年に会社を設立して1年余り、全速力で走ってきた。開業から3日間、ウェブサイトのユニークユーザー(一定期間にサイトを訪問した人数)は10万人を超えた。皆さんからの強いご関心を実感した」と話すのは、ことら社長の川越洋氏。 

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 2022年10月11日、個人間の少額送金「ことら」がサービスを開始した。このサービスは三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行が出資した「株式会社ことら」が開発を進めてきたもの。川越氏は三井住友銀行の出身で、長年「決済」に携わってきた専門家。 

「ことら」の社名は少額送金を表す「小口トランスファー」に由来する。5行の他、一部の地方銀行、ネット銀行が参加し、現時点で20行がサービスを始めている他、すでに追加で37行の参加が決まっている。 

 このサービスの特徴は、対応するスマホ決済アプリを使うことで10万円までの送金手数料が「無料」となること。より厳密に言えば、送金手数料は参加する金融機関が個別に決めるが、ほとんどの金融機関が無料とする方針を取っている。 

 サービスを利用する人が、日本電子決済推進機構が提供する「Bank Pay」や、みずほフィナンシャルグループの「J-Coin Pay」などの決済アプリを入れていれば、メールアドレスや電話番号で送金ができ、異なる銀行間でも送金手数料は無料。異なる銀行間の送金は多くが220~440円かかっていたことを考えると、利用者のメリットは大きい。 

 ただ、世界ではすでに送金手数料無料の流れは先行していた。英国では世界に先駆けて08年に送金手数料無料サービスが登場。14年以降は米国やスウェーデン、シンガポールなどで続々とサービスが立ち上がっていた。日本は出遅れていたわけだが「ようやく、海外のサービスに追いつくためのスタートラインに立つことができた」(川越氏) 

 送金手数料無料化は、銀行にとってプラスとマイナスの影響がある。 

 プラスの側面としては、現金を取り扱うコストが減少すること。経済産業省の調べでは、現金決済インフラを維持するためのコストは業界全体で年間2兆8000億円と推計されるという。「ことら」のサービスは、この削減に寄与することが期待される。 

 一方で、送金手数料は銀行の収入源でもあった。「ことら」が普及すれば、当然ながら激減することになる。多様な事業を行うメガバンクなど大手は吸収できても、一部地銀にとっては大きな痛手となる可能性がある。 

「手数料の設定は各行のご判断というのが大前提。送金や決済業務は最もシンプルな顧客接点。顧客接点をきちんと確保していただいた上で預金業務、それを元にした与信につなげるなどしていただければ」と川越氏。 

 参加事業者は、自らの支出と収入をよくよく見た上で、「ことら」への参加、手数料を無料化するか否かの判断をする必要があるということ。 

「ことら」と事業者は「API」(Application Programming Interface=ソフトウェア間のデータ連携の仕組み)を活用して接続するため、事業者にとっては開発コストが最小限で済むなど、参加のための敷居を下げている。 

 それは、銀行など金融機関のみならず、「PayPay」や「楽天Pay」などを展開する「資金移動業者」の参加も促す狙いがあるからだ。 

「来年度には信用金庫さんも参加できるようになるが、早く『オールバンク』に近いネットワークにすることが優先課題。それによって資金移動業者さんから見ても、『ことら』に参加するメリットがはっきりする」 

 サービス開始前まで、「ことら」は銀行の「対フィンテック企業」のための武器だと見られることが多かった。それが資金移動業者の警戒感を強めることにつながっていたが、川越氏は「我々にとって資金移動業者さんは競争相手ではなく、決済を円滑化するために協働する仲間」と話す。 

 例えば、現在の資金移動業者のサービスでは、同じサービス間での送金は無料でできても、異なるサービス間での送金はできないが「ことら」に参加すれば事業者を越えて送金を無料化できる。「黒衣として裏側でつないで、事業者を越える送金を安価に、簡単にしていきたい。消費者の利便性が高まり、銀行にも資金移動業者にもプラス」 

 23年春には給与の「デジタル払い」が解禁される見通しになっている。銀行は「ことら」で預金口座の利便性をアピールして顧客のつなぎ止めを図りたい一方、資金移動業者も月1回は無料で資金を引き出せるようにする必要があり、こちらも無料で銀行口座に送金できる「ことら」を使うメリットは出る。 

 今後、「ことら」は「税・公金」の収納にも対応していく方針で、機能の拡充を進めていく。 

 だが、「ことら」のスタートは銀行がもはや手数料では稼げない時代が到来したことを意味している。ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「もはや決済、送金で利益を得るのは難しい。機能を特化して付加価値を付けるか、規模のメリットを働かせるかしか道はない」と指摘する。 

 また、21年の銀行法改正で銀行の業務規制が緩和された。銀行として新たな事業を収益化できるかが、今後ますます問われ、その巧拙によって将来の道が分かれることになる。

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