【政界】日本再生が必要な今、なぜ岸田政権は旧統一教会問題で躓くのか?
財界オンライン / 2022年11月11日 7時0分
支持率低迷にあえぐ岸田内閣で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が度々問題になっていた経済再生担当相の山際大志郎が辞任した。政権発足から1年余り、早くも正念場を迎えた首相の岸田文雄はエネルギー価格高騰対策などを矢継ぎ早に打ち出し、旧統一教会の調査にも乗り出す構えだ。ただ、これらはいずれも対症療法に過ぎない。まずは難局を乗り越え、その先の国家ビジョンを提示できるかが政権の今後を左右しそうだ。
【政界】「私が先頭に立つ」と意気込む岸田首相 トップダウン型の政治手法へ転換か
「あの頃のようだ」
「今の状況はだんだん第1次安倍政権に似てきた気がしてならない」
衆院予算委員会を翌週に控えた10月中旬、ある与党幹部がぼやいた。世論の賛否が割れたまま実施した安倍晋三元首相の国葬と旧統一教会問題で低下した内閣支持率は一向に下げ止まる気配がないからだ。
不安は的中した。山際は8月の内閣改造で再任された後、過去に旧統一教会や関連団体のイベントに出席していたことが次々に報じられ、そのたびに追認するお粗末ぶりを露呈。野党が辞任要求を強めただけでなく、公明党代表の山口那津男も「説明が明快でない。各種世論調査で不信感が表れている」と突き放した。
山際をかばい続けていた岸田だが、予算委の審議が一区切りした10月24日に山際の辞表を受理。「国会審議に支障をきたすことは本意ではないという申し出があり、了解した」と記者団に説明した。山際が教団総裁の韓鶴子と並んだ写真が公になり、22、23両日の毎日新聞の世論調査で「辞任すべきだ」が71%に上ったことなどが決定打になったようだ。
前幹事長の甘利明から推されて山際を再任したとはいえ、岸田の任命責任は避けられない。自民党のある派閥領袖は「もっと早く辞めさせるべきだった。首相の周辺は進言しなかったのか」とあきれた。
野党の追及にさらされた閣僚はほかにもいる。総務相の寺田稔を巡っては、妻が代表を務める政治団体が地元スタッフへの報酬支払いで源泉徴収をしていなかったと週間文春が報道。寺田は記者会見で「事実に反する」と否定した。しかし、それで「脱税」疑惑が晴れたわけではない。復興相の秋葉賢也は自身の政治団体が母に支払っていた地元事務所の賃料を、母が確定申告していなかったことを国会答弁で認めた。
第1次安倍政権では、当時行政改革担当相だった佐田玄一郎が政治資金問題で辞任したのをきっかけに、閣僚の失言や「政治とカネ」の問題などが相次ぎ、安倍は自身の体調不良も重なって1年で退陣した。自民党幹部は「岸田内閣も辞任ドミノにならなければいいが……」と危ぶむ。
消費者相が援護射撃
旧統一教会問題が尾を引いたのは首相官邸と自民党の初動の甘さにも原因がある。すでに本欄で指摘してきたように、8月の内閣改造で教団と関係のあった議員の入閣を排除しなかったこと、その後の自民党の「点検」が党所属国会議員の自己申告制だったことによって、世論の批判は増幅した。
それが安倍氏の国葬反対論ともリンクしたのは周知の通りだ。政府関係者は「首相も党執行部もこれほど問題が大きくなるとは想像していなかった」と語る。
このままではらちがあかないと考えた岸田は、ついに「本丸」に切り込むことを決意した。宗教法人法に基づく旧統一教会への調査だ。
10月17日、首相は衆院予算委の直前に文部科学相の永岡桂子や法相の葉梨康弘らを首相官邸に呼び、同法に基づく質問権を行使して教団を調査するよう指示した。政府は裁判所への解散命令請求を視野に入れている。
同じ日、消費者庁の有識者検討会は霊感商法や不当な寄付の救済などを盛り込んだ報告書を公表した。消費者担当相は発信力や突破力に定評がある河野太郎。岸田は河野をうまく使い、政府を挙げて旧統一教会問題に取り組む姿勢をアピールした形だ。
さらに、初入閣の永岡の国会答弁をバックアップするため、予算委が開かれる衆院第1委員室の座席を出入り口に一番近い位置に変更し、後ろに控える秘書官も2人に増員した。
ただ、質問権を行使できるのは、宗教法人に法令違反や公共の福祉の著しい侵害の疑いがある場合に限られる。信教の自由との兼ね合いから、これまで行使されたことはない。
解散命令の請求に関しても、10月5日の衆院本会議では岸田は「法人格の剥奪という極めて重い対応であり、信教の自由を保障する観点から、判例も踏まえ慎重に判断する必要がある」と慎重姿勢を崩していなかった。そこから2週間足らずで方針を変えたことについて、政府関係者は「野党の追及をかわしつつ、旧統一教会をたたいて支持率を回復させたいのだろう」と解説した。
問題は実効性だ。岸田の指示を受けた永岡は衆院予算委の初日、報告徴収・質問権行使の基準を明確にするため、専門家会議を設置すると表明。基準を踏まえて文科省の宗教法人審議会の意見を聞き、質問権を行使するという手順を示し、「年内のできるだけ早いうちに権限が行使できるよう手続きを進める」と約束した。
とはいえ、一足飛びに解散請求できるわけではない。これまでに裁判所から解散命令を受けた宗教法人は、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教(1996年)と霊感商法詐欺事件の明覚寺(2002年)だけ。オウム真理教は7カ月、明覚寺は3年かかった。
政府が旧統一教会に関する調査の終了時期を示さないことに対し、野党は「オウム真理教や明覚寺には質問権を行使していない。なぜ解散請求しないのか。時間稼ぎとみられても仕方がない」(共産党書記局長の小池晃)と批判している。
ただ、宗教法人法は「この法律のいかなる規定も、個人、集団または団体が、その保障された自由に基いて、教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを制限するものと解釈してはならない」(第1条)と定めている。
政府が拙速に結論を出せば、あしき前例を作ることにもなりかねない。首相周辺は「すぐ解散させろという野党の主張は法治国家として正しいのか。慎重に進めるのは当然だ」と難しさを指摘する。
「ガスも」与党が圧力
総合経済対策の柱の一つ、高騰するエネルギー価格の負担軽減策でも政府は旧統一教会問題と同様に方針を転じた。ガス料金だ。
岸田は10月7日の参院本会議で「ガスはほとんどが長期契約で調達され、比較的、価格の安定性が高い。電気料金のような賦課金制度(再生可能エネルギーの買い取り費用の一部を消費者が負担する仕組み)もない。諸般の事情を総合的に勘案し、今後の家計、企業の負担の状況を見ながら対応していく」と答弁し、所信表明演説で「前例のない、思い切った対策を講じる」と強調した電気料金との温度差をにじませた。
岸田に質問したのは公明党代表の山口。与党にリップサービスしなかったのだから、政府がその時点でガス料金対策に慎重だったのは間違いない。
しかし、東京ガスによると、東京都内の標準家庭の11月分の料金は、前年同月比で3割増の6461円になる見込み。大手都市ガス会社には、政府が電気料金対策だけを重視することへの不満が募っていた。
業界の意向に意を強くした山口は11日、岸田と首相官邸で昼食をとりながら会談した際も、改めてガス料金対策を迫った。自民党も公明党と歩調を合わせ、3日後、山口と再会談した岸田は「都市ガスについても、電気とのバランスを勘案し、適切な措置を講じる」と記者団に語った。与党の粘り勝ちだ。
ただ、各論では課題が少なくない。ロシアによるウクライナ侵攻や円安で高騰した液化天然ガス(LNG)を仕入れている都市ガス大手に絞って支援すれば、LPガスを利用する地方の家庭との不公平感が生じかねないからだ。岸田は「(LPガスは)別の形で支援できないか絶えず考える」と検討の余地を残している。
電気料金に関しては、14日の自公党首会談で「料金請求システムを活用し、家庭が直接的かつ実感できる形」の負担軽減策を導入することで合意した。政府は来年1月以降、できるだけ早く実施する方針だ。
一方、導入済みのガソリンなどの燃油抑制策は、補助上限を調整しながら来年1月以降も継続する。12月までの延長ですでに3兆円超を投入しているが、財政負担はさらに膨らむ。これに電気、ガス料金対策が上乗せされるため、政府は今後、財政支出の妥当性を国会や国民に丁寧に説明する必要がある。
「高村がいれば…」
外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など政府の安保関連3文書の改定に向けて「外交安全保障に関する与党協議会」が10月18日にスタートした。相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有の是非や、来年度以降の防衛費増額が焦点だ。
協議会の設置までには自民、公明両党のさや当てがあった。自民党は国防族議員ら実務者で運営しようとしたが、公明党は「防衛費の増額、その財源の問題もあるので、もう少しハイレベルな協議が必要」(政調会長の高木陽介)と難色を示した。
結果的に、協議会は自民党副総裁の麻生太郎、公明党副代表の北側一雄をトップに、両党の幹事長、政調会長らで構成することにし、下部組織として実務者によるワーキングチームを置いた。
「集団的自衛権の行使を議論していた頃は、弁護士出身の北側さんと高村(正彦前副総裁、引退)さんがけん引した。今は北側さんのカウンターパートが自民党側にいない」。与党幹部が指摘するように、着地点は見通しにくい。
防衛費増額の財源に関しては、自民党税制調査会長の宮沢洋一が所得税や法人税の増税案を唱えるのに対し、与党には「つなぎ国債」も選択肢にすべきだという意見があり、まだ対策はまとまっていない。
岸田はどのような国づくりを目指すのか。年末の来年度予算編成でその答えを出すことが、政権が再浮揚する条件になる。
(敬称略)
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