【倉本聰:富良野風話】戦争
財界オンライン / 2022年11月29日 11時30分
戦争について考えている。殆んど毎日考えている。ウクライナのことがあるから仕方ない。
【倉本聰:富良野風話】朝令暮改
10歳の頃までどっぷり戦争に漬かっていた。小学生の間は戦争漬けの毎日だった。良いも悪いも仕様がない。日本という国が戦争という、いわば樽の中に漬けられ、家族も社会も上からしっかり漬物石で抑えられ、その中でブツブツ発酵するという酵素反応の真っ只中にいたのだ。
小学生の頃、学童疎開の宿の片隅で、若い先生に説明された。大きな声じゃあ言えないが─酵素反応の只中にあっては、真理は小声でしか言えなかったのだ。大きな声じゃあ言えないが、戦争ってもんは言ってみりゃ喧嘩だよ、大がかりな喧嘩。それを世間じゃ戦争っていうんだ。大東亜戦争は大東亜大喧嘩。世界大戦は、世界的大出入り。この説明は中々芯を喰っていた。
戦争の原因を考えてみる。
領土の拡張。面子の立証。腕力の誇示。金銭への欲望。いずれも最初は些細な原因だ。それがナポレオンだのヒトラーだの豊臣秀吉だのプーチンだの、一人の人間の異常に巨大な発酵装置を持った漬物樽に詰めこまれると、不思議なエネルギーを持った説得不能の発火物となる。これが戦争という化け物の正体ではないかと、僕は漠然と考えている。
要すれば、発火点は単純であり、古今東西さほど進歩はない。問題はその形態。弓矢や棍棒で殴り合っていた時代とちがい、科学というものを手に入れた人類が、その科学を戦争の道具として用いるようになってからの、戦争の形態の急変である。
汚れた兵器、という何とも物凄い言葉が生まれてきたが、核兵器、生物化学兵器に始まるこんな恐ろしい武器の数々を世に産み出してきた科学者という人種は、明らかに地球を破滅へと誘導する〝犯罪者〟として扱われねばならない。
その昔、サルに文明の利器を与えたら、というある種、寓話的譬えがあったが、哲学なき倫理なき科学者の発生は、まさにこの譬えを実施している。そして金さえ儲かればと、それにすぐ飛びつく商売人。言い方を変えれば経済人。
それでも何とか喰っていかねば、一族郎党を喰わしていかねばという哀しい義務感が、倫理を捨ててもそっちへ走らせる。
国の代表たる国会議員が恥も外聞も捨て、票のためなら当選のためなら、就職のためならと旧統一教会の組織票に縋る、そんな情けない世の中なのだから致し方ないと諦めてしまう。そう思う自分が何とも哀しい。
戦争のもたらす無限の悲劇を、人類は本気で考えているのだろうか。
先人が血と汗で創り上げたものを破壊し、必死に成り立たせた環境を破壊し、それでも破壊の後には復興があると新たなビジネスチャンスを狙う者がいるなら、もはや人類に生きる価値はない。
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