【不動産クラウドファンディング】横田大造・クリアル社長 「敷居の高かった不動産投資を、ITの力で身近なものにしていく」
財界オンライン / 2022年11月30日 18時0分
「大きな資金が必要」、「不動産会社が信用できない」といった形で敷居が高かった不動産投資。それを「1万円」から投資ができるクラウドファンディングを始めたのがクリアル。社長の横田大造氏は「ITの力で個人に不動産投資を浸透させたい」と話す。中には保育園への投資案件で20秒で枠が埋まるなど、個人が社会貢献と資産運用を両立させようという動きも始まっている。上場を経て、今後目指すものは─。
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ITを使って不動産投資をオープンに
─ 東証グロース市場に上場して半年ほど経ちますが、会社の変化を感じますか。
横田 ええ。直近の株価にも期待をひしひしと感じています。上場の目的は、我々の資産運用のプラットフォーム、サービスの認知を高めることでした。まだ、日本ではオンラインで不動産投資をするのは一般的ではありませんが、グローバルではどんどん広がっている市場です。
我々は、いち早くそれを導入して、日本の皆様に浸透させたいと思っています。資産運用自体、まだ日本に浸透しきっていない状況ですが、岸田政権になってから追い風が吹いていることを感じています。
これまでは「大きな資金が必要」、「不動産会社が信用できない」といった形で敷居が高かったですが、我々はそれをITを使って、全て可視化し、オープンにしています。
さらに、クラウドファンディングを利用することで1万円から、誰もが投資できるような新しいサービスです。とはいえ、新しいシステムですから、信用度という点ではまだまだだということで、上場は必要不可欠だと考えてきました。
─ 実際、上場はプラスに働いていますか。
横田 知名度、クレジットが格段に上がりました。特に金融機関さんの反応は全く変わりました。今は先方からお声がけをいただけるようになっています。
─ 資産運用では、日本は現預金が多く、投資に向かわないという問題があります。その中で1万円から投資できるというのは若い世代に響くのでは?
横田 反応は非常に強いですね。というのは若い世代は今まで、投資で大きな失敗をした経験がない世代と思うのです。私はリーマンショックを経験していますが、さらに上の世代はバブル崩壊を経験しています。
私はリーマンショック当時、外資系の不動産ファンドに在籍していました。プロとして機関投資家さんからの資金をお預かりしていましたからプレッシャーもありましたし、そこで不動産評価が目減りしていくという体験をしました。不動産の怖さを知りましたね。
─ ところが、若い人は、リーマンショック級の景気変動を経験していない世代であると。
横田 ええ。アベノミクスによって株式を始め、資産価値が上がる中で、若い世代には資産運用のハードルが下がったのではないかと思います。また、ネット証券の浸透でクリック1つでお金を動かすことにも慣れておられる。我々も、そうした方々に対しては全てウェブで集客しています。ウェブと若い世代との親和性は非常に高いですね。
我々のお客様は20代もおられますが、メインは30代から50代です。1案件で30万円ほどの投資が多く、1人で複数回投資していただいている方も多いですから、平均すると1名当たり100万円ほどの投資をいただいています。
保育園の案件は20秒で投資枠が埋まる
─ こうした形で、自分で資産運用をするという人達が増えてくる可能性がありますね。
横田 そう思います。「失われた20年」と言われた中で、株価も下がり続けており、資産運用による成功体験がない方が多かったと思いますが、この10年でかなり風向きが変わったと思います。我々のような資産運用業にとっては追い風を感じます。
個人金融資産2100兆円のうち、現預金が約1100兆円ですが、この1100兆円を動かすような魅力的な資産運用がなかったと思うんです。株式はハイリスク・ハイリターンですが、投資単位が比較的低い一方、不動産はミドルリスク・ミドルターンで、安定的ではあるものの大きな資金が必要でした。
我々はITを使って、1万円から誰も気軽に、透明性がある中で投資ができるようにしている。眠っている1100兆円を動かすようなシステムをつくっていきたいと考えています。
─ これまでの中で印象的な案件はありましたか。
横田 投資案件の中に「保育園」がありました。東京都内で待機児童の問題は解消しつつあると言われながら、場所によってはまだ問題を抱えているところもあります。都内の待機児童問題など、社会問題の解決を不動産の側面で支援する投資が非常に人気があるんです。
この保育園プロジェクトは1億7000万円資金の募集でしたが、わずか20秒ほどで枠が埋まってしまいました。社会課題解決、かつ資産運用に資するようなものは、今までなかなかなかったと思います。
こうしたESG不動産投資の案件は、我々にとっても意義のあるものだと考えています。ただ、こうした案件は規模が小さく、投資対象としても新しいですからなかなか機関投資家さんは入りにくい。
それをクラウドファンディングを使うことで、個人の共感を含めてお金を集めて、ソーシャル・グッドを実現しつつ、資産運用にもつなげることができます。こうした案件は今後もどんどんやっていきたいと思います。
─ 保育園は少子化ですが、高齢化に対応した老人福祉施設などは投資対象になりますか。
横田 当社は機関投資家といったプロ向けサービスとしてすでに私募ファンドでは有料老人ホームや病院といった大型の施設で投資トラックレコードがあります。ただ、グループホームなど小型の施設は流動化できずに資金の担い手が足りない状況ですから、クラウドファンディングで検討していきたいと考えています。
他にもESG不動産投資関連で言えば、太陽光発電のなどの再生可能エネルギーは避けては通れません。小型の太陽光発電施設もクラウドファンディングで手掛けていきたいと思っています。
ただ、この分野は免許法上の問題があります。我々は国土交通省の「不動産特定共同事業法」という不動産に特化したライセンスを取得しています。太陽光はどちらかというと「動産」ですから、新たなライセンスが必要になります。今この取得に向けて準備をしています。
「クリアなリアルエステートを」
─ 改めてお聞きしますが、クリアルという社名に込めた思いを聞かせて下さい。
横田 クリアルの由来は、我々が追い求めている「クリア・リアルエステート」から来ています。情報を全てフルオープンにして、皆様にその情報を判断していただく。不動産投資の見えなかった部分を、全てオープンにしようという思いです。
おかげ様で上場を経て、採用面にも好影響が出ています。これまでも非常にいいメンバーが採用できていましたが、より広い業種からのお問い合わせが増えてきています。
─ これから会社はどういう方向に向かっていこうと考えていますか。
横田 我々のミッションは「不動産投資を変え、社会を変える。」です。不動産投資はミドルリスク・ミドルリターンで、大手の機関投資家さんはどこもポートフォリオに組み入れて資産運用をしてきたと思います。
ただ、個人にとっては資金や情報が足りないという障害がありました。そこをITの力で、誰もが気軽に不動産投資をできるようにする。それによって投資を国に根付かせる、それは社会を変えることにつながるという思いで仕事をしています。
─ 改めて、不動産投資のよさをどう訴えていますか。
横田 不動産投資は賃料、キャップレート(期待利回り)と、変数が非常に少ないんです。ですから、変数が多い株式投資に比べてリターンが非常に安定していると思います。
そういった背景から、不動産投資を安定した資産運用の一手段として個人にも根付かせていきたいと考えているんです。そして今後さらに、先程申し上げた太陽光など、不動産ではない資産にまで投資対象エリアを広げていきたいと思います。
このように我々は資産運用を日本に根づかせることができるようなサービスを展開していきたいと考えています。
「不動産+IT」で新しいビジネスを
─ 横田さんは大学を卒業してアクセンチュアに入社していますが、志望動機は?
横田 当時、私は何かになりたいという考えを持っていませんでした。ただ、将来的にはビジネスを立ち上げたいとは思っていましたから、「手に職」のような形でコンサルティングファームに入ろうと考えました。
コンサルは当時からハードワークで、その代わり何倍にも経験値が増えると聞いていました。また、アクセンチュアを志望したのはITが強かったからです。多くの戦略コンサルの方にお聞きしても、提案の帰結は目に見えて経営の改善につながるITの導入が落としどころになると聞いていたことも大きかったですね。
─ その後、オリックスに入社していますね。
横田 アクセンチュア在籍時に不動産証券化のプロジェクトに携わったことがきっかけです。米国から「収益還元法」(将来的に生み出されるであろう利益をベースに、不動産価格を求める評価方法)が入ってきて、その評価が非常に科学的なところに感銘を受けました。それでオリックスの門を叩き、24時間不動産ファンドの実務をやらせていただくことができましたね。
その後、米ラサールインベストメントマネージメントという歴史のある不動産ファンドに入りました。1案件が50億円以上と、非常に大型の資金を動かしている会社でしたが、ここで様々な案件をメイン担当として手掛けることができました。
マクロをしっかり押さえた上で、本当にミクロにわたって様々な角度から検証をする会社です。不動産に関するありとあらゆるリスクを、科学的に検証すること、お金を預かって投資するという基本的なマインドを教えてもらいました。
─ その後、新生銀行に入行していますね。
横田 ラサールは米国の不動産ファンドで、誰のために働くかと言えば、主に海外の年金です。そこで、日本に役立つようなところに投資を振り向けられればと考えて、新生銀行に入行し、老人ホームと病院専門のREIT(不動産投資信託)を立ち上げるプロジェクトに携わることになったんです。
─ そうして、このクリアルに参画することになったと。
横田 REITを立ち上げて一息ついた時でした。私は不動産証券化に15年ほど関わってきましたが、その間、この業界に何も大きな変革がないことに気が付きました。
アクセンチュアの時は様々な業界にITを使った業務改革提案をしており、その後、製造業を含めてDXが進んだと思います。しかし、不動産投資の現場はその間も何も変わっていなかったのです。
ですから「不動産+IT」で何かビジネスを始めたいという思いを抱きました。実は、そのアイデアの1つにクラウドファンディングがあったんです。この仕事で起業したいという思いが強くなりました。
そんな時に、この会社に社長として参画するオファーがあり、株式も保有してオーナーシップをもってクラウドファンディング事業を立ち上げ、現在の事業が進んできたという経緯です。
─ コロナ禍の影響は受けましたか。
横田 今、我々が本社を置いているビルに移転したのはコロナの影響です。コロナによってホテルオペレーターさんの業績が大きく落ちてしまったのですが、そうなると賃料が止まります。しかも、ホテルにはクラウドファンディングで投資家の資金を集めていますから、止めるわけにはいかないと。
そこで、ホテルをオフィスにコンバージョンして、そこにちょうど手狭となったオフィスからの移転先を探していた我々が入る方がこの不動産の価値を一番発揮する方法ではないか、ということで移転してきたという経緯です。
─ ちょうど資産運用が変わり目の時期に差し掛かっていると言っていいですね。
横田 今、資産運用には追い風が吹いています。その中で、近くて遠かった不動産投資を、身近にするようなシステムは今までなかったと思うんです。
不動産業界の中で、私が思っていた以上に、我々のプロダクトを速いスピードで受け入れていただいており、非常に強い手応えを感じています。不動産投資を変えるために、これからも投資家さんの期待を裏切らないということが、我々の使命です。
よこた・だいぞう
1976年4月群馬県生まれ。2000年早稲田大学政治経済学部卒業後、アクセンチュア入社。05年オリックス入社、07年ラサールインベストメントマネージメント入社、11年新生銀行入社、14年ジャパン・シニアリビング・パートナーズ設立、17年クリアル入社、代表取締役社長に就任。22年4月東証グロース市場に上場。
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