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五十嵐正明・SBI損保社長 「テクノロジー、他社との連携を生かして、メガ損保にはないサービスの提供を」

財界オンライン / 2022年12月1日 18時0分

五十嵐正明・SBI損害保険社長

「価格だけでなく、お客様にアピールするものが必要だった」と話すのはSBI損保社長の五十嵐正明氏。SBIグループの損害保険会社として、保険料の安さを売りにシェアを伸ばしてきた。だが今は、テクノロジーや他社との連携を生かした独自サービスで特徴を出そうとしている。五十嵐氏は「プライスリーダーからゲームチェンジャーへ」というスローガンを掲げて、社内を鼓舞している。

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最後発組ながら徐々にシェアを拡大
 ─ SBI損保は、北尾吉孝氏が創業したSBIホールディングスの中で損害保険分野を担っている会社ですね。

 五十嵐 ええ。北尾は証券会社出身で、1999年の設立当初から、広く金融ビジネスを展開することを志向していましたが、まず最も得意な証券(SBI証券)、次に銀行(住信SBIネット銀行)を設立し、3本柱の最後として保険分野に進出しました。

 しかも、損害保険はどこかを買収したのではなく、一から設立しました。この会社がグループの保険事業の発端になります。現在は損害保険、生命保険、少額短期保険で合計7社の保険会社がグループの中にあります。

 当社は全国に7拠点を置いて事業を展開しており、一般的な企業の売上高に相当する元受正味保険料は480億円です。

 ─ 業界の中の位置付けはどうなっていますか。

 五十嵐 損保業界は統廃合が進み、現在は東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険という3メガグループの4社で業界全体の元受正味保険料の9割以上を占めています。

 残りの1割が、中堅の国内損保会社と外資系、それに我々のような後発のダイレクト系損保7、8社となっています。

 ダイレクト系損保のシェアは自動車保険では10%程度ですが、中でも大きいのがソニー損害保険、次にアクサやチューリッヒなどの外資系、そしてメガ損保グループのダイレクト系損保や我々が拮抗しています。我々は最後発という形で参入したわけですが、ようやくこの位置まで来ることができたという思いがあります。

 ─ 今後、さらに業界の中で存在感を出していくために、どんな手を打ちますか。

 五十嵐 やはり最後発という立場では、何か特徴や強みがなければ先行する他社に太刀打ちできません。

 グループで常に言っているのは「顧客中心主義」という言葉です。その一つの具体的なやり方として、やはり圧倒的に安い保険料で勝負しようということで、当時、ダイレクト系損保として特に際立って安い掛け金で参入しました。

 インターネットの普及により、お客様はどの損保会社が一番安いかを検索するようになりました。同じものを買うならば、安いところがいいと。そうして調べると、掛け金が最も安い会社として私どもが出てくるということで、急速にシェアを伸ばすことができたのです。

「プライスリーダーからゲームチェンジャーへ」
 ─ 参入が08年ですから14年が経ちましたが、まだ開拓の余地はありますか。

 五十嵐 今、自動車保険に入る人が100人いたとすると、我々のようなダイレクト系損保に入る人は10人くらいなんです。残りの90人はネットを選んでいない。

 メガ損保には全国津々浦々に営業店、代理店があり、なかなかそこを崩すのは難しいわけですが、我々は10数年で、ある程度のポジションまで来ることができました。ただ、この先に行くには価格だけでは訴求し切れない部分があることを痛感しています。

 そうした背景もあり、当社は「プライスリーダーからゲームチェンジャーへ」をスローガンとして掲げています。

 ─ この言葉に込めた思いを聞かせて下さい。

 五十嵐 これは私が当社で社長を務めるようになった背景とも関係しています。

 SBIグループは、様々な企業の買収も駆使して規模を拡大していますが、私が社長を務めていた日本少短は2016年にグループ入りしました。

 グループ入りしてからも引き続き日本少短の社長を務めていましたが、2年ほど経った頃にグループ内の異動があり、損保の社長に就任したという経緯です。

 社員から見れば、突然現れた社長です。ですから自分のカラーを出し、社員のベクトルを合わせる必要があると考えました。そこで打ち出したスローガンが「プライスリーダーからゲームチェンジャーへ」だったんです。

 ─ この時の「ゲームチェンジャー」が意味するところは?

 五十嵐 今まで価格戦略で成長をしてきて、契約も私の社長就任時には100万件を超えていました。しかし、例えば100万件を200万件にすることを考えた時に、ただ安いだけで、その先に行けるだろうかと。

 やはり価格プラスの特徴、お客様にアピールするものが必要だと考えた時に「ゲームチェンジャー」という言葉が頭に浮かびました。

 スマートフォンの「iPhone」が出たことで、世の中の人々の生活や行動は大きく変わりましたが、保険の世界でも同じようなことができないだろうかと考えました。

 例えば、かつて保険の世界では申込書を手書きして、ハンコを押して加入していました。しかし今は、現在加入されている自動車保険の保険証券の写真を、スマホで撮影して送っていただけば、同内容の当社の契約のお見積りをその場で提示できます。しかも、保険契約のための来店や電話は不要で、アプリ上で加入できます。

 このサービスは「カシャッとスピード見積り」、通称カシャッピⓇといいますが、こうした新しいテクノロジーを使った様々なサービスを展開しているんです。

ブランド力向上に向けて
 ─ 他社にないサービスで差別化していくと。

 五十嵐 そうです。ただ、こうしたサービスを知らない方もまだまだ多いのも現実で、インターネットだけでは難しいと感じています。

 これまで我々はインターネットで全てをやろうということで取り組んできましたが、地上波のテレビ、Jリーグ大分トリニータのスポンサー、YouTubeなどの動画サービス、あるいは地方銀行など提携先とのタイアップなど、様々なチャネルを駆使して情報を発信するように方針を変えました。

 地方などでは「外資系ですか?」と言われることも多かったのですが、取り組みの結果、一般のお客様の間でもSBI損保という名前に少しずつ馴染みが出てきたんです。

 さらに、北尾が「第4のメガバンク構想」を打ち出して以降、地方銀行への資本参加もありましたし、新生銀行の子会社化は決定打となった気がします。連日連夜、新聞を含めたメディアで動向が伝えられ、SBIの認知度が一気に向上しました。そこに我々のテレビCMなどが流れることでブランド力向上の相乗効果がありました。

 特に大分では、トリニータのスポンサーとしてだけではなく、県警察との交通安全の啓蒙活動や、県の健康増進や金融教育のお手伝いをするなどして、少しずつ地域に根差した会社になりつつあるという実感もあります。

 ─ ブランド力向上は一朝一夕ではないということですね。

 五十嵐 そう思います。大事なのは、そのブランドに「惚れている」ことだと思います。

 例えば、ソニーはエレクトロニクスの企業として高いブランド力を誇ってきましたが、1979年に米プルデンシャルと合弁で生命保険事業に参入、金融事業を手掛けるようになりました。当時、私は「ソニーが保険会社?」と驚いたものです。

 しかし、やはり「ソニー」というブランドへの信頼は大きく、今やソニー生命保険は生保の世界でほぼ大手の一角を占めていますし、ソニー損保はダイレクト系損保の一番手です。

 SBIも証券からスタートしましたが、グループ発足から20年以上が経ち、SBIに対する信頼感、ブランド力ができてきて、近年は認知度が高まる中で、「保険もSBIで安心」と思っていただけるようになりつつあるのではないかと思います。

 ─ 先程、地方銀行とのタイアップというお話がありましたが、どういうことに取り組んでいますか。

 五十嵐 この2年間、集中的に地域金融機関とのアライアンスを増やしてきており、金融カード系も含めて29機関と提携しています。これによって、ネットで加入するという概念を超えて、銀行でも入れる保険になったわけです。

 銀行で保険というと「銀行窓販」が思い浮かぶと思いますが、これも導入された頃はゲームチェンジャーだったと思います。ただ、我々が取り組んでいるのは、例えば銀行の預金者の方にダイレクトメールを送って加入してもらうなど、窓販とは違うスキームです。

 最近では島根銀行に「スマートフォン支店」というバーチャルな支店をつくり、その中で保険商品を購入できるという、今までとは一味違うやり方をしています。

 ─ すでに銀行窓販に取り組んでいる保険会社とは競合しませんか。

 五十嵐 確かに、先行して金融機関と関係を築いている保険会社はあります。普通に行くと、「その保険会社さんとの関係があるので」と断られるでしょう。

 しかし我々は、その保険会社さんとは売り方も商品も違いますから、金融機関も他社も、今までのビジネスを維持でき、金融機関は今まで開拓できていなかった分野が開拓できます。

「グループ生態系」で新たなサービスを
 ─ 従来のビジネスの枠を超えた取り組みといえますね。

 五十嵐 ええ。今までやっていない新しいビジネスを開拓し、ダイレクト損保の枠を超えて、地域金融機関とのアライアンスを展開しています。

 他にも「健康口座」という取り組みがあります。銀行の預金、我々の保険、病院での医療費をキャッシュレスにする後払いサービスという3つをパッケージにした金融サービスです。

 金融機関に「健康口座」という専用口座をつくり、ご自分の医療費を積み立てて蓄えていき、医療費だけが、その口座から引き落とされることになります。

 例えば積み立てが10万円、20万円しかない時に入院して、費用が30万円かかって残高が足りないというケースもあり得ます。何年もかけて積み立ててきたものがゼロになるのはもったいない。

 そこで「健康口座」専用の医療保険にご加入いただくと、かかった医療費を保険で埋め合わせて、残高が減らないようにしています。これによって安心して積み立てができるようになるのです。

 ─ 金融機関に対して、新しいサービスを提供していると。

 五十嵐 そうです。この「健康口座」に関わっている1社に日本メディカルビジネスという会社があります。医療サービスベンチャーとして立ち上がった会社ですが、SBIグループの出資先でもあります。

 この投資先企業が元々持っていたアイデアを、当社グループが少し大きく育てて、大垣共立銀行と21年11月に第1号のサービスとして始めたんです。

 最初に北尾が目を付けて、この会社のアイデアを拾い上げたことで現在に至ります。北尾自身が健康や医療という分野に対する関心が強いということも大きかったと思います。今後は47都道府県、全国に広げていければと考えています。

 ─ グループ全体の力も使いながら、新しいサービスを生み出しているわけですね。

 五十嵐 ええ。SBIグループ全体で構築を進めている「グループ生態系」を駆使し、「オープンアライアンス」で、様々なプレイヤーと連携させていただいています。

 この掛け算で、今までになかったサービスが実現できると思います。

 ─ 五十嵐さん自身、保険業界に入って約30年ですが、幅広い経験を積んでいますね。

 五十嵐 私は生保から損保に行き、少額短期保険に移った経験を持っています。

 生保、損保、少短という3分野全てを経験し、いろいろな環境、分野、会社で仕事をさせていただいたことは、全て自分自身の肥やしになっていると感じています。そうした中で、まだ自分が経験していない新しい分野、仕事にチャレンジするということが、仕事をする上での一つのモチベーションになっています。


いがらし・まさあき
1961年11月東京都生まれ。84年立教大学法学部卒業後、アリコジャパン(現メットライフ生命保険)入社。アイエヌジー生命保険(現エヌエヌ生命保険)、住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)、あいおい損害保険(現あいおいニッセイ同和損害保険)を経て、2007年ブロードマインド少額短期保険(現アスモ少短)設立、代表取締役。日本少額短期保険協会専務理事、日本少短(現SBI日本少短)代表取締役などを経て、19年SBI損保代表取締役社長。

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