BNPパリバ証券・河野龍太郎氏の直言「賃上げには誤った企業統治改革の修正が必要」
財界オンライン / 2022年12月5日 7時0分
日本の長期停滞の最大の原因は何か。儲けても溜め込んで、企業が人的資本投資や無形資産投資を怠り、賃上げに消極的なこと。それが筆者の回答だ。
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アベノミクスがスタートする前から、本欄で、筆者は、企業は儲かっても溜め込むだけだから、円安政策も法人税減税も効果は小さいと、繰り返し主張してきた。やはりその通りだった。
コロナ禍が始まった2020年春には、何人かの財界人から、筆者の言うことを聞かなくて良かったとも言われた。溜め込んでいたから、コロナ禍で売上が減っても、雇用リストラや倒産が避けられたと胸をなでおろしていた。これを成功体験としているのなら、長期停滞からの出口は遠い。
一国全体の成長を真剣に考えるのなら、せめて最低限の所得分配への配慮も必要だろう。例えば、非正規雇用問題。日本経済は非正規雇用に大きく頼っているが、彼らは年金や医療などの社会保険料を自分で全て払わなければならない。不況になると、自らが調整弁にされるのが分かっているから、賃金が増えても、貯蓄に回し、消費を増やさないのである。17―19年の超人手不足期において、非正規雇用の賃金は多少増えたのだが、消費が回復しなかったのはこのためである。
日本は最も弱い人に経済のショックが集中する社会構造だから、完全雇用でも消費が脆弱なのだ。欧州のように、働き方にかかわらず、雇い主が医療や年金など社会保険料を負担する被用者皆保険の導入が必要だ。社会包摂が成長のカギを握る。
株式市場からのコスト削減圧力が強く、最近では正規雇用の教育訓練も怠る経営者が増えている。人的資本が増えないから、生産性も上昇しない。経営者は儲かるのはコストカットのお陰で、従業員の貢献は小さいと考え、賃上げを抑える悪循環が続く。
それでは、なぜ企業は儲かっても溜め込むだけなのか。元々、日本には短期的な利益を追求する株式市場からの圧力を遮断し、長期的な視点で経営を可能とする良き仕組み存在していた。それを過去四半世紀のコーポレートガバナンス改革の名の下に、葬り去ってしまったのである。
米国では、新技術が必要なら、技術を持った人材を外部から雇う。会社を丸ごと買収するという選択肢もある。それができない日本では、自前で人材を育てる必要があるが、経営者は、株式市場からの短期的な利益追求の圧力に晒されている。このため、成果が現れるまでに長い時間を要する人的資本投資や無形資産投資に手を付けず、コスト削減ばかりに注力するのである。
10月28日に政府が打ち出した経済対策には、リスキリング支援が盛り込まれた。政府の支援は重要だが、本当に生産性と賃金を上げたいのであれば、誤ったコーポレートガバナンス改革を正しい方向に戻すことがまず先決だ。
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