【母の教え】BEENOS・直井聖太社長「常に私のことを信頼してくれた母の言葉を受けて、人生の決断をすることができた」
財界オンライン / 2022年11月29日 7時0分
「常に私のことを強く信頼してくれているんです」と話す。越境ECで知られるBEENOS社長・直井聖太さんの母・久美子さんは筋の通らないことが嫌いで、幼少期には厳しく怒られたことも多いという。しかし、直井さんの行動には全面の信頼を寄せており、「それが力になった」と振り返る。会社の経営を引き継ぐかどうかという人生の決断を迫られた時、起業をしようと考えていた直井さんの心に迷いが生じた。その時の母の言葉とは─。
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筋の通らないことが嫌いな母
私の母・久美子は1956年(昭和31年)、愛知県名古屋市で生まれました。元々、母の父、私の祖父は自ら興した事業を営んでいました。
当時はよく見られたことだと思いますが、祖父は長男だったのですが子供に恵まれなかったことから、姉の子供である母を養子にしたのです。
そうした背景もあり、母は幼少期、気を遣いながら育ちましたし、「しっかりしなければいけない」という思いを持っていたのだと思います。
地元の市邨学園に通い、学生時代はバスケットボールに打ち込みました。身長が165センチと女性としては大きいですから、チームではセンターのポジションで活躍していたそうです。
父の修とは、祖父の会社の取引先として知り合い、父が一目惚れして結婚に至ったと聞いています。直井は母方の姓で、父は祖父の跡を継ぐべく婿養子に入ったのです。
私は1980年(昭和55年)に次男として生まれました。子供の頃に印象に残っているのは、非常に厳しい母の姿です。
例えば、小学2年生の時、門限を約束して公園に遊びに出たのに、夢中になって遊んだので、それを過ぎてしまった時、家に帰ると門の前で鬼の形相でバットを持って立っていました(笑)。
また小学生時代、お菓子のおまけとして流行していたシールを巡って、兄とケンカになった時、母は我々からシールを取り上げて、全てを水に浸けてダメにしてしまいました。
門限の話は、帰宅時間を約束したにもかかわらず帰って来なかったこと、シールの話は、たった2人の兄弟なのに物を巡ってケンカしたことに対して怒っていました。筋の通らないことに対しては非常に厳しいのです。
また、弱い人がいじめられているのを見ると、相手が誰であろうと向かっていく正義感の強い人です。ある時、地元のショッピングセンターに出かけたところ、奥さんを横暴な態度で叱責する旦那さんがいました。その奥さんが涙ぐむほどだったわけですが、それを見た母は「あなた、そんな言い方はないでしょう」と言って、その旦那さんに食ってかかるのです。子供ながらにヒヤヒヤしました。
学級委員を務めた小学時代 勉強をやめた中学時代
私は幼稚園の頃は、目立つのが嫌いで周りの様子を見ているような子供でした。小学校は愛知教育大学附属名古屋小学校に通ったのですが、入学に当たって母から言われたことが、その後の私を左右します。それは「担任の先生が『学級委員をやりたい人?』と言ったら全員、絶対に手を挙げないといけないんだよ」というものでした。
実際に先生が「学級委員をやりたい人は?」と聞くので、みんな挙げるものだと思って元気よく手を挙げたところ、私1人でした(笑)。そうして学級委員をやることになりました。
さらにその後、学期ごとに学級委員を選ぶわけですが、私のように立候補する人はおらず、「推薦」という話になります。その時に「経験があるから直井君がいい」という声が多く、そのまま学級委員を続投する形になってしまいました。
その過程で、クラス会の司会や、みんなの意見を取りまとめて物事を決めるといった役割を果たす中で、人前で話すことが普通になりました。これはまさに今の仕事に役立っていますが、見事に母の策略にハマった感じがしています(笑)。
また、小学校2年生の時、登校すると校門のところで待ち構えていた同級生の母親から「うちの子をいじめないで!」とお説教を受けたことがありました。
私はその子をいじめていたつもりは全くありませんでしたが、言われて振り返ると、私のワガママで振り回したこともあったかもしれないとも思いました。しかし、多くの人の目の前で怒られたことはショックでした。
このことを母に話すと、最初に「あなたがいじめるつもりがなかったのはわかっているよ」と言ってくれました。そう言われると自然に、自分の反省点が口から出てきました。母の私への信頼が身にしみた経験です。
中学は東海中学に進学しました。兄が自ら中学受験に臨むことを決めて、東海中学に入っており、私も自然と後を追うような形で取り組みました。
そうして合格できたわけですが、普通は複数校を受験するところ、私は東海中学1校しか受験しませんでした。「あなたは受かるから、他を受けなくてもいい」という母の確信のこもった言葉を受けて、私も「そうかもしれない」ということで1校だけ受験しましたが、いま子供を持つ身となって振り返ると、大胆なことをしたなと思います。
この「あなたはできる」という母の確信は非常に強いものがありました。世間体などではなく、芯から私のことを見て、その力を信頼してくれていることがわかりましたから、その後の私にとっても力になりました。
ただ、中学では全く勉強をしなくなりました。小学校で勉強したことの繰り返しのように思えたこと、そして受験準備の2年間、好きなことができなかったので、元々好きだったサッカーに打ち込むことにしたのです。
当然、成績は下がる一方で、ギリギリで進級するような状況でした。ですから当初は大学に進学するつもりはなかったのです。
この頃、両親は継ぐはずだった祖父の会社がバブル崩壊の影響もあり事業を畳んでしまったことで、2人で会社を興すことに奔走していました。
名古屋で起業をしようと思い、自分は大学に行くつもりがありませんから、日雇いやコンサートのイベントスタッフのアルバイトをしながら何をやろうかと考えていましたが、東京の大学に進学した友人から「遊びに来ないか」と誘われて東京に行くことになりました。
そこで東京の「広さ」を感じ、「東京に行きたい」と思うようになりました。そこで急遽大学進学にカジを切り、後期日程の試験があった明治学院大学に進学することができたのです。
経営を引き受けるか迷いの中で…
大学に進学すると、周りは受験勉強から開放されてサークル活動などで青春を謳歌していましたが、私は中学・高校でやりたいことをやっていましたから、逆に将来のことを考えるようになっていました。私は幼少期から、世の中に影響を与えるような偉人に憧れていましたし、祖父、父の姿を見ていたこともあり、自然と「経営者になろう」と思ったのです。東京で出会った先輩のスタートアップをお手伝いさせてもらいながら、世の中を学んでいきました。
大学卒業後はベンチャーリンクに入社しました。苦労しながら中小企業を経営する父の姿を見ていましたから、そうした企業をサポートする仕事を通じて、自分も経営を学びたいと考えたのが志望の動機でした。
その仕事の中で、様々な企業や業界の分析をしていましたが、当時、日本の人口減少が多くの業界に悪影響を及ぼすことが見えており、強い危機感を抱くようになりました。
市場が小さくなる中でパイを取り合うだけでは、誰も幸せにはなれません。ですから市場を広げることが大事で、そのためには世界に出ていくしかない、と考えたことが、今の仕事につながっています。
そうして起業を模索していた時に、ネットプライス(現・BEENOS)創業者の佐藤輝英と出会い、事業に参画することになります。その中で、越境ECの新規事業を立ち上げることになり、社長を務めた会社が現在のtensoです。
その後、佐藤からBEENOSの社長に指名されましたが、正直迷いました。元々は起業を志向していましたから、新規事業として立ち上げたtensoの独立性を高めて運営していきたいと考えていたからです。
学生時代も、仕事を始めてからも、母に何かを相談することはありませんでしたが、この時は難しい判断だったこともあって、母に状況を話しました。
すると母は「あなたを必要としてくれているのに何を迷うことがあるの!」と私を一喝しました。その言葉を受けて、改めて今後の方向性を考えた時に、私を信頼してくれる人達のために、経営を引き受けることを決断したのです。
BEENOSは越境EC事業「Buyee」を手掛けるtenso、個人向けブランド宅配買取サイト「ブランディア」を運営するデファクトスタンダードなどEC関連事業、インキュベーション事業を手掛けています。
今の日本には暗い話題が多いと感じますが、我々はその中で人々に「希望」をもたらすような仕事をする存在でありたいと考えています。
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