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【オカモト】岡本邦彦社長の「 ゴムやプラスチックを『薄く作る』技術で生活密着の製品を」

財界オンライン / 2022年12月15日 15時0分

シェア首位のコンドームをはじめ、プラスチックフィルムや自動車内装材、手袋、靴など幅広い製品群を製造・販売するオカモト。創立88年の歴史を誇る同社の肝は「薄く作る」技術だ。2022年6月に新社長に就任した岡本邦彦氏は「モットーである『身近な暮らしを科学する』という精神に忠実に則って経営していきたい」と抱負を語る。原材料高騰などの逆風が吹く中、ものづくりの精神をどう生かしていくのか。

「ゴミのように見えるデータをうまく活用することで、価値あるものに変えていく」ギックス代表取締役CEO・網野 知博
88年にわたる製造業の歴史
 ─ 2022年6月の社長就任の抱負を聞かせてください。

 岡本 当社の設立は1934年と88年の歴史があります。まずは当社のコーポレートモットーである「身近な暮らしを科学する」の精神に忠実に則って経営していきたいと考えています。それは製造業としての本分をわきまえて、しっかりとものづくりの進化をさせていくと。

 ─ オカモトの強さとは、どういうものになりますか。

 岡本 当社の製造しているものは手袋からコンドームといった生活用品をはじめ、自動車の内装材まで多岐にわたります。その中で共通するのはゴムやプラスチックを薄く作ることが得意であるという点です。それを支える大きな技術としてカレンダリング(圧延)などのシーティングとディッピング(浸漬)の2つがあります。

 この2つの技術を基軸にして、身近なものは何でも製品にしていこうと。それが「身近な暮らしを科学する」ということになります。「こんなものがあったらいいよね」「こんな機能があったらいいよね」といった生活密着の製品をお客様にしっかり提供していきたいと思っています。

 ─ 新製品の開発に力を入れているということですね。

 岡本 そうですね。ですから、工場での生産性の向上と研究開発に時間と労力を割いているところです。当社には国内で4つの工場があり、私自身も時間が空いたときは必ず工場に行きます。

 現場回りはコロナ禍で非常に難しくなっていますが、当社の基本は「三現主義」です。必ず現場に行って商品の現物を確認し、現場の開発状況がどうなっているかを確認する。エンジニアと侃々諤々、議論しています。

 ─ 祖父で創業者の岡本巳之助氏の思想をどう今に生かしていこうと考えていますか。

 岡本 社長に就任するとき、元社長である私の父(元社長の多計彦氏)から「オカモトは創業者の思想や考えといったものをしっかり受け継いでいく会社だ」と言われました。様々な言葉を残していますが、その中で私自身が意識しているのは、「蟹は己の甲羅に似せて穴を掘る」という言葉です。要は、身分相応の経営をせよということは常に心に刻み込んでいます。

 先ほど申し上げたように、当社は手掛ける商品が多く、多様性に強みを持っています。各分野で専業メーカーさんが多くいらっしゃいますが、いろいろなマーケットを経験してきたことが当社の強みになっています。



創業者が残した言葉  ─ 具体的にどういった強みになっているのですか。

 岡本 例えば、生活用品の新商品開発一つにしても、産業材の技術のエッセンスや開発のアイデアを投入できます。この多様性は非常に当社の強みです。また、全ての業界が好調ということは少ないのですが、良い業界もあれば悪い業界もあり、それが5年サイクルぐらいで利益を出しています。収益をきちんと底支えできているということが非常に強みだと思います。

 ─ 創業者の思想は今後も受け継いでいくことが何よりも重要だということですね。

 岡本 はい。創業者は「儲からないものが一番儲かる」という言葉も残しています。これは儲からなくなれば誰もやらなくなる。儲からなくなれば創意工夫によって儲かるように持って行こうとする。粘り腰で事業を続けることが利益につながるという意味になります。

 当社のポートフォリオで言えば、この創業者の思想が色濃く残っていますし、私自身もそういうマーケットへの投資は十分やっていきたいと思っています。人がやめていくということは、皆が儲からないと思っているわけですが、それも最後の1人になれば儲けを独占できると。極端に言えばそういうことです。

 ─ そういった精神を具現化してきたことで好不況に強い経営体質を構築しています。営業利益率も高いですね。

 岡本 いえ、まだまだです(笑)。ただ、資産規模で1000億円を超えてきましたので、売上高でも1000億円以上、営業利益でも100億円以上を安定して出すことが目標になります。

 ─ 事業規模としてはBtoB(企業向け)の方が大きいですが、BtoC(消費者向け)も展開していますね。

 岡本 よく「両方の事業を展開していて難しくないですか?」と聞かれたりするのですが、私個人としてはお客様がどうであっても、商売の原理原則というのは、そんなに変わらないと思っています。しっかり自己研鑽し、技術力を磨き、それを市場のニーズのある商品に投入していく。これは、どんな商売でも同じだと思っています。



フィルムやテープ、自動車内装材、手袋なども生産  ─ では、1つひとつの事業の収支バランスについてはどう気を配っているのですか。

 岡本 かなり細かく見ています。各部署に対して、このぐらいの利益は出せるはずだというイメージを伝え、私の頭の中にも入れています。工場に対しても同じです。当社の事業は大きく分けると次のようになります。

 産業用製品事業として、壁紙事業や車の内装材である車輛資材事業に加え、間仕切りやデスクマットなどに使われるフィルム事業に、レトルト食品やリチウムイオン電池などの包装に使われる機能プラスチック製品事業、ラップフィルム・食品用脱水・吸水シートを含む食品衛生用品事業、農業で使われる農業用フイルム事業、そして粘着テープなどの粘着テープ・工業用テープ事業です。

 一方で生活用品事業として、コンドーム事業、一般と病院向けの手袋を供給する手袋事業・メディカル事業、ホームセンターなどで販売されている天然ゴム製の長靴などを手掛けるブーツ事業、除湿剤、カイロ・温熱シートなどの生活用品事業です。

 これらの事業に対して子会社に至るまでかなり細かく経営状況をチェックしています。メーカーの基本は生産性の向上です。ただ、88年間も続くと、何となく「こんなものだろう」という雰囲気が出て来てしまう。そうではなく、しっかり危機感を持ってもらうことが私の使命だと。

 ─ 今後の海外展開についての方向性とは。

 岡本 現在の海外売上高比率は30%強です。当社の事業の中では2つの事業が海外事業を牽引しています。それがコンドームと車の内装材になります。これらの事業はまだまだ伸びると見ており、投資も継続していく予定です。ですから、結果として比率は増えていくと考えています。市場規模で言えば、現状だと北米と東アジアの2地域がツートップです。その中でも北米のマーケットは非常に大きい。

 ─ 岡本さん自身は海外を担当してきましたね。

 岡本 ええ。最初の赴任先は北米で、その後は香港にも駐在しました。当時、私が言っていたのは「バイリンガル」ではなく「バイカルチャー」。2つの文化をどれだけ理解し合うかということです。言語ももちろん大事ではあるのですが、それ以上に風習や習慣といった文化面での理解が大事だと。そこをどこまで突き詰められるかが重要だと感じましたね。

 ─ 一方で原材料費の高騰が大きな課題となっています。どう手を打っていきますか。

 岡本 当社の扱う原材料も高騰しています。その中で私の方針としては「純然たる製造業であれ」です。当社は比較的伝統的な産業に近い領域に位置しています。ですから、急激に何かに対する対処法というのはないと。やれることを忠実にやっていくことです。その意味では、足元の原材料高に振り回されず、長期的な4つの視点に立っていかなければならないと考えています。

 1つ目が環境対応。2つ目が国際事業展開の加速。3つ目が国内事業の深化。最後の4つ目が生産の効率性のアップです。これらを軸に対策するしかないというのが基本です。短期的に見れば22年は非常に厳しかったりするのですが、これを糧に長期的な利益をしっかり稼げる体制にしていくことが目標です。

 ─ 経営は長期的な視点で見ておかないといけませんね。

 岡本 そう思います。ゴム・プラスチック業界は粗利が70%、80%という業界ではありません。その割には設備投資がかさむ装置産業でもあります。やはり5年、10年のサイクルでどう事業を展開していくかが大きなキーになると考えています。

 ─ 再び国内の話に戻りますが、コンドームでは相模ゴム工業とのライバル物語が語られています。ライバルの存在をどのように捉えていますか。

 岡本 私自身、他社のことを気にする前に自分のことを気にしようと社内には言っています。ただ、相手の会社があるから自分たちの会社のこと考えることができる。株主と同じですね。外部からのプレッシャーがあるから我々も経営に対して緊張感を持つことができます。

 営業のマーケットで言えば、コンドームでは相模ゴムさん、フィルムで言えばアキレスさんといった会社がライバルとしているから我々も研鑽できる。そこに負けないように知恵を絞っていくという形で社内には発破をかけています。



創業者の孫としての使命  ─ 岡本さんは父親と同じ40代での社長就任となりました。どう受け止めていますか。

 岡本 この立場になってみると、創業者の後を継いだ父もいろいろな苦労があったのだなと思います。おっしゃるとおり父が社長に就任したのも40代。当時と今とでは時代が違うから何とも言えないですけども、今ほど若社長がたくさんいる世の中ではなかったと思います。

 今は20代や30代で家業を継いでいる社長はたくさんいます。あるいはIT企業などで30代の社長もたくさんいる。今と産業構造が違う中で、あの若さで社長をやったということは苦労も多かったと思います。創業者は非常に個性が強い人でしたので、父はそれを普通の会社に変えていくことに努力をしていたように感じます。

 ─ そうすると創業者の孫としての岡本さんもチャレンジすることが使命となりますね。

 岡本 そうかもしれません。世の中がコロナ禍となり、求められる働き方も大きく変わりました。また、投資家の見方も以前とは全く変わりました。優良企業の定義も変わりつつある中で、それに合わせた経営を行っていかなければならないと強く感じています。

 ですから、父以上にもっとジェネラルというか、もっと多方面外交を繰り広げていかなければいけないのかなと思います。創業から88年という年月が経っても今のマーケットで更なる努力をすることで、会社を発展させられると私は信じています。


おかもと・くにひこ
1979年東京都生まれ。2002年慶應義塾大学商学部卒業後、オカモト入社。13年海外部長、15年取締役海外部長兼シューズ製品部長、17年常務取締役、18年専務取締役、21年代表取締役副社長などを経て、22年6月より現職。

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