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【少子化時代の大学改革】立教大学・西原廉太総長「社会のデジタル化に対応しながら『人の尊厳』を大事にする教育を」

財界オンライン / 2023年1月4日 11時30分

西原廉太・立教大学総長

「少子化傾向はすぐには改善しない。安穏としてはいられない」─こう危機感を示すのは、立教大学総長の西原廉太氏。キリスト教を基礎に置いた教育を展開する立教は、教養教育と専門教育を学生にいかに身につけさせるかで、様々な改革に取り組む。そして全学共通のプラットフォームを構築する他、海外大学との連携も進む。「建学の精神を大事にしながら、時代に合わせて変革していく」と話す西原氏の大学改革とは─。

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需要がない中で学校を設立した創立者 

 ─ コロナ禍、ウクライナ危機など、人々が自らの生き方を見つめ直す時期でもあったと思います。そうした中で学生を育てる立教大学の教育の特色について聞かせて下さい。 

 西原 本学は2024年に150周年を迎えます。創立者であるチャニング・ウィリアムズは、米国聖公会からきた宣教師ですが、1859年、江戸末期の長崎に辿り着きます。 

 当時は江戸幕府によってキリスト教は禁じられていましたから、中国系のお寺に軟禁状態で留め置かれたわけですが、その間、日本語の勉強や、聖書の日本語訳に取り組んだそうです。 

 同時に高杉晋作や大隈重信、前島密などに、世界情勢、英語などを教えていたのです。その後、大阪での活動を経て1874年に東京に移り、築地の居留地に居を構え、「立教学校」をつくりました。そこでの教育は英学と聖書、つまり聖書を英語で教えることが出発点でした。 

 ─ 創立当初から国際化されていた学校だったと。 

 西原 そうです。当時は禁教が明けたばかりですから、キリスト教のニーズは日本にありません。それでも学校をつくりたいと。日本の青少年の状況を見て、理念に基づく教育が必要だと考えたのです。 

 本学の建学の精神は「Pro Deo et Patria」、「普遍的なる真理を探究し、私たちの世界、社会、隣人のために」です。真理を探究する者達を育てるために、我々の学校は存在するということ、そしてこの世界、社会、隣人のために仕える人達を育てること、これが使命です。 

 ─ 社会貢献の大事さを説くという人材育成ですね。現在、学部はいくつありますか。 

 西原 今現在は10学部1コースです。2023年4月には「スポーツウエルネス学部」を新設します。当初、東京オリンピック・パラリンピックを目指して構想していましたが、コロナ禍によってタイミングがずれた形です。 

 ただ、結果的に23年でよかったと考えています。55年ぶりに「箱根駅伝」に出場しますし、コロナ禍を経て、私達はウエルネス、健康福祉社会の大切さを改めて理解したと思うからです。その責任を果たすことができる学部になると期待しています。 

 よく「スポーツ学部ですね」と言われますが、単にスポーツだけでなく、スポーツは人格教育、人間形成に非常に重要です。キリスト教的に言うとスポーツは「レ・クリエーション」、つまり「人間性を回復する」ものです。共同社会の形成、心身の健康増進、自然と共感するという観点で、非常に重要です。 



少子化の中で選ばれる大学になるために 

 ─ 日本は少子高齢化が続いています。大学は、より「選ばれる大学」であることが求められていると思いますが、この問題をどう考えていますか。 

 西原 少子化問題は日本全体の課題です。私は日本私立大学連盟の常務理事、キリスト教学校教育同盟の理事長も務めています。立教は、ありがたいことに定員割れという事態にはなっていませんが、規模の小さい大学などは少子化のあおりを受けて苦戦しています。 

 この傾向は、すぐに改善することはありませんから、立教も安穏としてはいられません。厳しい学生募集だからこそ、おっしゃるように選ばれる大学にならなくてはなりません。 

 ですから、「オール立教」、全学を挙げて、選ばれる大学にしていきたい。つまり、我々のブランド価値をもう一段、上げていきたいと考えています。 

 ─ そのために、どんなことに取り組みますか。 

 西原 建学の精神という、変えてはいけないものと同時に、変革し続けなければならないものもあります。 

 私が一番力を入れているのが、16年度から導入した本学の学士課程教育の統合プラットフォームである「RIKKYO Learning Style」の発展です。 

 かつて、大学では教養教育と専門教育が分離していた時代がありました。立教でも一般教育部が独立して存在しており、2年次以降に学部で専門教育を行っていましたが、1995年に一般教育部を廃止、新しい教養教育システムとして97年に「全学共通カリキュラム」(全カリ)をスタートしました。当時は画期的なものとして評価されました。 

 なぜなら、多くの大学は学部で縦割りになっていることが多く、その敷居が高かったからです。一方で立教は横串を刺しており、どの学部の学生も全学共通のプラットフォームに乗っていることに特徴があります。 

 ─ 大きな変革をしたわけですね。 

 西原 ええ。その仕組みで、それなりの評価を得てきましたが、先程申し上げたように16年度に「RIKKYO Learning Style」を導入しました。その理由として、学生は1年、2年で全カリの必要単位を取得し、その後専門教育に進むという形が多かったからです。 

 そこで、全学共通部分と専門部分を切り分けずに、必要単位である124単位を一体のものとして認識してもらい、学部の教育を有機的に組み合わせる「RIKKYO Learning Style」を導入したのです。 

 元々は「キャリア教育」の発想をベースとしました。4年間の学生生活を、学修の基礎を身につける「導入期」、様々な経験を重ねて視野を広げる「形成期」、将来の目標を見据えて専門分野を究める「完成期」という3つの期間に分け、段階的に学びを深める形としました。 

 ─ これまでのカリキュラムとは大きく変わりましたね。 

 西原 そうです。特に「導入期」が重要です。歌舞伎の18代目中村勘三郎さんが「型があるから〝型破り〟が出る。型がなければ〝型なし〟だ」と言われましたが、導入期に学びの「型」を徹底的に身につけることが大事なんです。 

 導入期では、建学の精神も含めた「学びの精神」と、学ぶために最低限必要な「学びの技法」という2種類の科目を必修にしています。 

 また、このプラットフォームは教養教育と専門教育の統合ですが、もう1つ、正課教育と、サークル活動やボランティアなど正課外教育の統合でもあります。このことを、私達はとても大事にしているんです。 

 例えば、導入期には「ウエルカムキャンプ」などを行っていますが、上級生が1年生とペアになって、立教で学ぶことの意味を伝えていく。そこで立教大生としてのアイデンティティと学びの型を身につけていくんです。また、1年次から「リーダーシップ教育」を行っていることも、大きな特徴です。 

 また、設置年度は未定ですが、スポーツウエルネス学部に続く新たな文理連携型の学部を、池袋キャンパスで構想中です。


デジタル時代の教育をどう進める? 

 ─ 今、産業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が大きな課題ですが、大学教育ではどう進めていきますか。 

 西原 政府からも、大学でデジタル教育を推進して欲しいという要請が来ています。本学の「社会情報教育研究センター」ではデータサイエンス教育を行っていますが、これを全学に展開したいと考えています。 

 また、コロナ禍ではオンライン授業を展開しましたが、全国の高校の進路指導の先生方900名のアンケート調査で、コロナ対応を上手に行った大学の第2位にランクインすることができました。 

 オンライン授業では学習時間が増え、その効果も出ていますし、池袋と新座というキャンパスを超えて授業を受けることも可能になりました。一方で、オンラインだけでは身につけられないことは多いですから、キャンパスの空間を体感し、学生同士でコミュニケーションを取り、様々な教養を身につけるために対面は大事です。 

 ですから、産業界同様にリアルとオンラインのハイブリッドで、そのバランスを取っていくことが重要です。 

 ─ 海外の提携校とのやり取りもオンラインでできるのではないですか? 

 西原 そうなんです。例えば、文学部には英ケンブリッジ大学との「サマープログラム」があり、ケンブリッジの現役学生、著名な先生方も参加する充実したプログラムとなっています。英国型リベラルアーツの源流を体験できるものですが、コロナ禍の間はオンラインなどで進めました。 

 コロナの経験も糧にしながら、常に変革し続けていくことが、少子化の中における大学の生き残りに向けて、非常に大切なことだと考えています。伝統と建学の精神という変わらないものを大事にし、それを現代的に再解釈しながら、組織変革、国際化に向けた変革をしていきます。


価値観形成には学生時代の体験が 

 ─ 西原さんは京都大学工学部を卒業されていますが、その後神学に移行して、現在に至るわけですが、どういった経緯がありましたか。 

 西原 私は工学部の金属工学科を卒業していますが、この学科を創設した人が私の曽祖父なんです。さらに祖父は同じ学科の教授、父は金属工学で大学院を出て、住友金属工業の研究員になりました。私まで4代続けて同じ学部学科だということで、京都大学新聞からインタビューを受けました(笑)。 

 もはや家の職業になっており、選択の余地はありませんでした。ただ、私自身反発はしておらず、宇宙工学の道に進んでNASA(米航空宇宙局)などで働きたいと考えていたんです。 

 それが、大学1年生の時にサークルを探す中で、楽しそうだということで子どもと遊ぶサークルに入りました。大学近くの公園で遊ぶのかと思っていたところ、連れて行かれたのが、在日コリアンの方々が住んでいる川のそばの地域でした。 

 そこで在日コリアンの子どもや青年達と出会ったわけです。またそこで、これは今で言う「サービスラーニング」といって、様々な現場を体験して言語化していくという、フィールドワークのようなものにも参加しました。 

 ─ 誰が主宰していたんですか。 

 西原 京都のキリスト教関係者です。このプログラムに参加したことで、キリスト教、神学的に現実の課題を考えるとどうなるかという目が開かれて、神学に関心を持ったのです。 

 ─ 世の中の現実を現場で体感する、実地によるリベラルアーツですね。 

 西原 そうです。歴史や文化、人々の痛み、苦しみ、人間の尊厳とは、宗教とは何かといったこと、そして言語化できない感性のようなものを学びました。 

 例えば、在日2世のおじいさんが営んでいる古鉄工場で一緒に働いたことがありましたが、そのおじいさんは何も語らずにコツコツ仕事をしていました。その背中から何を読み取るか。この人は一体どういう経緯でここに来て、いま何を思っているのかを深く考えました。これは私の原体験になっています。 

 ですから今、私は先程申し上げた「サービスラーニング」に力を入れていますし、21年4月に立教大学総長に就任した時には「立教大学ヒューマン・ディグニティ宣言」を出させていただきました。 

「ディグニティ」(dignity)は「尊厳」と訳しています。語源はラテン語の「ディニタース」(dignitas)であり、本来の意味は「その存在に価値があること」です。それは決して損なわれてはならないということなんです。 

 ─ 学生時代の原体験が人生、価値観形成に大きな影響を与えたということですね。 

 西原 ええ。私にとっては大学時代に異文化体験、マイノリティ体験をしたことが大きな基礎になっています。私自身が生きてきた歩みを問い直し、新たな視点を与えられたという意味で、非常に大きな経験でした。 

 これは本学の国際化でも大事にしたい観点です。海外との対話はオンラインでもできますが、言葉も文化も違う場所で、時に差別を受けるといったマイノリティ体験は非常に大事です。その経験をすることで、辛い思いをしている存在にも共感する感性が身につくのだと思います。

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