【第2の創業】レゾナックHD・高橋秀仁社長 「強みである半導体材料に注力し、世界で存在感のある化学メーカーに」
財界オンライン / 2023年1月18日 7時0分
「私が社長として全てを懸けるのは人材育成」─こう話すのはレゾナック・ホールディングス社長の高橋秀仁氏。同社は昭和電工と日立化成の統合で誕生した。伝統的な化学事業は持ちながら、今後の注力分野として「半導体材料」を挙げる。両社を合わせると、半導体材料でも世界屈指の企業だという。一方、自身が注力するものは「人材育成」だとして、現場に直接語りかけながら、企業文化の浸透を図っている。 【あわせて読みたい】【1兆円買収】日立化成買収後の昭和電工の”今”と”未来”
「化学の力で社会を変える」
─ 2023年1月から社名が「レゾナック・ホールディングス」となりましたね。「Resonate」(共鳴する)と「Chemistry」の「C」を組み合わせた造語ですが、新会社スタートへの思いを聞かせて下さい。
高橋 22年1月から実質的に統合し、私が昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)の社長を兼務し、意思決定や本社機能も一本化していました。
すでに実質統合しており23年1月は通過点の1つでもありますが、私はこれを「第二の創業」ととらえ、全く新しい会社をつくる思いでいます。そのスタートにあたって社名変更にも意味があると考えています。
─ 改めて、「レゾナック」という社名を選んだ理由を聞かせて下さい。
高橋 我々は化学メーカーとして、これまで歩んできた「光と影」の歴史に真摯に向き合いたいと思っています。化学メーカーはこれまで便利なものを数多く作ってきました。例えばプラスチックがなかったら、日々の生活は非常に不便だっただろうと思います。その一方で、世の中に負荷をかけてきた面があることも否めません。
そのことに対して、化学メーカーとして、きちんと対峙したいとして定めたパーパス(存在意義)が「化学の力で社会を変える」です。
これまで、どんな会社にしていきたいかを役員始め、みんなと何度も話してきましたが、みんなの思いは、このパーパスの中にあります。ただ、非常に大きい課題ですから、1社ではとても解決できません。
では、どういう会社になって、そのパーパスを実現していくか?という時に出てきたのが「共創型化学会社」という考え方です。エコシステム全体をつなげていき、我々はその一員として社会に貢献していこうと。そこで「共鳴する」と、我々が真摯に向き合うケミカルの「C」のレゾナックが一番ふさわしいということで決めました。
─ 「つなげる」という時には自らにも強みがなければいけないと思いますが、レゾナックの強みをどう捉えていますか。
高橋 我々の強みは、圧倒的に半導体材料での存在感だと考えています。半導体のバリューチェーンの中で製造装置とウエハーを除くと、前工程、後工程の材料メーカーとしての規模は当社が最も大きく、品揃えも最も多いと言っていい状況です。
その意味では、半導体のエコシステムの中で重要な役割を担っていると思っています。かつ、今後「ムーアの法則」(インテル創業者の1人であるゴードン・ムーアが唱えた『半導体の集積率は18カ月で2倍になる』という経験則)が限界に達して、前工程の微細化がサチュレート(飽和)してきている中、後工程で半導体全体の性能を上げていこうという動きが大きくなっているからです。
例えば19年に神奈川県川崎市に「パッケージングソリューションセンタ」を設置しましたが、ここには後工程を完全に再現できる装置を備えています。
ここで半導体メーカーの方々は材料を自由に組み合わせて試作ができるようにしており、「オープンイノベーション」の場となっています。まさに「つながる」という発想で、幅広い材料を持っているからこそできることです。
半導体材料で日本は存在感を示せる
─ 21年10月には半導体材料や基板、装置の開発を手掛ける12社で「JOINT2」というコンソーシアムを設立しましたね。これも「つながる」という発想だと。
高橋 そうです。次世代半導体のパッケージングの最適な材料と装置の組み合わせを提案するための取り組みで、経済産業省の助成金なども活用しています。みんなでつながって、素晴らしい半導体のパッケージングをつくることで、これからの社会に貢献し、強いビジネスにすることもできるという考えです。
─ 半導体業界における日本の存在感をどう見ていますか。
高橋 バリューチェーン、あるいは経済安全保障上、日本がどれだけ「チョークポイント」(戦略上重要な場所)を持っているかというと、製造装置、ウエハー、前工程・後工程の材料が集積しています。米国、台湾、韓国など半導体メーカーを持つ国も日本の会社なしには半導体が製造できないことを、よく知っているんです。
─ 改めて、最先端分野での開発における官民連携のあり方をどう考えていますか。
高橋 大きな投資が必要な産業は、ある程度、政府の後押しが大事だと考えています。ただし、半導体分野に限ると、投資額が大きいのは製造装置でも材料でもなく、半導体そのものです。日本には大きな半導体メーカーはありませんから、その点で他国に比べて大きな投資という話にはなっていません。
ただ、経済安全保障上、日本国内で半導体製造が必要か、必要でないかという時に、例えば台湾の半導体大手・TSMCの熊本への誘致や、ラピダス(トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行が出資して設立した先端半導体メーカー)を国が支援する動きは理解できます。
─ 半導体材料を手掛ける中で、この経済安全保障と経営の関係をどう捉えるべきだと。
高橋 やはり、地域ごとの「塊」が必要なのだろうと思っています。全てが網の目のようにつながっていると、どこかが詰まった時には全てが詰まってしまう。ですから、半導体に関しては、おそらく米国、韓国、日本が1つのブロックになるだろうと見ています。最先端を製造している台湾はどうなるか。中国との関係で悩ましい、ということだと思います。
─ いずれにせよ、半導体材料は経営の大黒柱になっているということですね。
高橋 ええ。半導体・電子材料セグメントの売上高を、2030年12月期には、21年12月期比で約2.4倍となる8500億円超に伸ばす計画です。この時には、レゾナックの売上高に占める割合は50%程度になると見込んでいます。
しかも、この事業はEBITDAマージン(売上高に対する利払い・税引き・償却前利益の比率)が高いですから、加重平均で会社全体のEBITDAマージンが上がっていくことになると計算しているんです。
半導体材料は、次々に新しい商品が出てくるのに合わせて、デファクトスタンダードとなる材料をつくり続けなければならないビジネスモデルですから、開発競争に負けないようにやっていきます。
─ その意味で、旧昭和電工による旧日立化成買収には大きな意味があったと。
高橋 日立化成は半導体後工程の主要材料の多くを持ち、それぞれが世界トップ3の市場シェアがあります。技術的優位性も高い。一つひとつの市場が大きくありませんから、参入障壁も高いという特徴があります。
元々、日立化成は世界で初めて半導体材料に有機素材を使った会社で、その価格設定が非常に上手だったことで今、素晴らしい事業になっています。
─ 高橋さんが重要視している経営上の指標は?
高橋 先程申し上げたEBITDAマージンです。売上高1兆円以上の規模を維持しつつ、EBITDAマージン20%以上を確保しようと言っています。これが実現できれば、ROIC(投下資本利益率)10%も付いてくると考えています。
このEBITDAマージンは事業部ごとの加重平均ですから、大事なのは高い事業は売上を伸ばし、低い事業は伸ばさないことです。例えば石油化学事業に対しては、売上高を伸ばさすに利益率の改善を求めています。それが会社の全体最適だと。
1年間で70回の社員との直接対話
─ 成長を担うのは「人」だと思いますが、その力を引き出すために必要なことは?
高橋 短期的な手当てとして、外部採用を積極的に行いました。経営陣は12人いますが、そのうち私も含めて5人が外部からきた人材で、その道の〝プロ〟を集めてきました。
一方、私は社長就任以来、人材育成に注力してきました。事業のポートフォリオや戦略は、極論すれば誰にでもつくることができます。経営の差別化要因は、戦略を実行する経営陣がいること、そしてそれをサポートする人材が育っているかです。しかも、継続的に人が育ち続ける環境が大事ですから、私は人材育成に全てを懸けています。
─ 具体的にどういうことに取り組んでいきますか。
高橋 最初に10年後の姿を考えました。価値観を共にする仲間が集まり、適度な緊張感を持ち、成功するとすごく楽しい。その中では言いたいことを上にも下にも横にも言える100%「心理的安全性」が確保されている状態をゴールにしたのです。そこに至るために何をしなければならないか?をベースに考えています。
まず、22年の1年間は「発信の年」として、私がどういう会社にしたいか、みんなにどういう社員になって欲しいかを直接語りかけるために、国内外拠点を延べ70カ所訪問し、61回の「タウンホールミーティング」を実施しました。
この中では事業所の社員全員を集めて、私の言葉で話しかけると同時に、人事責任者のCHROにも、今後の人事制度や企業文化について話してもらいました。
さらに、必ず10人くらいを集めた「ラウンドテーブル」も行い、彼らの質問を受けて、ディスカッションをしていたんです。これは110回行いました。
─ 社員からはどういう反応がありましたか。
高橋 無記名で反応を取っているのですが、「社長は怖い人だと思っていたら、面白い人でした」という意見もありました(笑)。非常にポジティブな反応が多く、嬉しかったですね。
やはり、対面で話すことは非常に大事だなと実感しました。反応の中で「もう少し時間が欲しい」、「もう少し双方向でやりたい」という意見がありましたから、それを受けて23年は少しやり方を変えたいと思います。
また、社員には「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」が大事だと訴えてきました。この4つを会社の「バリュー」として定め、「この価値観と合わない人は辞めてもらっていい」と伝えるほど大事にし、全ての基本にしています。
─ 個人の能力を伸ばすことと、会社全体との関係をどう考えますか。
高橋 チームプレーは非常に大事ですが、個が強い人が集まることで、いいチームになります。ゼネラル・エレクトリックのCEOを務めたジャック・ウェルチは「最高の選手がいるチームが勝つ(The team with the best players wins)」という有名な言葉を残しています。私もその通りだと思います。
その「個」を育てる時に大事なのは、悪い部分を直すのではなく、いい部分を伸ばすことです。そのいい部分が違う人を集めることが、チーム力の強化につながると考えています。個々の持つ力を最適に発揮できるようなチーム編成をし、個が強いところを伸ばす。これによって全体が強くなると思っています。
─ 賃金や処遇のあり方も変わっていくと。
高橋 できるだけ「年功序列」は壊していきたいですね。頑張った人が報われる制度が大事ですし、抜擢人事も積極的に行っていきます。
─ 高橋さんは15年に昭和電工に入社しましたから7年が経ちましたね。この間の手応えはどうですか。
高橋 やるべきことはやってきたと思っています。最初にポートフォリオ変革をしなければならないと考え、独SGLの黒鉛電極事業を買収しました。
この事業が利益を上げたことでバランスシート(貸借対照表)が綺麗になりましたが、次に成長事業が必要だということで日立化成の買収を実行しました。そこで借り入れが増えたこともあって事業売却の一方で公募増資も行いました。
ここで攻めに転じることができそうだということで、半導体材料への投資を打ち出しているわけです。戦略的な打ち手はほぼ完了しましたから、私が社長として全てを懸けるのは文化の醸成と価値観の共有です。これが私のミッションなんです。
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