【東京おかしランド】に見る鉄道会社と菓子メーカーの新たな試み
財界オンライン / 2023年2月8日 7時0分
「コロナを経てお菓子が単なる食べ物からコミュニケーションのツールになった」─。こう語るのは東京ステーション開発社長の宇田川享氏だ。東京の玄関口・東京駅に新たなスポット「東京おかしランド」が登場した。老若男女、ファミリーやサラリーマン、外国人も集まるこの場所に日本を代表する菓子メーカーが集結し、新たな試みを始めている。新スポットの登場は大家であるJR東海や菓子メーカーそれぞれが直面する経営課題を乗り切るための実験場としての面も持っている。
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JR東海にとっての不動産開発
「東京駅の八重洲エリアは商業施設の激戦区。そこで百貨店などと同じことをしていては生き残れない。日本を代表する菓子メーカーに集結してもらい、幅広い世代が集まる首都東京の玄関口にしたい」─。このように力を込めるのは東京ステーション開発社長の宇田川享氏だ。
同社は不動産開発などを担うJR東海100%子会社。東京駅八重洲口に直結する商業施設「東京駅一番街」を2005年に開業したほか、東京都内における東海道新幹線などの高架下での事業開発を担っている。
この中でも東京駅一番街はユニークだ。テレビ局のオフィシャルショップや「ポケットモンスター」「ウルトラマン」などの人気キャラクターが集う「東京キャラクターストリート」や様々なジャンルのラーメンを集めた「東京ラーメンストリート」、菓子メーカーのアンテナショップを集結させた「東京おかしランド」の3エリアで構成される。
同社がこれらの素材にスポットを当てた経緯について宇田川氏は「人々の生活に寄り添う重要なファクター」であることを挙げる。結果、買い物客をはじめ、ファミリーやサラリーマン、訪日外国人観光客の買い物や土産需要を掘り起こしている。
この中で開業10年を迎えたのが東京おかしランド。リニューアルを機に敷地面積を約1.4倍に増床した。そして「日本を代表する菓子メーカーが集まっているのは日本で唯一ここだけ」と宇田川氏が強調するように、これまでカルビー、森永製菓、江崎グリコの3社だったが、新たに亀田製菓が参加した。
JR東海からすれば不動産開発に注力するのには理由がある。同社はJR本州3社の中でも東海道新幹線が営業利益の6割超を占めており、運輸収入でも新幹線の割合がJR東の3割強、JR西日本の5割強に対し、JR東海は9割強と突出している。不動産事業は全体の売上高の僅か5%だ。
コロナ前までは新幹線に特化することで他社を圧倒する利益率を誇っていたが、コロナ禍で一変。現在も東海道新幹線の乗客数はコロナ前の8割の水準で留まっている。その結果、それまで新幹線に依存してきたJR東海にとっては〝非・新幹線〟の育成が喫緊の課題となった。
そこで宇田川氏は「新幹線に頼らない事業」として不動産開発事業を掲げ、「他社のように大規模な敷地を持っておらず、限られた保有地の有効活用が重要になる」と強調。その点、東京駅の敷地は今後の同社にとって非・新幹線事業の重要な武器だ。
菓子メーカーにとっての意義
一方、テナントとして東京おかしランドに入居する菓子メーカーにとっては原材料や水道光熱費の高騰といった共通の経営課題に対し、独自の対応策を展開して足元の厳しい局面を打開しようと知恵を絞っている。
その1つが江崎グリコだ。同社は今回のリニューアルを機に新業態のアーモンド専門店をオープンした。健康事業マーケティング部ブランドマネージャーの江川直氏は「アーモンドをどのように摂っていくのが体にいいのか。それを60年以上前から研究してきた」と語る。
2022年に創業100年を迎え、社長交代も行った同社は創業者・江崎利一氏が発明した栄養素・グリコーゲンを使ったキャラメルに次ぐ新たな柱を模索していた。その答えの1つがアーモンド。新店ではグリコの社名やロゴは1つもない。「健康を切り口にアーモンドの可能性を広げ、第2の柱に育てていきたい」と担当者。
自社の主力素材の潜在力を引き上げる試みを行うのがカルビーだ。各店舗にはライブキッチンが併設されており、出来立ての商品が味わえる。そこで同社はじゃがいもを原料にした人気の菓子「じゃがりこ」をベースにした揚げたてメニューの「BIG ポテりこ」を発売した。
「サクッ、ホクッとした食感だが、ちょっとトロッとした味がする。オニオンを入れて温かなポテトサラダを食べているような雰囲気に仕上げた」(カスタマーマーケティングカンパニースペシャリテ事業本部DCM事業部部長の北村恵美子氏)。じゃがいもでお菓子の領域を超えた〝食事需要〟の獲得を見据えている。
森永製菓も出来立てに力を入れる。同社の主力商品である「ムーンライトクッキー」を出来立てで提供。加えて全国のご当地味の「ハイチュウ」を1カ所にまとめることで「まとめ買い」(担当者)の需要を狙う。
初出店の亀田製菓は主力商品の融合を実現。「『ハッピーターン』味の『亀田の柿の種』という2大ブランドの禁断のコラボ」(事業開発部部長の田口謙一氏)を施した商品を発売した。この場所でしか味わえない。
たかがお菓子、されどお菓子─。宇田川氏は「コロナを経てお菓子が単なる食べ物からコミュニケーションのツールになった」と分析する。調査会社・インテージによると菓子市場は約1兆5000億円。菓子の種類によって増減はあるが、ほぼ横ばいの状況が続いている。
ただ、人口減少で将来の需要の縮小は避けられない。その中で東京おかしランドに出店する菓子メーカーの商品は全て通常の商品よりも割高だ。それでも子供のお菓子という既存の枠組みから抜け出し、大人の小腹を満たしたり、家族の会話を誘発したり、「ここでしか」できない体験ができたり……。新たな付加価値をいかにつけるかに腐心する。
おかしランドは菓子メーカーにとっても試行錯誤の実験場となりそうだ。
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