【倉本 聰:富良野風話】アパレル
財界オンライン / 2023年2月11日 7時0分
年明け早々、意外なデータに遭遇した。
【倉本 聰:富良野風話】墓仕舞い
国連貿易開発会議(UNCTAD)という国連の下に置かれた国際機関がある。
この機関が最近発表した「環境汚染産業」の第1位は石油産業である。石油精製に伴う排ガス、油田随伴水、油田周辺の土壌汚染などを考えると誠に納得の結果である。びっくりしたのは第2位である。これがアパレル産業なのだという。
たとえば我が国における現状。環境省が初めて行った調査で明らかになったところでは、国内で1年間に供給される衣服35億着の、製造から廃棄までの工程で排出される二酸化炭素は、推定9500万トンになるという。これは中小国の1国分の排出量に匹敵する。日本の衣服の98%は海外からの輸入によるものだということで、9500万トンの9割は海外で排出されていることになる。
同時にこのアパレル産業は、地球の水環境にも大きな影響を与えており、原材料となる綿栽培などに使われる水消費量は83億立方メートルで、世界の衣服業界全体の9%に当たるという。更に、化学繊維は石油から作られており、現在衣服の60%はナイロン、ポリエステルなどの繊維状プラスチック。これが洗濯の度にマイクロプラスチックとなって下水から流れ出し、海を汚染する。
環境省によると、日本人1人が年間に購入する衣服は平均18枚。手放す衣服は12枚。クローゼットやタンスに眠る服は25枚。ということだそうで、大量生産、大量消費、大量廃棄というこの国の歪み、人類の歪みが、実に鮮やかに見てとれる。
衣類とはそも、寒さ暑さから身を守るもの、あるいは外傷から身を守るものとして必要だから生まれたものである。それがいつのまにかファッションという美の奴隷になってしまった。それも極めてトンチンカンな形でである。
新しいジーンズにわざわざ穴をあける。さも使い古したと言わんばかりに革のジャンパーを石でこすり、着古した形を演出する。ムリである。着る者の顔に人生の履歴が刻まれていないのだから古びた革ジャンが合うわけがない。
40年ほど前に富良野塾を始めた時、都会からやってきた青白い若者共が、初めて農作業で地べたに這いつくばり、腰を痛めるものが続出した。何故なのか、その理由が最初判らなかったのだが、農家の御主人に指摘されてやっと判った。あいつら自分の身体より、ズボンを汚すことを恐れとるんだわ。だから膝つきゃあ、ずっと楽なのにズボンを汚すまいと変な中腰で作業しとるんだわ。あれじゃあ腰に来るわ。あいつらにはズボンと自分の身体と、どっちが大切か判っとるんかね。
ヒトは服の意味が判らなくなっている。
フランスでは2022年1月、衣服を捨てることの禁止令が出され、違反した者には1万5000ユーロ(約204万円)の罰金が科せられることに決まったそうだ。
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