1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

介護保険に“自助”の要素を組み込む 【クラウドケア】小嶋潤一の新・介護ビジネス

財界オンライン / 2023年2月22日 18時0分

小嶋潤一・クラウドケア代表取締役CEO

訪問介護や家事代行などの生活支援をはじめ、通院付き添いや院内介助といった介護保険外サービスを手掛ける介護士と高齢者などをマッチングさせるサービスがある。小嶋潤一氏が率いる「クラウドケア」だ。介護保険の対象外となるサービスを、介護スキルを持つ人材とインターネットを介してマッチングさせることで、利用者のニーズを満たしつつも、介護スキルを持つ人材の収入増にも寄与する。介護保険という制度下にある溝をいかに埋めて自分でできることを考えるかが課題となる。

人手不足時代の学び直しをどう進めるか 関根 潔・インタラクティブソリューションズ代表取締役


ヘルパーは面接を経て登録

 認知症で病院に入院している高齢者。認知症のため自分の身体に処置されたカテーテルなどを勝手に抜いてしまうことがある。その度に看護師がもう一度挿入したりする。看護師の負担も大きく、病院は家族に付き添いを依頼するが、家族も四六時中、傍にいることは不可能。そんな困り事を介護士とのマッチングで解決しているサービスがある。小嶋潤一代表取締役CEO率いる「クラウドケア」だ。

 介護保険の適用者は介護に絡むあらゆるサービスが受けられそうに思えるが、実は実態は違う。例えば、病院への通院の付き添いや病院内での介助、公園への散歩などは対象外だ。介護保険には病院の行き帰りの付き添いは適用対象だが、院内介助は認められていない。それらは介護保険外サービスとされる。

 介護保険外のサービスを提供する介護士と高齢者などをマッチングさせるクラウドケアには約650人の「ヘルパー」と呼ばれる介護士が登録。小嶋氏は「介護職として現役で働いている人が多く、普段は病院や介護施設で働いている人が副業で働くケースが多い。フリーランスで自分の介護スキルを生かして働くという人もいる」と話す。

 2016年からスタートしたクラウドケアで提供できるサービスは訪問介護をはじめ、家事代行などの生活支援が多い。他には通院付き添いや院内介助、買い物代行、外出・余暇の付き添いなどもある。現在は1都3県(埼玉・神奈川・千葉)で利用登録者は約2000名である。

 なぜ介護保険外サービスのニーズが高まっているのか。小嶋氏によると、介護保険は等級によって回数や時間、内容などに制限があるため、「日常的な介護や暮らしのケアまでを賄うことができていない」という。

 介護保険適用は在宅の介護が中心だ。しかも、家族と一緒に住んでいるエリアでは掃除ができないといった制約があったりする。さらには、そもそも介護保険の認定を受けるまでに1カ月くらいかかってしまう。そのため、認定を受けるまでのつなぎ期間のサービスが必要になる。加えて、要介護レベルによって利用回数も制限されてしまう。

 小嶋氏は「介護保険では賄えない部分を補完するサービスがどうしても必要になってくる」と強調する。介護保険外サービスを提供する会社は大手も含めて他にもあるが、同社の強みとなっているのが次の3つ。

 1つ目が「正確性」。サービスの内容は選べるようになっており、顧客が求める介護の内容とヘルパーのスキルにミスマッチが起きないように最適なヘルパーを紹介できる。同社のシステムが自動でマッチングをかけて素早くヘルパーにオファーを出し、マッチングを成立させているのだ。しかも、サービスを受けたい1時間前でも対応可能だ。

 2つ目がヘルパーの「人間性」。ヘルパーのスキルを正確に把握し、人間性に重きを置いた採用基準で面接をしている。「自分の親を任せられるヘルパーを採用している」のだ。

 3つ目が「適正価格」だ。「ネットを使っているからこそ、余計な中間コストをカットできる」。訪問介護1時間当たり2750円からといった具合に、時間利用料だけのシンプルな料金体系を実現している。

 一方で同社の仕組みはヘルパーの平均年収の底上げにも寄与する。介護士の平均年収は約314万円と他産業と比べても低い。小売業のレジ打ちなど介護とは全く関係のない仕事を副業とするケースもある。しかし、クラウドケアに登録すれば、「自分のスキルを生かした副業で本業の介護の仕事でもレベルやスキルをアップできる」(同氏)。


IT企業を飛び出しての起業

 そんな小嶋氏はIT企業の出身。大学卒業後はデジタルマーケティングを行うアイレップに入社し、ECサイトを運営するマガシークでマーケティング業務に従事してきた。

 もともと起業を考えていたが、どの領域で起業するかを探っていたところ、IT業界で成功者が登場する傍らで「もっとイノベーションの余地があり、社会に貢献できる領域はないか」と考えていた。

 そんなときに目をつけたのが介護領域。市場や課題も大きく、デジタル化も遅れており、「イノベーションの余地があると思った」(同)からだ。

 そこで小嶋氏は現場を知らなければ課題の本質は見えないと考え、地元の東京都青梅市で在宅介護・デイサービスの会社を起業。そこで目の当たりにしたのが「介護保険制度の限界」だった。そんなときにアイレップで知り合った桐山典悦氏(クラウドケア共同創業者)と再会。

 桐山氏は小嶋氏と同様、アイレップを退社した後、慶應義塾大学ビジネス・スクールに入学。介護保険制度の第一人者である現埼玉県立大学理事長の田中滋氏の下で勉強した後、青梅慶友病院に転職していたのだ。

 両氏が培ってきたアカデミックな知見や介護保険制度の知識、介護保険の現場での経験、そしてデジタルマーケティングの知見を駆使できるという点が同社の強みとなった。

 超高齢社会の到来で要介護者は確実に増える。自分でできることは何かを考えなければ介護保険制度そのものが破綻する。自らのことは自分でやるという自助の精神に立ち、制度下の〝溝〟を埋めて問題を解決する小嶋氏の試行錯誤は今後も続く。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください