【倉本 聰:富良野風話】後、90秒!
財界オンライン / 2023年3月4日 15時0分
世界終末時計というものがある。
【倉本 聰:富良野風話】アパレル
核戦争とか環境破壊による人類(世界、地球)の絶滅まで、後どのくらいの時間があるかを、象徴的かつ科学的に推測した時計である。アメリカの雑誌『原子力科学者会報』の、表紙として使われている。
日本への原爆投下から2年後、冷戦時代初期の1947年から、表紙絵として誕生した。以後、専門家などの助言をもとに、同誌の科学・安全保障委員会の議論を経て、毎年一度、「時刻」の修正が行われている。
47年、スタート時には、午前零時の終焉時刻の7分前を長針は指していた。その針がその後、社会の変動によって進んでみたり、戻ってみたり、1年ごとに目まぐるしく変化する。
これまでに最も戻ったのは1991年。ソビエト連邦崩壊とユーゴスラビア連邦解体の年であり、この時は7分針が戻って、地球終末まで17分となった。
ぐんと長針が進んだ年もある。
1949年、ソ連が核実験に成功し、核兵器開発競争が始まった年には一挙に4分時計の針が廻り、終末まで後3分と表示された。
しかし63年、米ソが部分的核実験禁止条約に調印すると、長針はズズッと5分間戻り、終末まで後12分と少し我々をホッとさせた。
その後、長針は1年ごとに戻ってみたり、進んでみたり、微細な進退をくり返し、最もこれまででホッとさせてくれたのが1991年。7分戻って17分前になった例のソビエト崩壊の年である。
この終末時計が、本年2023年、突如これまでにない進み方を示し、何と残すところ後90秒!一挙に10秒も進んでしまった。
理由は数多ある。
ロシアのウクライナ侵攻による核戦争のリスクの増大。また、この侵攻がもたらしたチェルノブイリ、ザポリージャ原発周辺の紛争による放射性物質の汚染リスクの増大。
更には2026年に控えた米ロ間の新戦略兵器削減条約の失効。北朝鮮のミサイル発射や中距離弾道ミサイル実験の開始。更に更に気候変動や新型コロナウイルスの蔓延と、それらのリスク軽減のための国際的な規範や機関の崩壊。
ついでに言うなら我が日本まで、あの戦争放棄の大宣言を棄てて、世界を覆う戦争の波に、気づけばいつのまにか巻き込まれようとしている。
後、もう90秒!
そのさし迫った時限の中で、誰も真剣に考えようとしない。いや、考えようとしている者はこの広い世界にいるにちがいないのだが、その良識と哲学の叫びが一向我々の耳にとどいて来ない。聞こえてくるのは私利私欲と面子。けちな豊かさへの執着ばかりである。
終末時計はコチコチと動いている。
後90秒。その秒数は、今も確実に針を動かし、後80秒、70秒と、終末への時を刻んでいるにちがいない。さぁ、どうする。
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