【倉本 聰:富良野風話】冬眠
財界オンライン / 2023年3月8日 7時0分
北海道新聞にこんな言葉が載っていた。
【倉本 聰:富良野風話】吹雪
「ヒグマに生まれて冬眠したかった」
札幌で生活保護を受けて一人暮らしをしている初老の男性の言葉である。心臓に持病があって働けず、10年前から生活保護を受けている。この冬の寒さは久しぶりに厳しく、日中も零度を下廻る中、室内で防寒着を着、灯油ストーブを「一番小さな火で」つけている。そのストーブが壊れてしまい、購入費用1万3590円の臨時支給を札幌市に申請して却下された。
2019年、生活困窮者向けの弁護士費用立て替え制度を使って提訴したが、昨年11月30日、札幌地裁はその訴えを退けた。判決理由を裁判長は「生活保護を受けていない家庭も、家具の買い替えのために家計をやりくりしている」とした。その判決後に男性が出したのが、前記した悲しい声明文である。
「私はヒグマに生まれたかった。
ヒグマになって冬に冬眠したかった。
ヒトとして生きることは苦しく、悲しく、痛い(後略)」
記者はこの後にこう続けている。生活保護利用者の窮状を訴えると、批判の声が多く届くという。「私の生活の方がもっと苦しい」「もっと生活費を削っている」「甘えているのではないか」。そして記者はこう書き加える。政府は防衛費を倍増させて23年度から5年間で約43兆円とすると決めたが、ミサイル一発分のお金でストーブは何台買えるのか。
全く以って同感である。
更に言うなら常に言われている議員定数。あの議員たちの数を減らすなら、一体何台のストーブが買え、何人の部屋が暖まるのか。
更に更に愚者の愚見を述べるなら、人類は進歩した科学力を以って、つまらぬ豊饒や兵器の開発を推し進めるより、人類がこの厳しい寒さを乗り越えるために、冬の間は何もせずにヒグマのように穴にもぐって冬眠してしまう。そういう術を優れた頭脳が、どこかで真面目に研究開発してくれないものか。
その間、地上からあらゆる欲が、きれいさっぱり消え去るわけだから、大気はきれいになり、騒音は消え、地球の環境はかなり清浄化されるにちがいない。戦争も起こらず、温暖化も止まり、環境問題にかなり寄与して人類を除く動植物は、見ちがえるように元気をとり戻す。
そんなことになってくれれば良いがと、雪降る深夜ぼんやり考えるが、さて現実にそんな可能性はあるか。
ヒトという種族には、どこかに必ず、チャンスを狙う裏切者がいて、そういう輩は人類の何割かが冬眠してしまったら、これぞチャンス!と、その隙を狙って燃料は奪うは、土地も奪うわ、それこそ地上を今の何倍も、荒れ果てた大地にしてしまうにちがいない。冬眠から目覚めたら、いつの間にか国名も「ルフィ」と改まっていたりして。おちおち眠ってもいられないのである。
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