【危機の中で将来の”種まき”】コマツ・小川啓之社長 「本業の追求で、ESG課題解決と収益向上の好循環を」
財界オンライン / 2023年3月6日 7時0分
「就任以降、経営的にも厳しい環境だったが、将来に向けた種まきを進めてきた」─こう話すのはコマツ社長の小川氏。海外売上高比率が9割のコマツ。米国市場は比較的堅調だが、欧州や中国は難しい状況であるなど、経営環境は混沌としている。その中でも将来に向けた建機の電動化など、先行投資も求められる。「本業を通じて社会貢献を進める」という小川氏が進めている戦略とは─。
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危機の中で会社のDNAを見つめ直す
─ 小川さんは2019年の社長就任ですから、コロナ禍以降の厳しい中でのカジ取りでしたね。ここまでを振り返っていかがですか。
小川 当社は18年度の業績がかなりよかったのですが、19年度は若干需要が落ち、加えてコロナ発生によって、経営的にも非常に難しい状況でした。
19年に発表した中期経営計画をベースに成長戦略の手を打ってきましたが、コロナ禍においても成長が見込める分野には優先順位をつけて投資を進め、将来に向けての種まきはしっかりやってきました。
─ 建設機械の電動化や、施工現場のIT化も進めてきましたね。
小川 ええ。電動化の他にも自動化、自律化、遠隔操作化といったハード面の技術開発を進めてきましたし、それに加えてお客様の施工を最適化するようなプラットフォーム、アプリケーションの開発にも取り組んできました。
21年には株式会社NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社、株式会社野村総合研究所と共に建設現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める新会社「EARTHBRAIN」を立ち上げました。
─ ハードだけでなく、ソリューションも同時に手がけていると。
小川 そうです。「モノからコト」ではなく、「モノもコトも」ということだと思います。この両方をやることで、DXやカーボンニュートラル(脱炭素)を実現していくことにつながると考えています。
コロナなどで経営的には大変な面もありましたが、一方で成長に向けての様々な重点活動を粛々と進めることができたのは、よかったのではないかと思います。
22年4月から、3カ年の中期経営計画を進行中ですが、前中計当時とは外部環境が変わっています。やはりDX、脱炭素の動きは大きな変化をもたらしていますし、ウクライナ戦争、米中競争の激化など、地政学リスクが高まっています。さらには働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョンの動きも加速しています。現中計は、これらの変化を踏まえて策定したものになっています。
─ こうした環境変化の中で改めてコマツ経営の根幹をどう認識していますか。
小川 我々のDNA、創業の精神は「海外への雄飛」、「品質第一」、「技術革新」、「人材の育成」です。品質と信頼性を追求し、重点活動を進めていくことが非常に重要です。
21年にコマツは創立100周年を迎えましたが、これを機会に我々の存在意義を明文化しました。それが「ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く」です。
─ 変化の中でも脱炭素は建機の世界にとっても難しい課題ですね。
小川 建機の電動化については、まだ市場はありません。電動化市場の早期形成に向けて、今のうちから先行研究、先行開発をきちんとやっておくことが重要です。
2050年に本当にグローバルで脱炭素になるかはわかりませんが将来、環境に優しいソリューション、サービス、製品を求められるお客様に様々な選択肢を提供するのがメーカーの責務だと考えています。
海外売上高比率は9割、各市場の動向は?
─ 海外売上高比率は約9割ですが、米国、欧州、アジアの各市場をどう見ていますか。
小川 米国は金利引き上げの影響があり、住宅着工件数や住宅販売は落ち込んでいますが、インフラ投資やエネルギー関連の投資は比較的堅調です。
欧州は、サプライチェーン混乱による供給遅れの緩和は見られますが、インフレやエネルギー価格高騰の影響があり、引き続き今後の動向を注視していく必要があります。
東南アジアは、インドネシアなど石炭鉱山を持つ資源国において資源価格高騰の影響で、マイニングの需要が好調です。一時の高騰より価格は落ちていますが、コロナ前の水準より高い価格を維持していますから、マイニングは引き続き堅調だと思います。
ただ、石炭需要は短期的に好調でも、中長期的に見れば必ず落ちていきます。それに代わる鉱物として銅やニッケルなどのハードロック需要を取り込んでいくことが重要になります。電気自動車(EV)化の進展に伴って、さらに需要が高まると見ています。
─ 次なる成長市場として、資源国でもあるアフリカをどう見ますか。
小川 やはり今後、市場として伸びるのはアフリカだと思います。現中計の中でも成長市場と位置づけており、グローバルで次に需要が大きくジャンプアップするのはアフリカだろうと見ています。
ただ資源国としての伸びが期待できる一方で、政情不安などのリスクもあるので、需要動向を慎重に見ながら、どうビジネスを展開していくかについて議論しています。
─ 中国は現地メーカーを育成していることもあって難しい市場ですね。
小川 そうですね。中国は現地メーカー比率が85%ほどとなっています。我々は、外資メーカーの中で、いかにプレゼンスを高めていけるかが重要となります。ただ、我々にとって、中国市場は、当社の売上高比率で3%しかありません。
中国市場はリーマンショック後に政府が4兆元を投資し、20万台という当時最大の需要が起きましたが、20年には、いち早くコロナを抑え込んだということで、それを上回る30万台の需要が起きたのです。
ただ、20年に需要が膨らんで供給過多が起きた影響や、中国経済全体が、不動産危機やゼロコロナ政策などもあって落ち込んだわけです。今後も難しい状況が続くと見ています。
中国市場の状況の中で、我々自身も余剰生産能力を持っています。グローバルで見れば、需要に対して供給が追いついていない地域もある中で、中国の余剰生産能力を活用して、インドネシアや中南米に輸出しています。これを「グローバルクロスソーシング」と呼んでいます。
従来グローバルクロスソーシング拠点と位置付けてきたタイとインドに、中国を加えることで体制を強化し、外部環境の変動に強いサプライチェーンの構築を図っています。
営業利益率は会社の経営体質を表す
─ 地政学リスクが高まる中、「経済安全保障」という概念が出てきましたが、企業活動に与える影響は?
小川 直接関係するのは輸出規制ですが、当社には輸出管理委員会などの体制を取り、コンプライアンス上、問題にならないようにしっかり見ています。
リスクがあるとすれば産業機械です。当社にはギガフォトンという子会社がありますが、この会社は半導体を製造する露光用装置に組み込まれる光源「エキシマレーザー」を手掛けています。例えば、今後、中国の半導体産業向けのエキシマレーザー販売が規制対象となった場合は、ギガフォトンの事業に影響が出るかもしれません。
ただ、我々のポートフォリオは建設鉱山機械分野が約90%、産業機械分野が約10%であり、経営全体にとっては大きな影響にはならないと思います。
─ ウクライナ戦争の当事者であるロシアにおける事業への考え方を聞かせて下さい。
小川 従来から申し上げている通り、ロシアでは約60年事業を継続しており、お客様との関係があります。ここで部品供給やサービスを止めてしまうと、動いている機械の安全性が担保できません。
そうなると例えば重大災害が起きた時に、PL(製造物責任)問題にもなりかねません。メーカーの責務として、日本政府が定める輸出規制にしっかり対応しながら、必要最小限の部品供給とサービスは継続して進めています。
─ ウクライナ戦争を受けてエネルギー、原材料価格が上がっていますが、製品価格への転嫁はどうなっていますか。
小川 我々の経営に大きなインパクトがあるのが、おっしゃるようにエネルギー、原材料、物流費など様々な価格の高騰です。コストが大幅に上がっていますから、これをオフセットするための対策が必要です。
製品価格には、まだ十分転嫁できていません。コストをオフセットする方策は製品価格のアップ、原価改善、成長戦略の3つしかなく、これらをしっかりと進めていく他、手はありません。
原価改善については中計の中で、3年間で500億円という計画を立てていますし、値上げについても、まだオポチュニティがあると思います。
コストアップと値上げとの間にはタイムラグがあります。値上げができるのは新しい受注からで、すでに受注してしまったものについては、なかなか値上げが難しい。
コストは先に上がり、値上げが効いてくるのは後ですから、今年度下期にはこれまで進めてきた値上げの効果が出てくるのではないかと見ています。今後プラスアルファで値上げを進めることも大事です。
─ 小川さんが重要視している経営上の指標は?
小川 営業利益率です。現状の我々の実力は、営業利益率10%から11%というところで、円安効果で2%ほど上乗せされている状態です。
ただ、過去最高の営業利益率は約15%なので、それに比べると3ポイントほど落ちています。先程お話した中国市場で現地メーカー比率が高まったことや、原材料価格の上昇で利益率が下がっている。
やはり、15%レベルをターゲットに、この中計の中で営業利益率を高めることが重要です。営業利益率は会社の経営体質を表していると思いますから、こだわっていきたいと考えています。
─ 営業利益率を高めるための施策をどう考えますか。
小川 一つ重要なのがアフターマーケット、部品サービスです。我々の売上高の40%以上は部品サービスとなっています。このサービスはマージンが非常に高いですから、これを増やしていくことが利益率を上げることにつながります。
我々はコンポーネントを自社で開発、生産している強みを生かして、部品サービスなどバリューチェーンの部分で事業拡大していくことで利益率を高めていきます。
本業を通じて社会貢献していく
─ 危機の時代ですが、その中で新しいものを生み出していくことが求められますね。
小川 そうですね。我々は常に、本業を通じて社会貢献をしていくという話をしています。我々の本業そのものがESG(環境・社会・ガバナンス)の課題解決になることですし、それによって我々の収益拡大にもつながります。ESG課題解決と収益向上の好循環で顧客価値を創造し、持続的な成長を目指しているのです。
先程お話したアフターマーケットにも、コンポーネントの再生事業が含まれています。コンポーネントを再生・再利用することで廃棄物を減らし、二酸化炭素排出削減に貢献しています。
また、林業機械も手掛けていますが、伐採する機械にばかり注力するのではなく、循環事業としての位置づけで林業ビジネスに取り組んでいます。22年6月には、植林のアタッチメントを手掛けるスウェーデンの企業を買収しました。
いまは、木を植えて、育てて伐採して、また植えてというサイクルを繰り返す森林の再生サイクルの中でのビジネスですが、今後、植林だけでビジネスになる時代も来るかもしれません。
今後さらに木の需要が増えていく中で、林業ビジネスには可能性があると考えています。
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