「人」という存在をどう捉えるべきか、根源的な問いを突きつけられる危機【私の雑記帳】
財界オンライン / 2023年3月5日 11時30分
人として生きるには
「人」という存在をどう捉えるべきか─。このことをコロナ禍は考えさせてくれるし、ウクライナ危機は国と国の関係はどうあるべきか、利害得失はなぜ起きるのかという根源的な問いを投げかける。
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そして、日本国内では近年、やたらと粗暴な事件が続く。高齢者の住宅に侵入し、強盗殺人を犯し、金品を掠奪するという凶悪犯罪。実行役を海外からスマホで指示するということで、まさに犯罪もグローバル化している。
しかも、指示役はフィリピンの首都マニラの刑務所内から、スマホを自在に操っての犯罪実行である。問題解決へ向けて、国と国の連携も不可欠になってきている。
なぜ、このようなおぞましい凶悪事犯が頻発するのか?
デジタル化の流れの中で、わたしたちの生活や経済活動は非常に便利、かつ効率的になった。
コロナ禍をきっかけに、在宅勤務、リモートワークが可能になった。WEB会議も日常的なものになった。
一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)が悪のネットワーク化にも悪用されるという現実。位置情報共有アプリなどが犯罪にも使われる。
何事にも、プラスとマイナス、正と悪の作用が生まれる。技術の進化には、正作用と共に反作用・副作用が伴うということだ。
マイナス面や反作用が生まれるのは、人と人のつながりが薄れることから来る面はないのか?
社会の有り様が変わり、企業組織、人の生き方・働き方が変わっていく中で、人間的要素をどう取り込んでいくか。何とか知恵を絞り出していきたいものだ。
空気感を変える!
今、産業界では、コストアップに見合う製品価格の値上げと物価上昇を考慮しての賃上げ気運が高まっている。
なぜ、日本は〝失われた30年〟になり、デフレ状況が続き、生産性の低い国といわれる状況に陥ったのか?
日・米・独3カ国の労働生産性比較では、〝時間当たり労働生産性〟を見ると、米国は80.5㌦、独(ドイツ)は76.0㌦なのに対し、日本は49.9㌦とかなり低い(2020年、OECD=経済協力開発機構調べ)。
長らく通商産業省(現経済産業省)で産業政策を担ってきた福川伸次さん(元通産事務次官)は「労働生産性がこれだけ低い状況では、賃金だけ上げて、それを付加価値に結び付けるというふうにはなかなかならない。成長に結び付かない」と語る。
それではどうするか?
賃上げを一過性のものにせず、継続的なものにするには、「生産性を上げること」と福川さんは強調。
詳しくは、本号での福川さんへのインタビュー欄を参照してほしいが、要旨を簡略化すれば、「日本はとにかく安く作って安く売るということをやってきたが、これからは安く作って高く売ることも重要」ということ。
他社との競争上、安く売るしかないということで思考停止のまま来てはいないかということ。
消費者の求める付加価値のある商品やサービスには、それだけの値段を付けられるという考え。その意味では、これまでの日本の産業界の空気感を変えるということである。
ヴォーゲル教授の〝謝り〟
米ハーバード大のエズラ・ヴォーゲル教授が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いたのは1979年(昭和54年)のこと。教授は2020年末に逝去されたが、亡くなる3カ月前、福川さんは教授と会って歓談したという。
「僕は前から彼をよく知っていましたしね。通産省の現役時代から付き合って、会うといろいろ話をしてきました。最後に会った時に、自分は日本に申し訳ないことをした。自分はアメリカ人に、日本がなぜこんなに強くなったのか、よくなったのかということを知らせるために、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本を書いたというんです」
米国はベトナム戦争などがあり、インフレと経済力低下に当時悩んでいた。その米国の改革をという危機感から、教授は著作をあらわしたわけだが、当の日本に「ジャパン・イズ・ナンバーワンと勘違いさせてしまった」という教授の〝謝り〟であった。
知日派・親日派の教授はそう言われたそうだが、勘違いした日本が悪い。なぜ勘違いしたかと反省すべきは日本の方である。
1980年代は日本が世界経済で存在感を最高に高めた時代。そしてバブル経済に入るが、「驕りがあのとき生まれた」と福川さん。
〝失われた30年〟は1990年代初頭から続く。ここは現実を直視し、再出発していく時だと思う。
新浪剛史さんの挑戦
企業は何のためにあるのか─。「企業は社会善のためにあると。これをやっていけば、企業も社会もwin-winになっていくと。こういう社会づくりに向けて、企業が大きく変わってきているなと。わたしたちはそういう企業の最先端でありたいと思っています」と語るのはサントリーホールディングス社長の新浪剛史さん(1959年=昭和34年1月生まれ)。
新浪さんは三菱商事在籍中に、流通のローソンプロジェクトに携わり、2003年ローソン社長に就く時、三菱商事を退社しての就任であった。つまり退路を断ってのローソン社長選択である。
ローソンを見事、成長会社に持っていき、サントリーの佐治信忠さん(サントリーホールディングス会長)からスカウトされる。
そのサントリーは米ビーム社を約1兆6000億円で買収し、グローバルな事業展開に挑戦し続けている。
新浪さんが社員に呼びかける。「一番重要なのはお客様であり、社会に喜んでいただく商品やサービスの提供。何より人間の命の輝きというところがすごく重要だと思っています。そういう意味で、常にワイワイガヤガヤ、そして関西の企業ですから、『おもろい会社』をつくりたい。おもろいというのは、ただ面白いだけじゃなくて、ワクワクすると。もっと面白く、何かユニークなことをやっていきたいよなという躍動感です」
共助資本主義を!
共助資本主義─。人間が生きていてよかったと思う社会づくりへ向けて、「変える勇気と変える力を付けていく。そのためには意志が必要です」と新浪さんは人を奮い立たせる共助資本主義を訴える。
社会課題を解決しながら企業は成長していくということ。
「政府だけに頼るのではなくて、民間が中心となる経済。民間の中には共助をつかさどるNPOの皆さんもいて、これがコミュニティの問題を解決していく。やはり、いい人が集まり、そういう人たち育ち、企業が成長していくと。そういう社会にしていきたいですね」
志と使命感の強い経済人の存在は実に心強い。
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