【倉本 聰:富良野風話】戦争
財界オンライン / 2023年3月26日 11時30分
どうして人間は自分の欲望を満たすために、こうも戦争を起こすのだろう。ウクライナに対するプーチン・ロシアの侵攻を見ていると、神は人間を創造されたとき、領土欲という特異なウイルスを人間の脳の奥底に埋めこみ、それが異常に濃密に増殖した人間が時々世に現れ、騒動を起こす。そういう仕組みに創られたとしか思えない。
【倉本 聰:富良野風話】異次元の改革
独占欲と面子と不寛容。こうした病原体が一体となって、人間の遺伝子に組み込まれている。そういう生物が脳を肥大化させ、科学技術という武器を手に入れて、他の種を圧迫し、戦争を始める。
こういう生物は地上に珍しい。
ライオンでも虎でも鮫でもワシでも、己の種族の存続のために、餌場となる己のテリトリーを守ろうと他の種と競うことはよくあることだが、それが名誉とか面子とか、生存とはいささか概念を異にする特殊な理屈のために猛然と行う生物は、まず人間以外そうは見られない。
相当特異にして不思議な生物である。
アフリカの野獣たちのドキュメントを見ていても、繁殖とか食のためにテリトリー争いをする例はよく見るが、面子とか怨恨のために戦う例はあまり見ない気がするし、大体いつまでも〝根に持つ〟という、しつこさを抱く生き物は人間以外そうはいない気がする。もしかしたらそれは人間の知能が発達したために、記憶力という厄介なものを背負いこんでしまって、いつまでも過去の恨みを忘れないという一つの人間の性かもしれないが、そう考えると第二次世界大戦の頃の話をあっさり忘れてしまうことのできる日本人は、まだまだ知能の発達がおくれている生き物で、いつまでもしつこく恨みを持ちつづけ、その怨恨が豊臣秀吉にまで遡ってしまう韓国の人々の知能の発展度は我々をはるかにしのいでいるのかもしれない。
いずれにしても知性的になる、とは厄介なことである。
アリとかミミズとかミジンコとかプランクトンとか、彼らがどのくらい痛みや悲しみの感情を持つのか、直接聞いたことがないから判らないが、彼らがもし人と同等にそうした感情を持ち合わせるなら、地球という星は一体どのくらいの怨嗟と憎しみに満ちた恐ろしい星になることだろう。もしかしたら昨今、世間を混乱とパニックに陥らせているコロナウイルスとか、それに類似する病原菌は、その怨嗟の声の具現化かもしれない。
ロシアとウクライナ。それを応援する共産圏と西側諸国の紛争がこれ以上エスカレートすることは何があろうとも阻止せねばならない。
我が家の近くに土地にこだわる有名人物がいて、深夜ひそかに境界線の杭を10センチくらいずつ移動するから気をつけろと役所の人に言われたことがある。プーチンさんの行動を見ていると、この時の紛争を思い出し、何となく微笑ましい気分にさせられるのだが、さてそんなことが原因で何千の人命が奪われるとなると。
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