【アマゾンや大和ハウス工業とも連携】ナスタ会長CEO・笹川順平が進める郵便受け・インターホンのDX化ビジネス
財界オンライン / 2023年3月28日 11時30分
どの家庭にも必ず1台はある郵便受けやインターホン。それが住宅セキュリティの要になる─。しかし、それらはテレビや掃除機などがデジタル化する一方、長らくイノベーションとは縁がなかった。そんな中、郵便受けやインターホンでホームセキュリティや再配達の低減を図る企業がある。創業93年を迎える住宅設備メーカーのナスタだ。単なるものづくりの企業から「問題解決型企業」へと変化しようとしている。
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30年間、技術革新が起こらず
「家電製品が進化してきた一方で、郵便受けはこの30年間、全く進化していなかった。玄関のインターホンも同様。これらを進化させることで社会課題の解決につなげることができる」─。こう強調するのは郵便受け・宅配ボックシェアでトップの住宅設備メーカー・ナスタ会長CEOの笹川順平氏だ。
同社の創業は1930年。初代社長の石井尚一氏が「建築金物」にいち早く目をつけて研究開発に着手。米国の会社で培ったノウハウを活用して日本で初めて「建築金物」の国産化を実現した。具体的には釘や蝶番、ドアノブといった身近なものだ。
その後、住宅に関わる金物の製品ラインナップを拡充。65年頃にはポスト、掲示板、室名札などの販売を始め、84年には集合郵便受けを発売。94年に宅配ボックスの発売も開始した。
笹川氏は「単純そうだが奥が深くて広い」と語り、自社の役割を「『住む』環境を良くするために徹底的に考え抜く」と話す。その一環が2014年のアマゾンジャパン、日本郵便との協業。
大型郵便物の再配達を減らすための大型郵便をポストインできる戸建て住宅用ポストなどを開発し、従来の集合住宅用郵便受けと同サイズながら投函口を大きくし、ほとんどのメール便が入る構造を施した。さらに防犯上の工夫として、投函口に荷物の抜き取り防止のガードを採用して盗難も防いだ。
さらにナスタの知名度を高めたのがコロナだ。宅配員との対面による受取りが感染懸念につながり、非対面による宅配の需要が急増。宅配事業者が軒先に荷物を置く「置き配」が広がった。だが、一方で盗難や水濡れなどの不安や被害も。そんな中で同社の宅配ボックスが注目された。その結果、20年3月の売上高は前年同月比で約2割増だ。
そして昨今、「ルフィ事件」のような戸建て住宅を狙った犯罪が頻発。住宅のセキュリティの在り方が問われる中で、同社は業界初の「24時間防犯カメラ」と「宅配専⽤ボタン」を搭載したインターホンを販売した。
24時間防犯カメラは訪問者の有無にかかわらず、インターホン内蔵のカメラで24時間、⾃宅前を録画。照明がなくても鮮明に撮影でき、留守録機能で訪問者の用件を映像と音声で後から確認することもできる。
また、宅配事業者が宅配専用ボタンを押すと、家事やテレワーク中、あるいは子どもが1人で留守番をしている場合でも、スマートフォン専用アプリの自動応答設定でインターホンが代わりに「宅配ボックスに荷物を入れてください」と音声で対応することができる。
家の中だけではなく、外出中でも自身のスマホで来訪者の確認や応答も可能だ。これらのサービスにより不在で荷物を受け取れず、宅配事業者が荷物を持ち帰って翌日に再配送する再配達を軽減することができる。
こういったナスタの機能が住宅メーカーの目にも止まる。大和ハウス工業とは24時間防犯カメラ機能付きインターホンを搭載した戸建住宅向け宅配ボックスを共同開発。大和ハウスが開発・販売する全国の戸建分譲住宅地にも順次導入する。
両社は17年から荷物の再配達の軽減に向けて戸建住宅への宅配ボックスの普及促進に取り組んでおり、同社の戸建分譲住宅地や新築・既存住宅オーナーを中心に、累計1万台以上の宅配ボックスを提供してきた。
笹川氏は「コロナ禍で家にいる時間が増えたことで、住宅侵入窃盗犯も家に人がいることを前提とするようになった」と指摘。不在時の空き巣対策を前提としたセキュリティからの変化が求められている。
3つの課題を一気に解決
「ナスタは問題解決カンパニーだ」と笹川氏は強調する。物流業界ではドライバーの人手不足や高齢化、IT化の遅れによって起こる「物流クライシス」の状況が続く。コロナ禍でEC物流が広まり、令和3年度の宅配便取扱個数は49.5億個。IT革命が起きる以前の1997年のデータに対して約3倍だ。
今後も荷物の増加基調は続く見込み。一方で荷物を運ぶ物流事業者には時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」も控える。「社会全体でドライバーや宅配員の負担を軽減させる努力が求められる」と大手物流会社幹部は指摘する。
その点、ナスタの新型インターホンを使えば、在宅のセキュリティと宅配ニーズ、再配達の防止という3つの課題を一気に解決することができる。
そんな笹川氏は日本財団会長の笹川陽平氏の次男。慶應義塾大学で開発経済学を学び、三菱商事に入社。2005年に米ハーバード大学行政大学院卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。約10年前にナスタと出会い、「郵便受けやインターホンで社会課題の解決ができる」と直感的に感じたという。
郵便受けの市場は約450億円、宅配ボックスは約150億円、インターホンは約800億円と「ニッチな市場」(笹川氏)であることに加え、これらの開発などには手間がかかる割には利幅が薄いということもあり、大手メーカーも本腰を入れることなくイノベーションが起きてこなかった。
もちろん、今後パナソニックなどの大手が追随してくる可能性は十分あり得る。そんな中で笹川氏はナスタが90年を超えるものづくりの歴史を踏まえ、「アプリなどのデジタル化を組み込んで革新的なものをつくっていく」と強調する。
たかがポスト、されどポスト─。デジタル化に取り残されていた郵便受け・インターホンが社会課題を解決する一助になる日が近づいている。
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