【論考】金融危機に備える!問われる経営者の覚悟
財界オンライン / 2023年4月17日 15時0分
世界の金融が抱えている「矛盾」
「世界の金融が抱えている矛盾が、ここへ来て一気に噴き出した。金融は常に矛盾を抱え込んでいるが、今回のそれが実体経済に与える影響は大きい」─。某有力エコノミストはこう分析する。
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まさに荒れる世界経済、金融不安である。米シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したのが3月10日。その2日後には米シグネチャー・バンク(ニューヨーク州)が破綻、3月16日には米カリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンクが経営危機に追い込まれ、同国の大銀行が救済に乗り出すという一幕もあった。
世界中に緊張感が走ったのは、名門・クレディ・スイスが経営危機に陥り、同国のUBSが買収するという発表(3月19日)。わずか10日足らずの間に銀行の破綻劇が相い次ぎ、そして救済劇である。
クレディ・スイスグループが発行した160億スイスフラン(約2.2兆円)の永久劣後債(AT1債)の価値をゼロにするというスイス監督当局の決定。この決定に世界中が危機の現実を見せつけられた。
今、世界中が危機モードに突入。〝ベイルアウト〟(公的資金の投入)や〝ベイルイン〟(株主や債権者の損失負担)といった言葉が飛び交う。クレディ・スイスの場合、その損失を株主や債権者が負担することになったわけで、これに不満を持つ関係者は訴訟の可能性を探るなど混乱が続く。
「金融は常に矛盾を孕むもの。キャリー・トレード、つまり短期で資金を調達し、長期で運用するという手法も、低金利が続いているうちはいいが、今のように金利が短期間に急上昇すると、損失が一気に膨らむ」とは前出のエコノミスト。
これまで世界中がコロナ禍やウクライナ危機から来る景気悪化に対応するため、財政出動、そして大規模金融緩和に乗り出していた。それがここへ来て一転して、インフレ抑制のための金利引き上げ、金融引き締め局面に流れが変わり、投資家も多大な損失を招いている。
預金金利が低い中で、投資家はMMF(マネー・マーケット・ファンド)に資金をシフトさせるなど、銀行からの預金の流出が進んでいたが、さらに加速し、リクイディティ・クライシス(流動性危機)を招くに至った。
今回の金融の動きを見て「世界は不況局面に入った」と見る経営者もいる。
植田・新日銀体制もスタート早々から正念場を迎えている。黒田東彦・前日銀総裁の金融政策は4つの柱で構成。①量的緩和(500兆円以上の国債を日銀が保有)、②30数兆円に上る上場投資信託=ETFの保有、③短期金利をマイナスにする、④長期金利をプラスにするものの上限を設定という骨子。
欧米での銀行破綻劇で、この4つの柱をどう修正していくのか。植田氏の手腕に注目が集まる。
この危機を日本の再生にどうつなげるか
日本は今、〝失われた30年〟からどう抜け出し、どう再生を図るかという岐路に立つ。1990年代初め、バブル経済が崩壊してから日本は成長をストップさせたままである。
安倍晋三・元首相による経済政策・アベノミクスでデフレ状態からは脱却したものの、GDP(国内総生産)はそう伸びていない。アベノミクスがスタートした時の実質GDP(国内総生産)は528兆円(2013年)、10年後のそれは545兆円(2022年)である。
アベノミクスの3本柱のうち、①大規模な金融緩和、②機動的な財政出動は機能し、デフレでない状態をつくったものの、③民間企業による成長という3番目の柱は未達である。
日本の産業界は大企業を中心に海外へ進出し、海外の成長を取り込み、自らも成長してきた。今、その海外市場が混乱と金融危機という厳しい局面を迎えている。
また、全企業の99%を占める中小企業は、これまで海外市場の成長の恩恵を受けているところは少なく、今回国内市場が縮小するような事態になれば、緊迫感が強まる。その意味でここは大企業、中小企業問わず、緊張感を持って臨む時である。
今回のショックをどう受け止めるべきか?
「マイナス局面ばかりではない。ある意味で市場の復活というものが期待できる」という声もある。人口減、新生児の誕生減が続く日本では、人手不足がこれから続く。
それを乗り越えるには、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの最先端技術の積極的な導入も進めざるを得ないし、「生産性の低い企業が市場から退出し、その分が新規企業の雇用として吸収されていくし、産業の再編成も進む」という見方もある。
ここは、厳しい局面を日本の構造改革の原動力にするという考え方であり、日本全体としてその方向に向かわざるを得ない。
経営者のモラールは高い!
幸いにして、日本の経営者のモラール(士気)は高い。本誌4月5日号で紹介したようにニデック(日本電産)会長・永守重信氏は「ここで一切の垢を出して、前へ進む」と2023年3月期の連結純利益は前年比56%の600億円台になる見通しを示した(従来は2020年3月期比でプラス21%の1600億円を見込んでいた)。つまり、この厳しい環境下で減損を行い、体質を強化し、新たな環境に備えるという姿勢である。
資源・エネルギー価格の高騰に伴う製品価格の値上げ、その値上げを原資に社員の賃上げをどう実現していくかという課題解決に向けて、経営者の覚悟が問われている。
米銀の相次ぐ破綻、そして名門クレディ・スイスの経営危機とUBSによる買収は、世界の金融業界のみならず、グローバル経済全体を震撼させた。米FRBやスイス中央銀行の機敏な救済措置で小康を得たが、不安心理が世界全体を覆う。この中をいかに生き抜くかという命題。折しも日本は日本銀行総裁が交代、植田和男氏が就任する。金融緩和の現状を一気に変化させることはリスクが伴い、「バランス感のある中央銀行政策をとるのではないか」という観測がもっぱらだ。ただし、日本が”金利の付く時代”へのとば口に入ったのは間違いない。人口減・人手不足、資源・エネルギー高騰という条件を抱えながら、企業経営のカジ取りをどう進めていくか。経営者の『覚悟』が問われている。
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