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三井住友銀行頭取・福留朗裕の「現場主義」経営 「用心しながらも楽観を忘れない」

財界オンライン / 2023年4月7日 7時0分

福留朗裕・三井住友銀行頭取

「10年間の過剰流動性の逆回転を懸念している」と厳しい表情で語る、三井住友銀行頭取の福留朗裕氏。欧米での金融機関の破綻、危機が世界及び日本に波及するかが懸念されている。その中で福留氏は「チャンスもある。見逃さないようにしたい」と用心しながらも好機を探るよう行内に訴える。リーマン・ショックなどの危機を乗り越え、トヨタ自動車の役員を経験するなど「多様性」を持つ福留氏のカジ取りは─。

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急激な利上げが「過剰流動性の逆回転」招く

「利上げと同じくらい警戒しているのは10年間の『過剰流動性』の逆回転」と話すのは、三井住友銀行(SMBC)頭取の福留朗裕氏。

 金融機関を巡る環境が激変している。米国ではベンチャーへの融資で知られたシリコンバレーバンク(SVB)や、暗号資産(仮想通貨)関連で知られたシグネチャー・バンクが破綻、さらにはファースト・リパブリック・バンクに対しては大手銀行が約4兆円の預金を拠出して救済する事態となった。

 また、欧州では大手投資銀行のクレディ・スイスの経営危機が表面化。スイス政府が介入する形で、同国の大手・UBSが救済買収することになった。

 頭取就任前、福留氏は持ち株会社、銀行ともにグローバル事業を担当して欧米市場を見てきた。その先行きの見通しについては半年前「米国市場については非常に弱気な見方をしていた。欧州はさらに厳しい」というものだった。

 その後、22年10月、IMF(国際通貨基金)の場で、欧米の金融機関のリーダー達と意見交換をする機会があったが、福留氏とほぼ見方が一致したという。当時、米国のリセッション(景気後退)については「五分五分」という見方が大勢だったが、福留氏自身は「もっと悲観的に見ていた」。

 ただその後、23年1月の「ダボス会議」(世界経済フォーラム年次総会)の際には、関係者に前向きな空気が漂っていたという。例えば米国の様々な経済指標はプラス、欧州は100年に1回と言われる暖冬でエネルギー消費が抑えられ、中国が「ゼロコロナ政策」を解除したことが好感されていた。だが、そこに起きたのが欧米で相次ぐ金融機関の危機。空気は一変した。

「昨年、ほぼ0だった米国の金利が、あっという間に5%も見えてくる状況で、影響が出ないはずがない。足元で米国の経済が強いといっても、タイムラグで悪影響が出てくる」と見る。

 実際、「過剰流動性の逆回転」で、例えばSVBで言えば、これまで潤沢に回っていた資金がベンチャーファンドにもベンチャー企業にも入らなくなったことで、苦しくなったベンチャー企業がSVBに預けていた預金を一気に引き出す「取り付け騒ぎ」を招いたという構図。

「今回はたまたまベンチャー業界で起きたが、同じことが他の場所で起きる可能性がある。それはしっかり見ていかないといけない」と緊張感を見せる。


「金利が付く時代」にどう備えるか?

 福留氏の銀行の経営を預かる立場としての姿勢は「cautiously optimistic」(用心しながらも楽観視している)というもの。「特に前段の『cautiously』の部分はしっかりメッセージを伝えていかないといけない」と話す。

 一方で「明らかにオポチュニティ(好機)はある。『撃ち方やめ』にはならない。お客様、マーケット、セグメント、セクターをきちんと選んでいけば、当然チャンスはある」と行内に訴えており、難しい状況下でも攻めの姿勢も忘れない。

 日本市場については「30年続いたデフレ脱却に向けた『分水嶺』を迎えている。日本単独ではできなかったが、今までの超低体温経済が少し熱を帯びてきて、モノに金利が付き、経済が活発化する世界に戻るチャンスが出てきた。銀行として、何とかこの流れをサポートしたい」と福留氏。

 2023年4月には植田和男氏を総裁とする日本銀行の新体制がスタート。当面は金融緩和を継続するものと見られるが、今後「マイナス金利」や「イールドカーブコントロール」(YCC、長短金利操作)といった政策を見直すようなことになれば、徐々に金利が付く世界に近づく。

 この「金利が付く時代」にはプラス・マイナス両面の影響が出る可能性がある。今まで「金利のない世界」で過ごしてきた企業、個人が果たしてどういう動きをするか。資産運用ではプラスに働いても、借り入れではマイナスに働くといった形で、影響は一様ではない。

「いずれにせよ大きな動きが出てくる。その時に我々には間違いなく、お客様のお役に立てるアドバイザリー機能がある。これまで溜めてきた力を発揮するチャンスだし、それを見逃さないようにしようと行内にメッセージを出している」(福留氏)

 今は「VUCA」(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)の時代と言われるほど変化が激しい。その中で問われるのは「敏捷性」(Agility)と「柔軟性」(Flexibility)だと福留氏。

 その意味で日本市場には法人、個人ともに可能性があると福留氏は見る。法人はこの変化の時代に自らの事業ポートフォリオを見直したり、「脱炭素」に向けた取り組みを強化しており、ここに銀行として機能を提供できるかが問われる。

 個人は、政府が「資産所得倍増プラン」を打ち出して以降「貯蓄から資産形成へ」の流れが強まる中、いかに資産形成をサポートできるかが腕の見せ所。

 これをデジタルと対面の「ハイブリッド」で行うというのがSMBCの戦略。「相続」など、対面でなければなかなか解決できないものは、より対面を強化する一方、デジタルで機能を提供すべきものは、思い切ってデジタルに振っていく。

 その「プラットフォーム」として23年3月から提供を開始したのが、個人向けの金融・決済のフルモバイルサービスを実現するスーパーアプリ「Olive」(オリーブ)。

 このアプリには銀行口座、カード決済、ファイナンス、オンライン証券、オンライン保険などの機能が一括で搭載されている。さらに1枚でキャッシュカード、クレジットカード、デビットカード、ポイントカードの機能を切り替えられる「フレキシブルペイ」という機能を持つ。これはビザワールドワイドとの共同開発で、世界初の機能。

「お陰様で、我々は銀行以外の関連会社も強い。この組み合わせで機能が提供できるのは我々しかいない。他社が真似しようと思っても数年はかかる。このアドバンテージを活かして、デジタルと対面のハイブリッドをしっかり進めていきたい」

 グループ全体で、この「Olive」を「金融サービスの新スタンダード」と位置づける。店舗のあり方も、このモバイルサービスと併せて考えていくことになる。このアプリから得られた顧客からのフィードバックを、いかに素早くサービスに反映していけるかも問われる。


米国ではネット銀行で個人への浸透図る

 海外市場での成長も重要。注力しているのは大きく「米国」と「アジア」。特に福留氏は約16年の海外勤務経験を持つ「国際派」だけに、その経験を活かせるかが注目されている。

 米国では銀行と証券の連携ビジネスが柱。「1つの言語、1つの法律、1つの規制の国で、こんなにありがたいマーケットは唯一無二。リスクもあるが、成長しているマーケットだけに、我々がさらに食い込む余地は十分にある」

 さらに、米国ではネット銀行を通じて個人向け金融に参入。SMBC傘下で、カリフォルニア州ロサンゼルスに本拠を置くマニュファクチャラーズ銀行の一部門としてネット銀行「ジーニアス・バンク」を立ち上げた。

 個人向け無担保ローンの提供から始めて貯蓄性預金や住宅ローン、クレジットカードなど順次、品揃えを広げていく考え。

 ゼロからのスタートだけに経営の重荷になるような店舗などの「レガシー」を持たないため、身軽に動けることが強み。コストを抑えたデジタル金融に特化する戦略。

 この領域はIT企業の攻勢も激しくなっている。だが、彼らの壁になっているのが「銀行ライセンス」。スマホ銀行といえども、銀行ライセンスの取得には10年かかることもあり得る。この点はSMBCにとってアドバンテージになる。

 この分野には、米大手投資銀行・ゴールドマン・サックスもネット銀行「マーカス」で参入しているが苦戦中。市場からは早く市場を取ろうと無理な計画を進めていると見られている。

「マーカスは研究している。米国では肥沃なマーケットの中でリテールも、デジタルも伸びている。我々が少しのポーション(一部分)を取るだけで、まとまったビジネスになる」

 先行事例も研究しながら、無理をせず、着実に成長を目指すという考え方。

 アジアでは「マルチフランチャイズ戦略」で、中長期でアジア各国にSMBCのフルバンキングサービスを根付かせるための取り組みを進めている。

 3月27日には、ベトナム民間銀行2位のVPバンクに約2000億円を出資、持分法適用会社とすることを発表した。

「アジア戦略はまだ完成形ではない。かつて標榜した『第2、第3のSMBCグループを他国につくる』ということを、時間をかけてやっていく」(福留氏)


トヨタ自動車で目にしたものとは?

 金融、銀行は時代の変化とともに姿かたちを変えている。福留氏は銀行の将来像をどう見据えているのか。

「『銀行』という言葉はなくなっているかもしれない。今は銀行法など規制の中でできないことも多いが、徐々に垣根がなくなっていくと思っている。将来的には、金融を軸に自ら事業を手掛ける『金融が得意な事業会社』になっていくのではないか」

 福留氏は1963年1月岐阜県生まれ。85年一橋大学経済学部卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)入行。大学ではラグビーやボクシングをやることも考えたがアイスホッケーを選び、4年間打ち込んだ。みずほフィナンシャルグループ社長の木原正裕氏は後輩で、1年間共にプレーをした間柄。

 銀行を志望したのは、「多くの人とつながりを持ち、様々な業界にコンタクトできる銀行に入れば、自分の選択肢が広がるのではないかと考えた」から。SMBCで旧三井銀行出身者が頭取に就くのは初めてのこと。

 入行後は、市場部門で為替ディーラーとしてキャリアをスタートし、前述の通り国際畑を中心に歩んだ。97年から始まった「アジア通貨危機」、08年からの「リーマン・ショック」には最前線で対応。「世の中が短期間で悪くなっていく瞬間を目の当たりにした。その時に現場にいたことでわかる〝肌感覚〟があることで、今のような不透明な時にも感度高く反応できるのではないかと思う」

 リーマン・ショックの後にはリストラの実行も経験。特に一緒に危機を乗り越えた「仲間」をリストラした経験は「トラウマになっている」と振り返る。「その経験があるからこそ、普段から部下との関係をより一層大事にするようになった。これは私のマネジメントの根底にある」

 さらに福留氏は18年に頭取(現会長)の髙島誠氏から指命されて、トヨタ自動車本体の常務役員、グループで金融事業を手掛けるトヨタファイナンシャルサービス(TFS)社長に就任、銀行を退職した経験を持つ。一度銀行を退職した人物が頭取に就くのも初めてのことだ。「違うカルチャーを経験している。外の文化にどっぷり浸かってきた。日本を牽引する産業、しかも銀行のお客様サイドにいたということも貴重な経験」

 福留氏はトヨタ時代を「何事にも代えがたい経験」と振り返る。入社後、トヨタ社長(現会長)の豊田章男氏との面談で直接ミッションを伝えられた。

 その時に言われたのが「金融だからといって金融だけ見ないで、現地を全て見てきて欲しい。販売店、工場を全て見て、トヨタがどういうオペレーションをしているか、全て現地・現物で見てきて欲しい」ということ。福留氏はそれを愚直に実行し、40カ国の拠点を回った。

「『生産台数1000万台』と一言で言われるが、グローバルで人の命を預かる自動車を作ることの凄み、現場のこだわりを見ることができた」

 さらにグローバル企業のカジ取りをする豊田氏の経営にも間近で触れた。「トヨタという巨大組織を、トップが悩みながら変革させようとしている姿を目の当たりにしたのは貴重な経験」

 トヨタでは、国内初の自動車サブスクリプションサービス『KINTO』を立ち上げた他、販売金融の強化に尽力。

 そうした経験を基に福留氏は「銀行自身も変わっていかなければいけない。変化のスピードを変えていくことが大事」と行内に訴える。

「私がSMBCで好きなカルチャーは『現場主義』。現場しか知らない私が頭取になったことで、この現場が大事だということを、もう一度強調していく」

 再び世界が危機の時代に陥りかねない今、かつての危機を知り、トヨタで「他流試合」を経験した福留氏の力量が問われる局面である。

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