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「米国株は波乱相場、下落が続く。日本は30年続くデフレを脱却できるかが問われる」スガシタパートナーズ・菅下清廣

財界オンライン / 2023年4月11日 18時0分

菅下清廣・スガシタパートナーズ社長

世界の中央銀行はコロナ禍を受けて、「未曾有の金融緩和」を続けたが、それによるインフレを受けて、急激な引き締めに転じた。それによって米国の銀行2行の破綻、欧州の大手投資銀行の経営危機にまで発展。日本の動きはどうか。「日本は脱デフレの好機を迎えている」と菅下氏。「失われた30年」が続いてきた日本が浮上するために必要なこと、そして今後の世界の株式市場の動きをどう読むか─。

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足元の危機と長期の市場の動き

 ─ 2023年3月に米国でシリコンバレーバンク(SVB)など2行が破綻、スイスの大手投資銀行・クレディ・スイスが経営危機で同業のUBSに買収されるなど、金融引き締めの副作用とも言うべき厳しい状況になっています。現状と今後をどう見ていますか。

 菅下 米国でSVBなど脆弱な銀行が破綻して市場に動揺が走り、その影響が株安、世界の金融市場の動揺にもつながりました。加えて、クレディ・スイスの経営危機も起き、動揺のインパクトが大きくなりました。それらを織り込む形で日米の株価の下落につながったわけです。

 ─ 米国株式市場の先行きも厳しい状況ですね。

 菅下 米国株式市場は当分、低迷が続くと見ています。なぜなら22年1月に歴史的な天井を付けたからです。

 ニューヨークダウは1982年の776ドルを底に、22年1月の3万6952ドルまで40年間上昇してきました。この要因は40年間、米国で金利が下がり続けたからです。

 米国の金利のピークは1981年9月の15.84%です。それが20年8月には0.52%まで下落しています。もちろんこの間、様々な事象があったわけですが、シンプルに言えば、この40年に及ぶ金利の下降と金融緩和で米国の株価は上がったのです。

 今、FRB(米連邦準備制度理事会)が金利を上げたことで株価は下落しているわけです。金利を上げると株価が下がるという相関関係がありますが、1年のタイムラグがあります。81年9月の米金利は天井を付けましたが、1年後の82年8月に株価は底入れしています。

 ─ 歴史的に金利と株価には連関性があると。

 菅下 ええ。直近で見ると、米国の金利は20年8月に底入れしていますが、先程の1年のタイムラグ通り、21年9月に米ナスダックが一番天井を付けているんです。一般的にはニューヨークダウを指標として解説されますが、近年の米国株はナスダックが牽引していますから、波動から見てナスダックの動きを見ることが重要です。

 21年11月にはナスダックが歴史的な二番天井を付け、その2カ月後の22年1月にニューヨークダウが歴史的天井を付けたという流れです。40年間の金利下降があり、底入れして上昇してきていますから、この金利上昇は長期に及ぶということが波動からもわかります。

 ─ 当面の目安となる金利水準はどの程度だと?

 菅下 米金利の天井が15%、それが0%台まで下落したわけですが、半値戻しは7%前後になります。ですから、時期は不明確ですが将来的に6~8%という上昇は見ておく必要があります。

 米国の株価は一時的に戻ることはあっても波乱相場で、前の高値を取り返すのは当分難しいでしょう。上がっては下げを繰り返すうちに、ジリジリと安値を切り下げることになります。


円安は「脱デフレ」につながるのか

 ─ 日本への悪影響の波及も懸念されますが。

 菅下 金融市場の動揺という点では日本への影響は少ないと見ます。一部、経営基盤が脆弱な地方銀行への影響が出る恐れがありますが、日本の金融秩序全体には問題はないでしょう。

 ただ、本来であれば、米国の動揺につられて株価を下げる必要はないわけですが、連動して日本の株価も下落しています。

 株式市場は、長期的にはファンダメンタルズ(経済の基礎的指標)で動きますが、短期的には人間の「心理」で動きます。個人投資家は目の前に出ている「SVB破綻」、「クレディ・スイス経営危機」という情報で不安を抱いていますし、米国のインフレ、それを抑えるための金融引き締めも続きそうだということで、それに伴うリスクを懸念しています。

 ですから、新しい買い手が出て来ず、弱気の個人投資家、企業が売りに出たことで、日米の株価が下落したのです。

 ─ 今後の株式市場の動きをどう見ていますか。

 菅下 米国株は先程お話しましたように、歴史的な天井を打った後の下落、調整局面が続きます。しかし日本は、30年以上続いたデフレを脱却しインフレに向かおうとしている最中です。

 日本も歴史のサイクルで見ていく必要があります。日本では戦後5回の大相場がありました。我々の記憶に残る1989年12月の日経平均の最高値3万8915円を付けたのが5回目ですが、5.6倍になりました。

 この大相場ではほとんどが出発点から5倍以上になっています。4回目は例外で、途中にオイルショックが起きたことで景気が腰折れし、出発点から2.39倍の上昇にとどまりました。

 今回の相場は08年のリーマンショックを織り込んだ安値、09年3月の7054円からスタートしました。3倍ならば約2万1000円、4倍で約2万8000円ですが、これはすでに超えましたから今後、5倍の3万5000円を目指す展開となっています。

 ─ 問題は、この3万5000円をいつ付けるかですが。

 菅下 ええ。価格、時間の「波動」とも将棋や囲碁と同じように「定石」がありますが、上げ幅の半値戻しというのが攻防の分岐点となります。「半値戻しは全値戻し」という相場の格言がありますが、半値戻しの壁を突破したら、以前の高値を取りに来るというのが相場の波動です。

 その意味で、今の日経平均は半値戻しの壁、約2万3000円を突破しています。相場の波動から見ると、まず当面は3万5000円を目標とし、2、3年内にはバブルの天井、3万8915円を付けるというのが相場観となります。

 ─ ただ、足元で日経平均が上がる材料が見えにくいというのが正直なところです。

 菅下 株価が上がる材料は、まず円安です。22年10月には32年ぶりに1ドル=150円台を付けましたが、この円安で「脱デフレ」の可能性が出てきたんです。

 4月交代の日本銀行総裁の黒田東彦氏は23年1月の「ダボス会議」で、10年かけて物価目標2%を達成できなかったことが心残りだという趣旨の講演をしていましたが、32年ぶりの円安という神風がやってきました。

 円安では輸入インフレで物価が上がります。この物価上昇で多くの人が円安に対して不満の声を上げていますが、日本は物価目標2%を目標にしており、物価を上げたがっている国です。マイナス金利が続く限りはデフレを脱却できませんから。

 ─ 円安によってデフレを脱却する可能性が出ている?

 菅下 そうです。ですから、金融緩和は当面継続する必要があります。日銀新総裁の植田和男氏は、黒田氏の目標を引き継いで、まずは1年以上、物価目標2%に向けた金融政策を実行するものと思います。

 23年1―3月期が日本の景気と株価の底となり、4月以降は新しい上昇波動が株式市場で始まるだろうと見ています。


金融危機は抑え込めるのか?

 ─ 米SVBなどの破綻を受けた政府による預金保護、UBSによるクレディ・スイス買収で、当面の危機は抑えられると見ますか。

 菅下 ええ。なぜなら、欧米では08年のリーマンショックの際、リーマン・ブラザーズを破綻させたことは「失敗だった」という反省があるからです。

 この破綻は、世界的な金融恐慌につながりかけました。規模の大きい金融機関を破綻させることは、メリットよりもデメリットの方が大き過ぎるということを欧米を始め、世界の市場関係者が学びました。

 FRBやECB(欧州中央銀行)など中央銀行が「最後の貸し手」となり、いかなる金融危機にも対応することが予想されますから、それによって危機は抑え込めるのではないかと見ます。例えば、今回のクレディ・スイスの危機では、UBSによる買収が成立しなかった場合、スイス政府が国有化することも検討したと報じられました。

 ─ 以前から、欧米の金融引き締めによる景気後退の可能性は指摘されていたものの、いきなり金融機関の破綻、経営危機が起きたことについては市場の警戒感が強いものがあります。

 菅下 これは新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、世界の中央銀行は「未曾有の金融緩和」を実行しました。

 中でも、最も大規模な金融緩和を行ったのは米国です。そのFRBが急激な金融引き締め、急速な利上げに転じたことで、脆弱な金融機関が危機に陥ったのです。

 かつて日本のバブル崩壊の時には、当時の日銀総裁の三重野康氏は「やり過ぎ」たわけです。これによって今なお、「失われた30年」が続いています。そして米国で銀行が破綻、株価が下落している現状を見ると、FRBも、すでに「やり過ぎ」ている可能性があります。

 さらに、米国経済にとっての悪材料は、現在のバイデン政権が「増税路線」だということです。増税と金融引き締めは景気悪化、株価下落につながります。加えて、ロシア・ウクライナ戦争などの地政学リスクもあります。

 その意味で、米国の株価が上昇する材料は足元では見当たりません。それに比べれば日本の状況は金融緩和が継続され、ロシア・ウクライナ戦争に直接は関係していないということで、日本の株は今後上昇する可能性が高まっています。


大企業、ベンチャー問わず「革新」目指す企業が買われる

 ─ 日本の個人投資家は今後、どのようなスタンスを取ればいいと?

 菅下 4月以降は3月までの投資テーマとは変わってくる可能性があります。3月までは「バリュー株投資」で、好業績・高配当の海運、鉄鋼、商社を買う相場が続いてきましたが、3月末で「配当落ち」すると、材料織り込み済みで売られることが多いからです。

 ここからは、今後の投資テーマが何になるかを模索していくことになりますが、その手がかりは、これから発表される3月期決算にあります。4月中旬から5月中旬にかけて決算が出てきますが、その中で業績見通しのいいものが買われることになります。

 それが引き続き、海運、鉄鋼、商社などのバリュー株なのか、あるいは話題となっている「対話型AI(人工知能)」などのテクノロジー関連なのかを見極める必要があります。

 バリュー株も、引き続き業績がよく、高配当が続くといった見通しになると「配当落ち」後も、それほど株価が下がらない可能性もあります。

 ─ 新たな企業が成長し、資金が集まることは、日本全体の成長にとって重要ですね。

 菅下 そう思います。今後、日本の株価が上昇していく時に最も大事なテーマは技術革新、イノベーションです。大企業、ベンチャー企業問わず、革新、改革を目指している企業が買われることになるでしょう。

 ─ 日本では賃上げの機運は大企業を中心に高まっていますが、生産性が上がらないままだという課題があります。中小企業などはなかなか賃上げができないという声も強い。

 菅下 ええ。ただ、多くの企業が「業績がよくないので賃上げができない」というわけですが、このデフレ的発想が日本の「失われた30年」を招いたと思います。発想を「業績が悪いから賃上げができない」ではなく「賃上げをしたら業績がよくなる」という方向に転換する必要があります。

 デフレの時は価格を安くしないと売れませんが、インフレの時代には価格を上げないと利益を上げることはできません。利益が出れば賃上げができる。

 物価が上がったら人々は以前の給与水準では生活できませんから、企業に賃上げを要求します。企業は労働力を確保するために賃上げし、その分は価格に転嫁するというのが米国などのインフレスパイラルです。日本は逆のデフレスパイラルを続けてきました。

 ─ 日本は商品価格を上げることに根強い抵抗があります。

 菅下 日本は長年、低賃金・低価格に慣れてしまってきたことによります。企業も個人もデフレマインドに浸かって、その間株価も上がらなかった。この流れを変える必要があります。

 どちらにしても、23年第2四半期の4月以降、脱デフレ、株高のニュートレンドが始まるものと予想しています。

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