BNPパリバ証券・河野龍太郎氏の提言「管理職の『遅すぎる選抜』を改めることが経済再生につながる」
財界オンライン / 2023年4月15日 11時30分
日本的雇用の特質の一つは「遅い選抜」だ。勝者も敗者もすぐには確定せず、敗者復活戦もある「遅い選抜」は、モチベーション維持に有用な制度と考えられていた。1990年代前半までは、課長になるのは入社後15年、部長で20年と言われていたが、90年代後半以降の低成長の時代になると、さらに時間を要するようになった。
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技術の陳腐化が著しくなった90年代後半以降、管理職の選抜に20年も要するのは、あまりに「遅過ぎる選抜」となっている。むしろグローバルな経済環境の変化は、以前に比べ「早目の選抜」を要請しているはずだ。どこの会社も仕事全体の流れを把握し、それを改善できるイノベーション能力を持つ人は概ね2割程度に留まるが、もう少し早い段階で彼らを管理職に昇進させることが、日本の産業界の再生につながるはずだ。
筆者は、現在でも長期雇用そのものは、人材を選抜する上で、有用な制度と考える。良い人材かどうかを見極めるには、ある程度時間をかけ、複数の人の判断が必要だ。能力を発揮できるかは、周りとの相性も大きいが、欧米型の人事制度をそのまま日本に移植すると、上司に取り入る胡麻すりだけの人材や、一発屋の人材が誤って抜擢され、組織の沈滞を招く恐れもある。
ただ、長期雇用が望ましいとはいえ、終身的な雇用の下で、管理職の選抜に20年以上も競わせるのは、企業の成長の桎梏になるだけでなく、その仕事や会社に必ずしも向いていない社員まで長く囲い込み、外部組織での再チャレンジの可能性を奪い去ることにもなる。会社が変わると、なぜか上手く行く人も少なくない。労働者にとって良かれと思って、組合は雇用維持を最優先課題とするが、終身的雇用制度でチャンスを逃す人も少なくないのである。
日本社会では、大企業経営者に、正規雇用維持の過大な責任を負わせているが、それを和らげる必要があるだろう。拙著『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)でも詳しく論じた通り、国が雇用に対する責任をある程度引き受け、職を失った場合には、就業訓練の受講を条件に、手厚い失業給付を支給する北欧型の積極的労働市場政策の導入が不可欠だ。新たなスキルを身に着けることができない正規雇用を抱え続けるために経営者がリスクを取れず、イノベーションが滞ることも日本企業の成長が滞る大きな理由だ。
巷間、リスキリング論が活発だ。生産性上昇率の低迷の原因が、人的資本の蓄積の停滞にあることが正しく認識されてきたのが背景にあるのだろう。ただ、多くの政策論で語られるのは、AI人材など一部の高度な専門性をもった人材への人事施策のようなものばかりであり、その他大勢の普通の労働者を念頭に置いたものにはなっていない。現場での熟練やキャリアを抜きにした政策議論では、机上の空論に終わるのではないか、心配される。
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