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中前忠氏の警鐘「金利上昇で起きる危機は止められない。起きた事象にどう対応するかが各国に問われている」

財界オンライン / 2023年5月8日 7時0分

中前忠・中前国際経済研究所代表

「野放図な金融緩和をやめれば、今のような問題が起きることはわかっていた。それを見ないようにしてきたのが、今の通貨当局」と厳しく指摘する中前忠氏。米国での銀行破綻、欧州でのクレディ・スイスの危機は、個別銀行の問題ではなく、これまで世界各国が続けてきた金融緩和と、それを受けたインフレ退治のための金利引き上げが引き起こした構造的問題だという中前氏の今後の見通しは─。


「逆ザヤ」に陥り収益が悪化した銀行

 ─ 米国、欧州での金融引き締めの副作用で、米銀2行が破綻、欧州の名門・クレディ・スイスがUBSに救済買収されるなど、短期間に危機的状況になりました。この問題をどう見ていますか。

【あわせて読みたい】【株価はどう動く?】欧米の「信用不安」で株価は一進一退、「質への逃避」は日本にどう影響?

 中前 金融を緩めたことから起きた、ある種の構造が壊れてきていると見た方がいいと思います。銀行というのは、構造的に常に問題を引き起こすようにできています。

 それは何かというと、銀行は「キャリー・トレード」、つまり短期で借りて、長期で貸すというビジネスモデルです。金融緩和が長く続くと、長期で、低金利で大量に貸し付けるという形になります。これは長期ですから、そう簡単に金利を変えることはできません。

 ところが、インフレが起きて、今回のように急激に金利を上げなくてはいけないということになると、短期金利が急騰します。そうすると銀行にとっては、貸出金利を動かせない中で、調達金利が急速に上がります。

 ─ 逆ザヤになるということですね。

 中前 そうです。この逆ザヤになることで1つ問題が起きます。それは銀行の収益が急激に悪化するということです。そういう時に問題含みの銀行は、一足早く潰れていくわけですが、それが今回のシリコンバレーバンク(SVB)です。この銀行の名前は、今回のバブルの主役だったハイテク産業の問題が象徴的に出ています。

 もう1つの問題は、短期金利が急騰してくると、預金金利の低さが目立ってくることです。そうすると例えば米国では、マネー・マーケット・ファンド(MMF、公社債などを投資対象とする投資信託の1つ)が預金より金利が高いということで預金からのシフトが起こり、銀行が資金繰りに困るという「リクイディティ・クライシス」、つまり流動性の危機が起きてきます。

 この銀行の利益低下と流動性危機の2つが同時に起きているのが、今回発生している問題の基本構造だと思います。

 ─ この構造は米国も欧州も、そして日本でも同じだと。

 中前 同じです。欧米でも日本でも、銀行の大小にかかわらず問題が起きています。

 もちろん、短期的には小さい銀行の方が心配だということで、米国では地方銀行から大銀行に預金が流れるという現象が現に起きています。しかし、それはメインではなく、一番の問題は預金がMMFや短期国債などに直接流れて、銀行部門から資金が流出していることです。

 ─ 銀行からの資金流出は金融システムの問題を招きかねませんね。

 中前 そうです。預金流出が激しくなると、いろいろと銀行に流動性を与える政策を採るわけですが、基本は預金金利よりも利回りが高い商品があれば、そこに資金が流れていくことです。

 米国ではMMFの利率が5%前後なのに対して、預金金利は1%以下が多い。そうすると預金金利を相当上げなくてはなりませんが、そうすると銀行のマージンがなくなってしまうという問題になる。

 そうすると中央銀行は短期金利が上がってきたのを抑えて低くするか、ということになりますが、そうすると今度はインフレをどうするのかといった問題が起きます。インフレを完全に潰す前に緩和政策に移るのか? という話になりますから、そこはなかなか決めかねるということだと思います。

 しかし市場の方から言うと、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げは大体終わったのではないかと見られています。

 ─ これは5%が限界だと言われています。

 中前 最終的に行き着く利上げの金利、「ターミナルレート」が5%前後ということで、放っておけば銀行から資金が出ていく。それをどうするかが一番の問題だと思います。


金利上昇による混乱にどう対応できるかが勝負

 ─ この流動性危機は、今後どういう事態を招くと。

 中前 このまま行くと、中央銀行がある程度助けても、銀行としては資金繰りなど様々な問題を考えると、貸出を抑制せざるを得なくなります。その意味で、景気は、私はすでに不況に入っていると見ていますが、それがさらに早まってきます。

 そうすると、銀行は、金利が上昇したことで保有債券が値下がりして含み損が出ていることに加えて、不良債権がどんどん増加していきます。それがまた問題を引き起こすことになります。

 その意味で、本当は打つ手はないのです。何が原因かというと、あまりにも長期に、野放図に金融を緩め過ぎたことです。これをやれば、どこかでインフレになるわけですから、必ず今のような問題が起きることはわかっていたわけです。それを見ないようにしてきたのが、今の通貨当局ではないでしょうか。

 今回の一番の問題は、2021年に当時のインフレを「一時的だ」として無視したことです。ところがさらにインフレが加速したことで、慌てて利上げを急いだ。結果的に問題が早く出てきました。

 ─ 中央銀行の問題ということになりますね。状況を打開する道はありますか。

 中前 基本的にはありません。結局、市場の力で金利が上がり、大混乱が起きますが、それにうまく対応できるかが勝負だと思います。

 これは個別銀行の問題ではなく国の問題です。政策には崩壊現象を食い止める手段も力もありませんから、問題は起こるべくして起きます。

 元々「ゼロ金利」は市場を潰す政策でしたから、その観点で言えば金利が上がるのはいいことなのですが、ただ金利が、例えば日本で0%程度だったものが一気に3%、5%になると、それで潰れる企業や、住宅ローンを抱えている個人にも悪影響が出ます。そうすると、そこに貸している銀行がまた傷むという問題になります。

 ですから、起きたダメージに対してどう対応するかというのが重要で、問題を起きなくさせるということを考えるのは、もう無意味だというのが私の見方です。

 ─ 危機が起きることを前提に動く必要があると。

 中前 ええ。これから現実に、企業倒産、銀行も潰れることになるでしょうし、個人の破産なども増えるでしょう。それをどう処理し、どうやって将来の日本の経済成長にとってプラスになるように持っていくかが問われます。


FRBに打つ手はあるか?

 ─ 今回の危機の端緒となった米国で、FRBの打つ手はあるのですか。

 中前 私はないと思います。今回の問題でFRBは流動性を与える方策を取っています。国債を中心に値下がりをしているわけですが、例えば100円の額面のものが70円になっていても、額面100円に対してお金を貸し付けるということで、損切りをしないでもいい手段を与えることでショックを和らげようとしています。しかし、これは一時的な手段です。

 先程申し上げたように、他に預金金利よりも高いものがあれば、流動性を与える方策があっても、預金は出ていきます。お金は高い金利に流れますから。

 特に米国で問題になっているのは、預金の4割ほどが預金保険の効く25万ドルを超えていることです。最初の米銀2行の破綻では預金を全額保護しましたが、これからは預金保険が効かない部分は助けないと、イエレン財務長官が議会証言していますから、それをそのままにして問題に対応できるのかということがあります。

 ─ 今後起きる可能性がある破綻では預金を保護しないということですね。

 中前 そうです。政治的には、25万ドル以上の部分を保護するのは、金持ちを優遇することになるという批判が出ています。しかも、全体の預金の4割がそういう状態。今、流出している預金は主として、その部分です。

 流出した預金は、大銀行だけでなく、先程申し上げたMMFにも流れています。これはリーマン・ショックの時に、MMFの半分以上は政府保証が付くようになったのです。それもあって預金が流れている。

 預金者としては、身を守るには逃げるしか手がありません。政府保証があって、銀行よりも安全で、しかも利回りが高いとなったら、そちらに行きます。

 ─ すでに不況局面に入ったと見ていいですか。

 中前 私は不況局面に入っていると見ています。入っていないとしても、不況に入る可能性は高まっていますし、むしろ不況は加速するという見方です。

 ─ 世界経済全体にとってマイナスですね。

 中前 非常にマイナスですね。これは米国だけでなく欧州もそうですし、日本も今は何もないように見えていますが、例外ではありません。

 ─ コロナ禍で経済が厳しい状況に置かれた時に、各国が一斉に金融緩和を行ったわけですが、その時から予測できていた事態だと。

 中前 それ以前から、各国中央銀行はやり過ぎていました。コロナ禍の前から警戒が必要だと言われていましたが、コロナ禍で短期的に景気が非常に悪化しましたから、2010年代の超金融緩和バブルが潰れかけていたところに、もう一度バブルをつくったのです。

 ─ その反動が今、始まろうとしている。

 中前 そうです。コロナバブルの反動に加え、リーマン・ショック後に作った問題とも重なってきています。長期的な超金融緩和、短期的なバブル的緩和、その両方が潰れかけています。


今回の危機は起きるべくして起きた?

 ─ 金融は、ある意味でこういうことを繰り返していくと。

 中前 ええ。金融に加えて、今回はハイテク産業です。経済成長の主役となる産業と、金融、不動産は常に密接に結びついています。今回はハイテク産業、それに伴う不動産、金融という3つのバブルが同時に崩壊してきています。米国の地価で最も下がっているのは、都市別でいうとサンフランシスコです。いわばシリコンバレー不況です。

 商業不動産でも、新ビルが満床になったのは、ハイテク企業がどんどん入居したからですが、それがどんどん出て行くようになる。レイオフを見ても、ハイテク企業が最も激しくなっています。

 これまでのハイテクブームと、ハイテク企業を受け入れる不動産ブームを支えたのが金融です。その意味で、SVBが破綻したのは象徴的です。

 ─ 今回の危機は起きるべくして起きたということですね。ただ、米国経済が落ち込むと世界同時不況に陥りかねません。

 中前 ええ。米国以外の国は、米国がバブルで、どんどん輸入をしてくれたから成り立っていた面が大きい。

 ─ 米国の貿易赤字が他国を支えた。しかし今、米国の赤字が急速に縮小していますね。

 中前 米国全体でピーク時から4割、対中国の赤字は半分になっています。この傾向は今後、さらに強まってきます。

 欧米で起きている問題とは別に中国問題があります。中国も米国への輸出が落ちますが、同時に中国独自のバブル、不動産バブルの崩壊で、中国自身が表で言っているよりも、実態はさらに状況は悪くなっています。

 ─ 日本はどう考えていけばいいと思いますか。

 中前 日本も例外ではありません。タイミングとしては、日本は遅れていますが、日本の状況が悪化するだろうというのは、貿易赤字がどんどん大きくなっていることからもわかります。

 特に1990年代から対外投資をやり過ぎて、日本から輸出をしなくなっていた。輸入は経済成長とともに増加するわけですから、経済成長に伴って貿易赤字が増えるという話です。

 これは量的に見た話ですが、最近の問題は金額的に見れば円安になって輸入価格が上昇して、赤字がさらに増えていくという問題があります。したがって円安政策をやめて円高にしなければいけないということになります。

 ─ 足元で1ドル=130円台、一時は150円まで行きましたが、どの水準までの円高を見通しますか。

 中前 少なくとも100円以上の円高になる方向に向かわなければ問題だと思います。

 ─ ファンダメンタルズ(経済の基礎的指標)的に、日本にその実力がある?

 中前 相当努力しなければいけないでしょう。放っておけば、むしろ円安に向かってしまうことになります。

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